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第105話「否定③」

 ナヴィがキリシマに、解放軍を作り上げた真意を尋ねる。


 

「キリシマ……おまえはどうしてこんなことを? もう一人のペアのキリシマは、とてもこんなことをするような男ではなかった……なぜ多くの異界人を殺し、解放軍を作り上げたんだ!!」



 まるで予言が的中したかのように、博士が言っていた言葉を、キリシマはそのままなぞるようにして言った。



「それは……私に責任があるからだ!! タイムゲート(時空の歪み)に巻き込まれ、私はこの島にやってきた。

 私は何もした覚えはない……そう考えれば、もう一人の私が何か仕出かしたに決まっている。そこには、すぐに辿り着く。


 その事と、この島の異界人とに、何の関係があるのかは分からないが、間違いなくこれは私が作った装置が引き起こした事件だ!

 ならばその責任は、私が取るしかないだろ!!

 私のやってることは、もう一人の自分の尻拭いに過ぎない!!」



 敵であるキリシマに、時の流れのすべてを話す義理はない。

 しかし、ナヴィは一言だけキリシマに助言した。

 天才・キリシマには、その一言だけで十分のはずだ。



「こう言えば、おまえならすぐ分かるはずだ。博士はこう言ってたよ……“タイムパラドックス”──とね」



「!!! そうか……やはりそういうことだったか!! なんとなくそんな気はしてはいたが……だからこの世界に、同じ人物が二人!! 謎が解けたぞ!

 きっと、この仕業はもう一人の私によるもので、私という存在が、同時に(・・・)存在してしまったために、起きた出来事ってわけなんだな!!」



 キリシマの中で散々引っ掛かっていた謎が、ようやく解けた。

 ナヴィに説明されなくても、たった少しのヒントを与えるだけで、すべて理解してしまう。


 キリシマが事件の発端を理解したところで、ナヴィはキリシマが解放軍として行ってきたことの、最大の間違いを指摘した。



「これでもう把握したと思うが、おまえは“未来”の方のキリシマだ! 塔に捕まっているのが“今”のキリシマ……この島では、その“今”と“未来”の二人のキリシマが存在している。


 確かに片方を消せば、もう一人は元の世界に帰れる……それは事実だ。しかし、“今”の人物が消え、“未来”の方が元の世界に帰ると、後々大変なことが起きる!!


 おまえはそれを考慮せず、異界人を大量に殺害した!! おまえは大きなミスを犯しているんだ!!」



 ナヴィの言った事実を、キリシマはもちろん知っていたわけがない。


『自分が行ってきたことは正しいことだ』


 そうキリシマは信じ、もう一人の自分が犯した罪の責任を取るためだけに、心を鬼にする想いで、ここまでやってきたのだ。



「なんだと!? 私が未来……? そんなバカな……私は間違いなく“今”を生きていたはずなのに……


 いや、待てよ。もう一人の“今”の私が装置を使い、未来に飛んだことで、タイムパラドックスが発生している……そう考えると、私が未来の方──それで辻褄があってしまうのか……?」



 本人は未来を生きているという自覚はない。

 自分が生きる世界が“今”だと考えるからだ。それも当然のことである。

 たが、キリシマは天才がゆえに、常人では分からぬことも、気づいてしまう。


 まず前提として装置を過去に遡って転送させることはできない。

 そして、自分は装置をおかしな使い方をした覚えはない……

 そうなれば必然的に『過去の自分がやった。何か仕出かした』と、いうことになってしまう。


 即ち、“今”を生きるもう一人の自分が、“未来”の自分に何かしらの影響を与えた──


 そう考えることしかできないのだ。

 よって、このキリシマは未来を生きていたと認めざるを得ない。





──はずなのだが………



「そ、そんなバカなことがあるわけないだろ!! 私が未来を生きていた? 未来の人間を殺せば、後に大変な影響を及ぼすだ!?

 私は騙されないぞ!! ライムを留置所に捕まえたと、嘘をつくような連中だ!! 誰がそんな作り話、信じるものか!!」



 ナヴィは想定外のキリシマの思考に狂わされた。

 


(否定した!? そんなはずはない……彼は時の研究の権威だ! そんな天才が、理解できない訳がない……)



 キリシマが分からないフリをしている。

 本当は分かっているはずなのに……理解しているはずなのに……

 今更知ることとなった不都合な出来事に、完全にシラを切っている。



「とぼけるのはよせ!! キリシマ!! 本当は分かっているんだろ? おまえがこの話を理解できない訳がない!! 自分の間違いを認めるんだ!!」



 キリシマの誤魔化しにも、決してナヴィは騙されない。

 それでもキリシマは、知らないフリを決め込み続けた。

 キリシマは俯き、両手に握りこぶしを作る。



「私が間違ってるのだとしたら……“あれ”は何だったのだ? これが私の“使命”だと……もう一人の自分の責任を取るんだと……必死にやってきたというのに……この島での私の行いは、一体何だったと言うのだ!!!」





第105話 “否定” 完

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