第118話「夢①」
キリシマにやられたライムは、ダイキ達を含めた味方総動員で救われるも、意識を失ったままだ。
そんなライムは今──夢を見ていた。
『では、次は──キリシマ ライム君。お願いします』
『はい!』
(な、なんだこれ……昔の俺の記憶か……?)
ライムは外からぼんやりと、昔の自分の姿を眺めている。
場所は小学校だろうか。
どこか見覚えのある教室に、たくさんの生徒達、先生。
今は授業中で、何が始まるかは分からないが、どうやら次はライムの番のようだ。
背の小さなライムは、立ち上がり原稿を読み上げる。
『タイトルは僕のお父さんです。僕のお父さんは、科学者です。時の研究をしています。
マシンができたら、未来に連れてってくれる約束をしてくれました!』
タイムマシンという、子供心をくすぐる言葉に、周りの生徒達はざわつき始めた。
『す、すげぇ! タイムマシンだってよ!』
『ライムの父ちゃん、かっけぇな!!』
ざわつく生徒達を、先生が注意する。
『静かに! これではキリシマ君の作文が聞こえないでしょう? さぁ、静かになったところで、続きをお願いします』
『はい! 僕のお父さんはいつも…………』
(なんだこの記憶は……どうして俺の記憶の中に親父が? 親父としての記憶は消えているはずじゃ……)
ライムはこのぼんやりと映る不思議な事柄に、疑問を持ち始めていた。
ライムはまだこれが夢だとは、はっきりとは気づいていない。
果たしてこれは、現実にあった出来事なのか?
はたまた父が恋しく、ライムが作り上げた、妄想の出来事なのか……
夢と現実世界が入り乱れ、ライムの頭は困惑していた。
ライムが考え込みながら、ぼーっと眺めていると、子供のライムの作文が終わりを迎えようとしていた。
そして作文の最後は、こう締めくくられていた。
『──そんなすごいお父さんは、僕の自慢のお父さんです! 僕はお父さんのことが大好きです!!』
その言葉を聞いたライムは、はっとした。
(お父さんが……大好きか……)
この時の父と、今の父は違う……
敵として立ちはだかるキリシマには、ライムは憎い思いしかなかった。
ライムが複雑な心境で、思いにふけていると……
場面は突然、学校から自宅へと変わっていた。
ライムの目には、また幼き自分と母親の姿が映っている。
(いつの間にか場所が変わってる……母さんと、また昔の俺だ)
どうやら子供のライムは泣いて、だだをこねている様子だった。
『なんで……なんでよ……約束したじゃないか!』
泣くライムを、母がなだめる。
『仕方ないでしょ! お父さん忙しくて、急に仕事になってしまったのだから!』
『なんで休みだったのに、仕事に行かなきゃ行けないの? 遊園地に連れてってくれるって、約束だったのに!!』
『お父さんは今、大事な時期だから……分かってあげて。ほら、遊園地ならお母さんと二人で行きましょ!』
『やだ! やだよ! 僕……お父さんがいっしょじゃないと嫌だ!!』
これも昔、実際にライムの幼少期にあった出来事なのだろうか?
なぜかライムに、キリシマが父親だったという認識が芽生えるも、実際にこの場面の記憶が甦ることはない……
やはり単なる妄想か……
ライムがすべて妄想で片付けようとした時、どこからか、自分を呼ぶ声が聞こえた。
「ライム!! しっかりして!! 目を覚ますんだ!!」
(この声は……ナヴィの声だ……)
どこからかナヴィの声が聞こえる。
すると、また別の声がライムに聞こえてきた。
「ライム! 起きてよ……! このままじゃ解放軍に……キリシマにやられてしまうわよ!! 倒すんでしょ!! キリシマを!!」
(今度はミサキの声だ。解放軍……? キリシマを……倒す?)
ライムは “解放軍”、“キリシマを倒す”
様々なワードを耳にしたところで、大切なことを思い出した。
(──!! そうだ。キリシマ……今俺はキリシマと戦っているとこだったんだ!! こんなとこで、もたもたしてる場合じゃない……
倒さなきゃ。俺が倒さなきゃいけないんだ!! キリシマを……親父を……俺が──俺が!!!)
ライムはこの不思議な世界が、夢の中であることに気が付いた。
ライムが──目を覚ます。
カコイマミライ
~時を刻まない島
第118話
“夢”
気を失うライムを、ナヴィやミサキだけでなく、ダイキ、レオナ、ミツルギ。全員で取り囲むように見ていた。
ミツルギが何気なく、縁起でもないことを呟く。
「起きないな……死んでんじゃねぇか? これ。このまま起きなかったりしてな!」
ミツルギはほんの冗談のつもりだったが、ミサキは激怒した。
「何言ってんのよ!! ライムが死ぬわけないでしょ!! それにあんたも十分知ってるでしょ?
異界人が死ぬと、肉体は消えるのよ!? まだライムの体が残ってるってことは……生きてるってことなの! 気を失っているだけなんだから!!」
物凄い剣幕で、かなりの早口でミサキは捲し立てる。
鬼の形相でこちらを睨むミサキに、ミツルギはたじたじだ。
「そうだった……な! ほんの冗談だって。そんな怖えぇ顔すんなよ」
ミツルギが冷や汗をかいたところで──
突然、気を失っていたはずのライムの目が開いた。
それに気づいたミサキは、ミツルギを押し退けて、ライムの目の前まで歩み寄る。
「どいて!! ライム!! 大丈夫!? 目を覚ましたのね!!」