第125話「導きだした答え③」
ようやく、すべてを終えたライム達は時の塔へと帰還する。
時の塔の前では、救護班が総出で待ち構えていた。
まずはダイキが、背負っていたキリシマを降ろし、時の民一同でキリシマを塔の中へと運び入れる。
その後にダイキやレオナ──そればかりか傷ついた解放軍にも、救護班は治療を施す。
もう敵味方は関係ない。
救護班は差別なしに、傷を負った者を救うのみ。
キリシマが敗れたことで、早くも島の平和の訪れが垣間見えた気がした。
もちろん、派手にやられたライムとミサキもしっかりと治療を受ける。
そして簡単に治療を済ませた二人は、その足でナヴィと共に老師のいる天上階へと急いだ。
ライム達が天上階に辿り着くと、老師が笑顔で出迎える。
「よくやってくれた! ナヴィに救世主達よ!!」
ナヴィも笑顔で応じ、自分のことよりもまず、ライムとミサキの二人を讃えた。
「いえ、とんでもございません。やったのはすべてライムとミサキ。それと老師様が送り込んでくれた、塔の罪人達のおかげです!!」
ナヴィが老師に感謝の言葉を述べていると、老師とは別の人物がもう一人颯爽と現れ、ライム達を祝福した。
「本当にやってのけるとは……感謝してもしきれない思いだ! ありがとう。みんな」
その人物とは──
解放軍キリシマのペア、キリシマ博士だ。
「博士!! いいのか? もう釈放されて出歩いてても?」
塔の地下の最下層にある、特別独房室に幽閉されていたはずのキリシマ博士が、なぜか許された者しか入ることができない、天上階にいる……
ライムはナヴィの方をチラッと見た。
「僕が博士をここに呼んでおいたんだ。なにせ装置の犠牲者を救う、一番の鍵を握る人物はキリシマ博士だからね! それと、今は特別独房室には解放軍キリシマがいる」
博士は解放軍キリシマと入れ換えになる形で、独房から釈放されていた。
あのボーダー柄の囚人服を着た博士の姿はない。
そればかりか、以前より博士の見た目は小綺麗になっており、まずその違いにミサキは驚いていた。
「さっき博士を見た時はびっくりしちゃったよ! あまりにも前回との見た目が違いすぎて……最初、あの解放軍のキリシマがいるのかと思っちゃった……」
博士は長いこと切っていなかった、ボサボサに伸びた髪の毛をばっさりと切り、伸びきった髭は綺麗に剃った。
おしゃれのためか、口髭だけはちょこんと残している。
また、服はビシッとスーツできめており、これぞまさに科学者といった感じだ。
しかし、綺麗になりすぎたゆえに、今度は逆に解放軍キリシマとそっくりになってしまった。
違いは口髭くらいで、先程まで嫌というほど見ていたキリシマが、目の前にいるのかと錯覚してしまうほどだ。
「いつまでも、あんな浮浪者みたいな格好はごめんだからね。私もすっきりした気分だよ」
これで主要人物は全員揃った。
皆が待望の、装置による犠牲者を救う方法をナヴィは語り始めたいところだが……
目の前にいる老師に、ナヴィはたじたじだ。
老師を前にして、自分の推測を偉そうに語るなどおこがましい。
ナヴィは気まずそうに老師の顔を見ると、どうやら老師は、そのナヴィの困惑した表情を察したようだ。
「ナヴィよ。私のことは気にするでない! 私はもう、時の支配者をとっくに引退した身。皆に聞いて欲しい考えがあるのだろう? 私は口をつぐんで、黙って聞いておこう!」
「老師様……お気遣いいただき、ありがとうございます。
では、ここは現・時の支配者として、僕の推測を話させていただきます!」
ナヴィは老師にそう一声入れ、深呼吸をした。
気持ちを一度落ち着かせた後に、ナヴィは自分の考えを述べた。
「それじゃあ、始めさせてもらうよ! これはあくまで僕の推測に過ぎないが、それと同時に僕が導きだした答えでもある!! 聞いてくれ!! みんな!! そんな僕の考えを!!」
ライムは唾を飲み込む。
全員がナヴィの一挙一動に注目した。
「まずは話を分かりやすくするために──問おう!
ライム、ミサキ。君達のいた世界の時は、ラビ様によって時の軸、“今”が止められているわけだけども……それは一体、どのタイミングだったと思う?」
「えっ……それは博士が話してくれた時に、結論出てたことじゃないか」
ライムは博士が以前話してくれた、事件の真相の内容を思い浮かべる。
そして、当然の如く答えた。
「未来の俺の死を視てしまった博士が、俺を救うために装置を無理矢理起動させた時……その時、ラビ様と思われる、時の民の幻が博士の前から消えた……
だからそのタイミングだったんじゃないのか? 時の軸が止まった瞬間は……?」
ライムの解答に、ナヴィは頷く。
しかし、ナヴィは神妙な面持ちで、こう持論を説いた。
「うん。僕達はそういう結論を出していたね! でも……
それは間違いだったんだ!! 僕達は大きな勘違いをしていたんだよ!! 実際に、ラビ様が時を止めたのは……
もっと“前”のことだったんだ!!
博士が僕達に話してくれた出来事、現れたラビ様の幻……
それらはすべて、“未来”の出来事だったんだよ!!」
第125話 “導きだした答え” 完