第123話「導きだした答え①」
ライムはついに解決軍キリシマを撃破する。
父の記憶を失っていたはずのライムに、奇跡が起きた。
親子の絆が、この奇跡を起こしたと言っても過言ではないだろう。
ナヴィはこの奇跡を目の当たりにしたことにより、大きな収穫を得る。
これがきっと事件を解決に導く、鍵になるに違いない。
(やはり勘違いなんかじゃない! ライムの中に眠る記憶が甦ったんだ! 間違いなくキリシマにはいつものライムの姿が見え、声が聞こえていた!! 奇跡は紛れもなく起きたんだ!!
この奇跡を活かせば……装置による犠牲者を救えるかもしれない…!!)
カコイマミライ
~時を刻まない島~
第123話
“導きだした答え”
キリシマが敗れた瞬間を、多くの解放軍は目撃する。
その悲報は、全解放軍に大いなる衝撃を与えた。
「嘘だろ……キリシマ様が負けた!!」
「そ、そんな……バカな……」
膝をがくりと落とす者、中には涙すら流す者もいた。
キリシマの敗北と共に、多くの解放軍達は戦意を失う。
戦争が──終わりを告げようとしていた。
「これで終わったかい! まぁなかなか楽しめたよ!」
レオナもさすがに疲れた様子だ。だが、どこか清々しさが残る、満足した表情である。
ダイキは正直に、少し文句を垂れていた。
「やっと終わったか。まさかこんな大変なことになるとはな。これなら来なきゃよかったぜ!!」
半ば来たことを後悔するも、レオナと同じく、ダイキもどこか嬉しそうで笑顔に満ちている。
そんな笑顔の二人とは対照的で、ライムの表情は暗く、ぼーっとしたまま体は固まり、気を失ったキリシマを、ただただ眺めていた。
脱力感でいっぱいなのだろうか?
ミサキは俯くライムの顔を、下から覗き込むようにして、ひよっこり顔を出した。
「やったね! ライム!」
「うわっ!! びっくりした……」
突然ミサキが目の前に現れ、ライムは驚く。
せっかくキリシマに勝利したというのに………
浮かない顔のライムに、ミサキは不満をもらした。
「何よライム! つれないわね! 私達、キリシマに勝ったのよ!? なのに、どうしてそんなに暗い顔してるのよ!!」
ライムが喜びを表現できないのにも理由があった。
「それが……さっきの俺、何だか別人だったと思うくらいおかしくてさ。自分でもよく、何がどうなってたか分かってないんだ。
ただがむしゃらに、キリシマを倒すことに集中してただけなんだけど……
俺……いや、俺達、勝ったんだよな? キリシマを本当に倒したんだよな!?」
どうやらライムは気が動転しているようだ。
当たり前のことを聞くライムに、ミサキは呆れていた。
「何バカ言ってんのよ! じゃあ、あなたの目の前にいるのは何? 誰? 勝ったに決まってるでしょ! もっと喜びなさいよ!!」
せっかく勝利をおさめたと言うのに、ミサキに説教をくらうことになるとは……おかしな話だ。
言い合う二人に、ライムより更に暗い顔をしたナヴィが、ゆっくりと歩み寄る。
ナヴィの顔を見たミサキは、また顔をしかめた。
「もう! ナヴィちゃんまでそんな顔して! 一体ナヴィちゃんまで、どうしたって言うのよ!!」
ミサキは怒りをあらわにするが、ナヴィはどこまでも冷静だ。真剣な眼差しで答える。
「確かに、この件も喜ぶべき事のはずなんだけど……いかんせん真面目な問題でね。僕……分かったかもしれないんだ!! 装置の犠牲者を救う方法が!! ラビ様が考えた意図が、見えてきたかもしれないんだ!!」
ナヴィのまさかの報告に、ミサキは喜びを全面に表現する。ナヴィの両手を取って、踊るように跳び跳ねた。
「それは本当!? ナヴィちゃん!! その助ける方法、ぜひ教えてよ!!」
今すぐ説明したいのは山々だが……
ここには傷を負った味方や、解放軍がたくさんいる。
場所が悪すぎる。やはり話すのは、時の塔に戻ってからだ。
それに、解決するにはキリシマの存在も必要になってくる。
キリシマを時の塔へと運ぶ必要もあった。
「ここで、この大事な話をするわけにもいかない。一旦、時の塔へと行こう! 話はそれからだ!
それとキリシマも連行しなくちゃならない! ダイキ、キリシマを運ぶのを手伝ってくれ!」
ナヴィに頼まれたダイキは露骨に嫌な顔をした。
しかし、どこか仲間意識が芽生えていたのか、意外にも素直にナヴィの言うことを聞く。
「あぁ? なんでこの俺様が……俺だって疲れてんだぜ……ったく、しょうがねぇな!」
これでようやくすべては片付いた。
やっと落ち着くことができる。
皆そう思い、ダイキが気を失うキリシマを抱えあげようとした、その時……
事件は起きた。
解放軍は意気消沈しているはずだが、何やらひとり騒ぎ立てる男がいる。
騒がしい声がライム達の耳に届き、ライムはその声の主の顔を見た。
その声の正体は……
「──!! ミツルギ!!」
ミツルギだ。ミツルギがキリシマを殺そうと暴れていたのだ。
あろうことか解放軍の一員なんかではなく、自軍にいた面子の方だった。




