第114話「蒔いたタネ②」
ナヴィ達の声が聞こえるはずはなかったが、やはりそこは頭の切れるキリシマ。
すぐに、そのからくりを見極める。
「きっと後ろにある塔が関係しているに違いない。思えば私が、異界からの解放を使おうとした際、ウサギが塔に逃げろと喚いてたからな! 間違いないだろう!!」
あの時のナヴィの言葉を、キリシマが聞き逃しているわけがなかった。
早くも見破られたライムであったが、この絶好ポジションから離れるつもりはない。
ここにいればキリシマは火の玉を放てず、攻撃ができないはず。
ライムはそう考えていたが、キリシマは攻撃方法を変える。
龍の長い尻尾を活かし、尻尾を空高くあげ、フェニックス目掛けて叩きつけたのだ。
これなら塔に直接当たることはないため、攻撃することが可能である。
意表を付かれたライムは、頭上から叩きつけらる。そして、地面真っ逆さまに落ちていく。
キリシマのように、途中で体勢を変えたいところだが……すでにライムに、そんな体力は残っていない。
ライムの神獣は解かれ、素の体のまま落下していく。
「このままじゃ……ライムが地面に激突する!!」
数メートルの高さからの自由落下に加え、叩きつけられた勢いも加わるだろう。
地面に激突すれば、とてつもないダメージになる……ナヴィは慌てふためいた。
うろたえるナヴィをよそに、ミサキは冷静に状況を把握しているようだ。
「このために私達がサポートしてるんでしょ! 普段は“硬い”シールドを生み出してるのよ? “柔らかい”ものを作ることなんて容易いわ!!」
ミサキはライムの落下地点へと入った。
ライムの真下についたミサキは、すかさず神力・シールドを使う。
「これならきっと大丈夫なはず! “バウンド シールド”!!」
ミサキは自分の身長の届く限りの高さに手を伸ばし、地面に対して水平に神力の盾を張った。
いつもとは違う、柔らかい素材の盾を作り上げる。
そして、上空からその上にライムが落ちると……
まるでトランポリンの上に乗っかったかのように、ライムの体はバウンドし、衝撃は見事に吸収され、ライムは地面への衝突を免れた。
バウンドした最中に、失いかけていたライムの意識が戻る。
「うっ……こ、これは……ミサキの力か! 助かった……!!」
地面へとライムは降り立ち、真っ先にミサキに礼を述べた。
「ミサキ、ありがとう! そのまま落ちたら大変なことになってたよ!!」
今は律儀にお礼をしている場合ではない。
キリシマの次なる攻撃が迫っている。
「ライム……私に礼を言ってる暇なんてないわよ! 私達のことはいいから、あなたは自分のことに集中して!!」
ライムとミサキが集まるその地に、キリシマは火の玉を放っていたのだ。
ミサキは自分の右手を見つめ、己の力を信じた。
「この程度なら……私にも守れる!!」
ミサキはバリアを張り、火の玉の攻撃を防ぐ。
完全に攻撃を防げたと思われたが……
ピシッ! と、バリアにヒビの入る音が聞こえた。
慌ててミサキは声を荒らげる。
「行って!! ライム!! バリアが……持たないかもしれない!!」
ライムは静かに頷いてバリアから抜け出し、再びフェニックスに姿を変え、飛び立った。
いつぞやの時のように、バリアが粉々になるのではないかと、嫌な予感がミサキの頭を過っていた。
しかし、いくつものヒビが入ったバキバキの状態で、なんとかバリアは持ちこたえ、攻撃を耐え凌いでいる。
「あ、あぶな……きっと今の攻撃、キリシマにとっては、ただの牽制にしか過ぎないはず……
なんて破壊力なの! 神獣・ドラゴン! 全くもって恐ろしい力だわ!!」
ライムが戦場の空へと帰還し、キリシマとの空中戦の続きが始まる。
またライムが、いつ落下しても備えられるように、ミサキは空を見続けていたが……
空ではなく、“地上”から迫る──謎の勢力の軍団達に、ナヴィが気づいた。
「!!! あ、あれは……前方から向かってくるのは、もしかして……」
何人もが群れをなして、こちらへ向かって来ている。
その中の一人が、雄叫びをあげた。
「キリシマ様ーー!! 加勢します!! 助けに来ましたーー!!」
やってきたのは、大量の解放軍だ。
ライムとキリシマが戦う、このウェダル平野に、大群を引き連れ、多くの解放軍が押し寄せてきていたのだ。
あまりの数の多さに、ミサキは全身鳥肌がたった。
「な、なんて数なの!! ナヴィちゃん、キリシマは一人で来たんじゃなかったの!? なのに一体どうして……」
ナヴィは冷や汗を滴し、少し黙った。
そして黙った後に、こう答えた。
「僕達はキリシマ一人で来るように促したが、あくまでその要求に応じたのはキリシマのみ。他の解放軍は、キリシマが一人で敵地に向かうことを、快く受け入れてはいなかったのか……?」
「そ、そんな……あんな大量の数を、一体どう相手したらいいのよ!!」
ナヴィはそう仮説を立てていたが、実のところは違った。
キリシマは引き連れていた解放軍の者達に、確かに手出しはしないよう、キリシマ自身、本人のみで向かう旨を伝えていた。
そして、その者達は、忠実にしっかりとキリシマの言いつけを守っていたのだ。
──だが、キリシマが神獣・ドラゴンの力を解き放ったことにより、事態は大きく変わっていた。
解放軍達の間では、キリシマが龍の神獣を持つことは有名な話である。
それに加え、ナヴィが流したあの嘘の噂は、島全土に知れ渡っている。
そのため、いつかはキリシマが塔を攻めることは予想の範囲内だ。
解放軍は、この島の至るところに、大量に溢れている……
キリシマと行動を共にしていた者とは別の、その他大勢の解放軍達が、あれほど大きくて目立つ、空で暴れるキリシマの龍の姿に気づき、自らの意志で、この地に押し寄せて来てしまっていたのだ。
キリシマの蒔いたタネは、あまりに大きく育ち過ぎた。
すべてはキリシマを守るため、キリシマを救うために……
大量の信者達がライム達を標的とし、攻めにやってくる。
未来を守る者達 VS キリシマを崇拝する解放軍
二つの勢力による、全面戦争が勃発しようとしていた。
第114話 “蒔いたタネ” 完