第116話「くせ者揃い②」
突如ミサキ達の前に立ちはだかった巨体のダイキに、解放軍達は怖気づく。
「なんだ……あいつのパワーは……あいつ、とてつもなく強烈な神力を使うぞ!! 気を付けろ!!」
初めてダイキに会ったミサキは、仲間のためを思うダイキに好印象をもっていた。
「あなた、仲間のために来たなんて優しいのね!」
「はっはっは!! もちろんそれもあるが……それはただの口実だ」
「えっ?」
不思議そうな顔でこちらを見るミサキに、ダイキは笑顔で答えた。
「牢屋の中は、実に退屈でな。久しぶりに暴れたくってよ!! 腕がなるぜ!!」
「あぁ……そういうことね」
少しでも誉めたミサキは、なんだか損した気分だった。
罪人は所詮、罪人か……
ミサキは呆れたが、何が理由であれ、ダイキが仲間になるのは心強い。
一度はダイキに怯えた解放軍も、数では圧倒的に有利である。
後方にいた解放軍の一人が、発破をかけた。
「体がでかいからってビビるな! 数はこちらのが上だぞ! 怯まずに攻めるんだ!!」
その声を聞いて、一度止まった解放軍が再び動き出す。
まさしく解放軍が言う通り、ミサキとダイキだけでは、全くもって手に負えない人数だ。
「これでは……まだまだ私達の不利は変わらない……」
ミサキが弱音を吐いていると、ミサキの背後から、ある女の声が聞こえてくる。
「あたしがいたらどうだい!?」
またしても聞き覚えのある声に、見覚えのある──“チャクラム”が後ろから放たれ、ミサキの体の横を通り抜ける。解放軍達を一斉に斬りつけた。
すぐさま、その正体にミサキは気づく。
「あなたは……“レオナ”!!!」
こちらも元解放軍。
神力・リング、神獣・ユニコーンの使い手。
男勝りのレオナが、ミサキ達を助けに現れたのだ。
因縁の相手の登場に、ミサキは少し表情を曇らせた。
「まさかあなたまで、助けに来てくれるとはね!!」
「それはあたしだって、同じ気持ちさ!! まさかあんたなんかを手助けする時が来るとは、夢にも思わなかったよ! 別にあんたを助ける義理はないが……これだけの神力使いと戦えるチャンス、そうはないからね! よだれが出そうだよ!!」
レオナが悪い顔をしている。この人物も戦いを好む。
ミサキは複雑な心境だ。けれども背に腹はかえられない。
今は大きな戦力の増加を、喜ぶべきだ。
ダイキ、レオナを筆頭に、気づけばミサキ達の周りには、時の塔に幽閉されていた元解放軍の残党で溢れかえっていた。
理由は様々で、団結力こそはないが、皆ミサキ達の手助けをしてくれている。
「いつの間にこんなに!! みんな、ありがとう!! 解放軍を倒すわよ!!」
ミサキの号令と共に、一気に解放軍に襲いかかる。
数こそまだ敵の方が圧倒しているものの、これだけのくせ者揃い。
十分相手になっている。ナヴィは老師に感謝した。
「すごい!! これだけの大人数を相手に!! 老師様、ありがとうございます!!」
このまさかの協力者達の面々を、上空にいるライムはひっそりと眺めていた。
「あいつら……やる時はやるんだな!!」
嬉しそうに話すライムに、キリシマは苛立つ。
「ライム……笑っていられるも今のうちだぞ!!」
「それは……どうかな!!」
俄然ライムはやる気を出す。
ライムとキリシマのバトルも、更にヒートアップしていた。
ほんの少しだけ余裕が出てきていたミサキは、ナヴィに、あるひとつの頼み事をする。
「ナヴィちゃん! 私達のことはいいから、ライムの方を見といてくれる? 私は目が離せないから……またライムか落下するようなことがあれば、教えてほしいの!!」
「うん、分かった!! ミサキも十分気を付けるんだよ!!」
いつの間にか、ミサキがライムの心配を出来るほどに、こちら側が圧す形となってきている。
しかし……
敵を倒しても倒しても、一向に相手が減ることはない。
おかしな現象に、レオナが気づいた。
「これ……どんどん敵が増えてないかい? 倒しても、また別のやつが現れてるよ!!」
レオナに言われ、ダイキもようやくその事実を知る。
「何っ!? どおりでいくら倒しても終わらないわけだ!! キリがないぞ、これじゃ……」
それもそのはずである。
未だドラゴンと化したキリシマは、空を飛び続けている。
それが大きな目印となるように、次々と新たな解放軍の者が、この戦場へとやってきていたのだ。
倒しても倒しても減ることない敵の数に……
徐々にダイキ達にも疲れが見え始め、次第に勢いはなくなっていく……
ミサキにも焦りが生じる。
(まずい……みんなに疲れが出始めてる……このままじゃ、やられてしまう……)
ミサキが危機を感じた、その時……
もう一人の強力な助っ人は、絶好のタイミングで現れた。
「苦戦してるようだな! ねぇちゃん!!」
颯爽と現れた男にミサキは気づき、その名を呼んだ。
「あなたは……
ミツルギ!!!」
剣の達人、神力・ソード、狂暴な神獣・ケルベロスを扱う。
キリシマに復讐を掲げる男、ミツルギがミサキの元へと現れたのだ。
ミツルギは、ここにいる罪人達とは違って、塔に捕まってはいない。
それなのに関わらず、現れたミツルギにミサキは驚いていた。
「どうしてあなたがここに!? 助けてくれるなら、ありがたいことだけど……」
ミツルギは指で鼻を擦りながら、得意気に語る。
「俺の情報網をなめるなよ? キリシマが龍の神獣を使うのは有名な話だ! あんだけ堂々と龍が空を舞ってたら、嫌でも気づくさ!!」
ミツルギが味方に加入した。
達人芸とも呼べる剣技に、皆恐れをなして逃げるほどの、猛獣ケルベロス。
ミツルギが加われば、まさに百人力だ。
すでに殺気立つミツルギは、ミサキに向けて言った。
「あんたらには借りがあるからな。あんたらは俺を殺さずに生かした……今回はその借りを返すだけだ! これでチャラだからな!?
だが、忘れるなよ? 俺の狙いはキリシマだ。
キリシマが神獣の力を解き、地上へと降りた暁には……真っ先に俺がキリシマを狙う!! 手助けは、その間だけだ!!」
あくまでミツルギの目的は、キリシマを倒すこと。
やはりそれに変わりはない。
それでも十分とばかりに、ミサキは頷いた。
「えぇ、分かってるわよ! その間だけでもいいから、お願い……今は力を貸して!!」
「あぁ! 任せろ!!」
キリシマを崇拝する解放軍達に対し、もはやミツルギの尊敬する人物は、自分の目を覚まさせてくれたミサキだ。
ミツルギはミサキの願いを、喜んで引き受けた。