第122話「???③」
※ネタバレを防止のため、タイトルを伏せています。
ミサキの根性と努力が実ったのか、キリシマは“バウンド シールド”の上に落ち、トランポリンに乗ったかのように何度も跳ね上がり、数回体は宙へと舞った。
見事、ミサキはキリシマを救出することに成功したのだ。
地面への衝突を、かろうじて回避することができた。
「や、やったわ!! これでキリシマは無事よ!!」
「よくやったよ! ミサキ!!」
ミサキとナヴィが歓喜をあげ、キリシマの無事が確認できたところで……
いつぞやの龍のキリシマが放った、“神の祟り”の影響が、今頃遅れてやって来ていた。
雷こそ鳴ることはなかったが、雨が降り始め、戦場と化したウェダル平野一帯に、冷たい雨が落ちる。
「ぐっ……くっ……」
キリシマはひどくやられ、うまく体を動かせないでいた。地面に仰向けで寝転がっている。ただ、まだ意識はあるようだ。
都合のいいことに、雨でキリシマの燃えていた体は消火され始める。
フェニックスで空を飛んでいたライムは、力を解除し、ゆっくりとキリシマのもとに歩み寄った。
その後に続くように、ナヴィ達もライムの後ろを歩き、キリシマの前に並ぶようにして、皆が一斉に集まり始める。
ライムの存在に気づいたキリシマは目を見開き、ライムの顔をじっと眺めた。
こちらを見るキリシマと同じように、ライムも黙ってキリシマを見続ける。
するとそこで、キリシマがまたおかしな事を言い始めた。
「ライム……あの声は、やはりおまえだったんだな。いたんだな……いつの間にかおまえは……」
このキリシマの不思議な発言……
その意味を皆は理解できずにいたが、キリシマ本人には、今のライムがこう映っていた。
いつもと同じ雰囲気、いつもと同じ表情、いつもと同じ──
父を見る、我が子の目。
間違いない……
キリシマのよく知る、“あの”ライムが目の前にいる。
キリシマの愛する息子、ライムが帰ってきたのだ。
不思議とキリシマの目には、そう映っていた。
なぜキリシマが、そう自分に向かって言っているのか、ライムには分かっていない。
しかし、ライムの体は自然と反応を見せていた。
理由は分からない。
ライムに“そんな”感情は生まれていないはずなのに……
なのに……ライムの目からは、そっと涙が溢れ落ちた。
「あれっ? 俺……泣いてる……?」
ライムは最初、額から落ちる雨かとも思ったが……間違いなんかではない。やはりこれは涙だ。
“もう一人”のライムが、哀れな父の姿を見て、涙しているのだ。
ライムの涙を見たキリシマにも、同様に涙が流れ落ちる。
起きあがることもできず、完全に気力を失っていたキリシマが、震えた声でライムに向けて言葉を送った。
「すまないな。ライム。父さん……意地を張っていた。自分の過ちに気づいていたにも関わらず、強がっていた。
私は愚かだ……すべて私が……間違って……いたんだ……な…………」
キリシマはそう言葉を残し、安らかな顔で目を閉じた。
キリシマはとうとう力尽き、意識を失った。
勝負は着いた。ライムはキリシマを打ち破り、勝利をおさめたのだ。
本当なら、手を叩いて大喜びしたいところだが……
なぜだろう。こんなにも哀しい気持ちで溢れるのは……
降りしきる雨が、悲壮感を更に増大させていたのかもしれない。
ナヴィは奇跡の瞬間を目の当たりにしていた。
たった今、キリシマは間違いなく“別の”ライムを見ていたのだ。
それまでもか、ナヴィもいつもとは違うライムの声を聞いている。
ここにいる全員が、証人となっていた。
親子の絆が、一時的に記憶を呼び覚まし、ライムに奇跡を起こしたのかもしれない。
この二人の奇跡こそが、ナヴィの中で、多大なる影響を与えていた。
ある閃きが……これのおかげで“確証”へと変わっていたのだ。
(やはり勘違いなんかじゃない! ライムの中に眠る記憶が甦ったんだ! 間違いなくキリシマにはいつものライムの姿が見え、声が聞こえていた!! 奇跡は紛れもなく起きたんだ!!
この奇跡を活かせば……装置による犠牲者を救えるかもしれない!!)
第122話 “親子の絆” 完