第115話「くせ者揃い①」
神獣・ドラゴンへと姿を変えた、解放軍トップのキリシマ。
それを見た解放軍の信者達が、キリシマを助けようと、群れをなして押し寄せてきていた。
ライム達と解放軍との全面戦争が、今──勃発しようとしている。
カコイマミライ
~時を刻まない島~
第115話
“くせ者揃い”
龍と化したキリシマが上空にて、自分を助けに来る解放軍の大群に気づく。
皆、キリシマのためをもってやってきたわけだが、キリシマはそれに応じることなく、無視をした。
当初ナヴィが発案した嘘の噂のひとつである──
『捕らわれた息子を救いたければ、キリシマ一人で出向くこと』
これは今となっては、もはや意味をなさない。
大勢の解放軍がキリシマの手助けに現れようと、こちらには何の後ろ盾もないのだ。
今のキリシマに、その他大勢の者に構っている暇はなかった。ライムを倒すことだけに集中している。
ライムももちろんミサキ達を助けるために、何とかしてあげたい所だが、キリシマから目を離すことができない。
お互いが目の前の相手に、全力を注いでいた。
そんなライムの手を借りられぬ状態で、ミサキ達は押し寄せる解放軍の相手をしなければならない。
ナヴィの体は震えあがっていた。
「うわぁぁっ……前からいっぱい来るよ! どうしよう! ミサキ!!」
その数は50を軽く越えているだろう。
しかし、ミサキは何も答えず、黙って一歩前に出た。
ミサキは身を構え、その数をたった一人で迎え討つつもりだ。
ナヴィは慌ててミサキを止めに入る。
「無茶だよ!! ミサキ!! あの量を一人で相手するなんて……そ、そうだ! 今は一旦、時の塔に避難しよう!!」
「そんなのだめよ!! ナヴィちゃん!! 相手がどんな神力や、神獣を使ってくるか分からない……私がここをどいたら、きっとライムは集中攻撃を受けることになる。そんなことは絶対させないわ!!」
覚悟を決めるミサキに対し、ナヴィは心の中では、こう思っていた。
『その集中攻撃をくらうのは、ミサキなんだよ……?』
だが、ミサキの気迫を前にして、ナヴィの口から、その言葉が出ることはなかった。
二人が言い争ってる合間にも、大群はすぐそこまで迫ってきている。
解放軍の先頭を切る者が、ミサキ達の存在に気づいた。
「あれはなんだ? 女とウサギ……? 前に二人いるぞ!! あいつらも塔側のやつらか!? 構うことはねぇ、やっちまえ!!」
先陣を走る数名の解放軍は、一人の女相手にお構いなしに、一斉攻撃した。
すべてを受け止めるようにして、ミサキは巨大なバリアを張る。
「やれるだけ──やってみるわ!! もしかしたらその間に、ライムがキリシマを倒すかもしれない!!」
ミサキはライムを信じて、たった一人で大群に挑んだ。
様々な神力が飛び交う。
弓矢、槍、斧を模した力……
ミサキは必死に粘り続けた。
しかし、これも無謀な話。
すぐに限界は訪れてしまう……
バリアに亀裂が入った。
これほどの攻撃を一辺に受ければ、当然だろう。
(まずい……私のバリアが砕ける!!)
ミサキのバリアは今にも破られそうだ……まさに風前の灯火。
後ろにはまだまだ解放軍の後陣が控えている……ナヴィは終わりを覚悟した。
──その時。
まさかの助っ人が、ミサキ達の前に現れた。
「ブレイクハンマーー!!!」
謎の巨体の人物が、ミサキの前にいた解放軍を叩き潰す。
「えっ!? 誰……?」
突然、何者かに助けられたミサキは驚き、振り返って、その者の顔を見た。
どこか見覚えのある技に、ナヴィは驚愕しながらも、その者の名を大声で叫ぶ。
「おまえは………解放軍・ダイキ!!」
ミサキを助けにやってきた巨体の人物……
それは、ライム達が最初に訪れたファブル村で、ライムが初めて撃破した相手。
神力・ハンマーの使い手、解放軍のダイキだった。
ナヴィはこの男を忘れるわけないが、ミサキは初対面だ。当然ダイキを知るはずがない。
ダイキは少し照れ臭そうにして、ナヴィの言葉の一部を否定した。
「俺はもう解放軍じゃねぇ。“元”解放軍だ! 仕方ねぇから助けに来てやったぜ!! ウサギ!!」
どうしてダイキがこんなところにいるのか?
実はダイキはライムに敗れたあと、ファブル村の住人達の協力のもと、時の塔の留置所に運ばれていたのだ。
「おまえは塔の留置所に捕まってたはず……それがなぜ釈放されている? 許しが出たのか!?」
「おまえに似た、ウサギのじぃさんが、一時的に釈放してくれたのさ!! おまえ達に協力すれば、俺の仲間達の刑期を短くしてやるって言うんでな!」
ナヴィはすぐに誰のことかピンと来た。
「老師様だ!! 老師様がこの危機に、僕達に力を貸してくれそうな罪人を釈放してくれたんだ!!」
そう、ダイキがここにいるのも……
初代・時の支配者──“リア・ホワイト”
すべては、そのおかげである。
リアは多大なる責任を感じていた。
この島の危機を救うために、自らの時を止め、生き永らえたが、肝心の瞬間に立ち会うことはなかった。
またナヴィの悩みであった、装置の犠牲者を救う方法の力になることもできず、心底落ち込んでいたのだ。
自分に何かできることはないかと、塔の中でずっと戦況を見つめていたリアは、ここぞのタイミングで、元時の支配者としての権利を行使した。