第119話「夢②」
ミサキの顔を見たライムは、かなり弱った声で、質問とはまるで関係ない、別の事を喋り始めた。
「俺は今……夢を見ていた……」
突拍子もない発言を不思議に思ったナヴィが、ライムに聞き返す。
「夢……?」
「あぁ。痛てて……その夢を思い出そうとすると、頭痛がする……何の夢だったかは、はっきりとは分からない」
あれだけ鮮明に見ていた夢だったはずなのに……
なぜか夢の中身を思い出すことができない。
しかし、それでもライムはひとつだけ覚えていることがあった。それは──
「ただ……親父の……キリシマの夢だった気がする……しっかりと、俺は夢の中で──“父”を感じていた」
父のキリシマを思う夢であったことだ。
教室での作文や、母の前で泣く、具体的な内容こそは、まるで思い出せないが……
ライムが父を思う気持ち。
父のことが……
大好きだったということは、はっきりとライムは覚えていた。
時のルールに引っ掛かり、異世界に来た者は、元いた世界から存在が消えるはず。
それにも関わらず、ライムがこの異世界の地で、キリシマ──父の夢を見た!?
そんな訳はないと、ナヴィがもう一度ライムに念を押すような形で尋ねた。
「ライム、それは本当かい!? キリシマの……父親としての記憶がかい!? そんなこと、ありえるはずが……」
「あぁ、俺も信じられないし、今思い出そうとしても頭が痛くなるだけで、何も出てこないけど……間違いないよ! 俺は親父の夢を見たんだ!!」
きっぱりと断言するライムに、ナヴィはあるひとつの可能性を見い出していた。
(キリシマと多く接触することで、ライムの消えたはずの記憶が甦ったのか? 果たしてそんなことがありえるのだろうか……
もし、仮にそれが事実なのだとしたら……これはいいヒントになるかもしれない!!)
ナヴィが何かを閃いた。
早速、ライム達にそのことを伝えたいところだが、今はそれどころではない。
また増加した解放軍が、攻めにやってきている。
それに加え、未だ諦めず、立ち向かう解放軍もまだ多数いる。
まずはこの戦いを終わらせることが先決だ。
再び押し寄せる解放軍の波にミサキは気づき、改めて身を引き締め直した。
「お喋りはまた後ね! 私達はこれを片付けなきゃ!!」
ライムは傷だらけの体を、重たそうにしてゆっくりと持ち上げる。
辛そうな顔をするライムをナヴィは心配していた。
「ライム、動けるかい? かなり辛いだろう……」
「あぁ……でもなんだろうな。あれだけのダメージを喰らったのに、痛みはそこまでない」
ライムはこの戦いで、何度も深手を負っていた。
それなのに、痛みは不思議とそこまで残っていない。
ナヴィがその理由を察し、説明した。
「それはきっとフェニックスのおかげだろう」
「えっ? フェニックスが?」
「そう。神獣・フェニックス。別名──“不死鳥”だ。傷を癒す“再生能力”も備わっていたのだろう」
「なるほど……フェニックスにそんな力が! どおりで痛みが和らいでる訳だ!」
「でも、油断は禁物だよライム。神獣の力を使えば、体力は消費していくはず」
「そうなんだよな……傷はたいしたことなくても、俺の体力を神獣が蝕んでく……不思議な感覚だ。だけども、痛かろうが、辛かろうが……俺がやるしかない!!」
ライムは敵であったはずのダイキ、レオナ、ミツルギの顔をそれぞれ見た。
そして何の躊躇いもなく、素直に礼を言って頭を下げる。
「みんな、ありがとう! どうやら助けられちまったみたいだな!」
照れ隠しからなのか、三人はいずれもそっぽを向いた。
その後に、まずはレオナが言い返す。
「バカ言え。キリシマの思い通りに行くのが、見ててつまらなかっただけさ! あんたを助けちまったことを、今では後悔してるぐらいだよ!!」
次にダイキも、はぐらかすようにして言った。
「さっきのは俺がたまたま居たところに、おまえが飛んできただけだからな! そう、たまたまだ! どうやらおまえにはまだツキがあったようだな」
先頭に立ったミツルギは、背を向けたままライムに言う。
「最後は俺がキリシマのトドメを刺すからな!! 頃合いを見て、いいところで俺にバトンタッチしろ!! ニセキリシマ!!」
素直になれない三人のぎこちなさに、思わずライムは笑った。
そして、ライムは別れの言葉を残して、再び神獣・フェニックスの姿へと変えた。
「地上の解放軍達は、みんなに任せた!! 俺はキリシマを討つ!!
じゃあ──またあとで会おう!!」
「えぇ!!」
ミサキだけが元気に返事をし、ライムは上空へと飛び立っていった。
龍と化したキリシマをまじまじと見たライムは、決意を改める。
(キリシマもずっと神獣と一体化してるんだ!! 体力は自然と減ってきているはず。きっとヤツももう長くはない。キリシマ──いや、親父!! すべてを──終わりにしてやる!!)
第119話 “夢” 完