第113話「蒔いたタネ①」
キリシマは最後の切り札──神獣の力を解き放つ。
するとキリシマはみるみるうちに巨大化し、空へと舞った。
ライム達は空を見上げる。
その恐ろしい変貌を遂げたキリシマを見たナヴィは、その神獣の正体を暴いた。
「この神獣は……!! 神獣の中でも最強格に強いと恐れられている……
神獣・ドラゴン……!!」
カコイマミライ
~時を刻まない島~
第113話
“蒔いたタネ”
“神獣・ドラゴン”
“龍”とも呼ばれ、体は蛇のように細長く、全長は10メートルを軽く越える。
神獣の中でも、最強の力を持つという呼び声も高い。
ライムはあまりの巨大な龍の姿に、後ずさりした。
「な、なんだ……このデかさは!! こんな生き物が、この世に存在するのか!?」
神獣・ドラゴンといえど、元の姿はあのキリシマ……恐れる必要はないはずだ。
だが、それを頭で理解していても、感じる恐怖が確かにそこにはあった。
「くそっ……こうヤツが空を飛んじまったら、俺もフェニックスの力を使うしかない」
ライムはすでにボロボロになった体を、痛みに耐えながらも動かす。
ライムは先程、爆弾から島を救うために空へと飛び出した結果、その時の爆風により、地面へと叩きつけられている。かなりのダメージを負っている。
「うっ……!!」
やはりその影響は大きいか。痛みに耐えられず、ライムは思わず屈んでしまったようだ。
ミサキは無理をするライムの身を案じていた。
「やっぱり無理してるんじゃない。大丈夫なの? 本当に……そんな体でまともに動けるの!?」
「じゃあ、黙って見てろって言うのか? あいつが神獣で空を飛んじまったら……誰にも手出しはできない。俺が……俺がやるしかないだろ!!」
「そ、それもそうなんだけど……」
ミサキにも、この置かれた状況は分かっている。
しかし、それでも無理をするライムが見てられず、ついつい言ってしまったのだ。
ナヴィは険しい顔をしながら、しゃがみこむライムの肩にポンと手を当てる。
「すまない。ライム。すべては君にかかっていると言っていい……辛いだろうが……よろしく頼む」
ナヴィはそう言って、頭を下げた。
「ナヴィ……」
ナヴィの体は震えていた。
本人も、厳しいことを言っているのが分かっているのだろう。
酷なことを言っているのが分かっているのだろう。
だが、時の支配者として、その選択を取らざるを得ない。
ナヴィに言われなくとも、もちろんライムはそのつもりだ。
どんなに痛かろうが……辛かろうが……ここは自分が行くしかない。
ライムはナヴィに向けて、強く言い返した。
「あぁ、任せとけ! 俺なら大丈夫だ。絶対に勝つ!!
なぜなら俺は、この島の危機を救う──救世主だからな!!!」
ライムはそう暗示をかけるようにして、自らを奮い立たせた。
そして、ライムはフェニックスへと姿を変え、キリシマを追った。
「ライム……」
ミサキは空へと向かうライムを、じっと眺めていた。目からは涙が溢れ落ちる。
ナヴィはミサキに、そっと声をかけた。
「僕達に何ができるかは分からないけど……僕達は全力でライムをサポートしよう!!」
ライムがこんなにも頑張っている……
その必死な姿を見たミサキは、涙を服の袖で拭った。
「えぇ、そうね! 私にできることがあれば、何でもするわ!!」
ナヴィ、ミサキは地上からライムを見守る。
何かの事態に備え、万全の体制で待つ。
先に空にいたキリシマには、フェニックスと化したライムが上昇してくるのが見えていた。
そこに向けて、キリシマは龍の口から火炎玉を放つ。
「──火の玉か!! 火の攻撃なら、俺も負けない!!」
ライムも負けじと、同程度の火の玉をフェニックスの口から飛ばした。
二つの火の玉は空中で衝突し、爆発する。
爆発と同時に、双方の火の玉は勢力を失った。
「互角か!! ならもう一発だ!!」
お互いの攻撃は、ほぼ互角。
キリシマはもう一度ライムに向けて、火の玉を放つ準備をするが、その攻撃に気づいたライムは方角を変え、別方向へと移動を開始した。
「攻撃をかわす気か。そうはさせないぞ! ライム!!」
フェニックスは位置を変え、空中で停止する。
その止まったところを見定めて、キリシマは攻撃を仕掛けた。
──だが、なぜか龍は火の玉を放とうとしない。
自分の動きに伴わない、神獣の反応にキリシマは困惑している。
「ん!? どうした? ドラゴン!! なぜ私の言うことを聞かない!!」
キリシマが手こずっている……その隙をライムが突く。
龍を目掛けて、ライムは火の玉で攻めた。
神獣と葛藤していたキリシマは、ライムの攻撃をまともに被弾する。
「ぐわっっ!!」
不意に攻撃を受けた龍と化したキリシマは、空から下降するも、途中でなんとか体勢を戻し、再び空高く飛びあがった。
なぜ突然、キリシマは攻撃できなくなったのか?
ナヴィが、その謎を解く。
キリシマには聞こえないよう、ミサキにだけ聞こえる程度の声量で説明した。
「うまいぞ! ライム!! ライムは時の塔を背にして戦っている!!」
今のナヴィの発言により、状況をうまく把握できていなかったミサキも、ようやく気が付く。
「なるほど! 神獣は本能的に、時の塔を守ろうとする!! だから時の塔の直線上にいたライムに、攻撃を仕掛けることができなかったのね!!」