第103話「否定①」
時の支配者ナヴィは指揮を取り、時の塔の住人達に、解放軍キリシマを誘き出す作戦を伝えた。
その作戦は即座に遂行される。
キリシマ博士の提案の下、ナヴィが考えた作戦はこうだ。
まず塔の住人が各地に散らばり──
『キリシマの息子、ライムが塔の留置所に捕らえられた』
この嘘の噂を流す。
結果、その噂は人々に衝撃を与え、もの凄い速度で島全土に広まった。
島一番の注目を浴びる人物、キリシマの息子の話となると、与える影響は計り知れない。
そして次に、ある程度噂が広まった段階で、また別の噂を流す。次の噂はこうだ。
『もしキリシマが一人で訪れ出頭するならば、その代わりに息子ライムを釈放する』
もちろんライムは捕まってるわけでも、釈放されるわけでもないが、この嘘の噂を流すのにも理由があった。
解放軍は勢力を伸ばし、今や大所帯となっている。
息子救出のために、解放軍総出で来られても、こちらとしては困るところ。全面戦争だけは避けねばならない。
あわよくば、キリシマ自ら出頭し、事なきを得る形になれば簡単な話だが──キリシマもそんなバカではないだろう。それはないことは分かっている。
あくまで、キリシマを一人で誘き寄せる口実に過ぎない。
この作戦は着々と進み、二つの噂は島中にあっという間に広まった。
あとはキリシマが現れる、“その時”を待つだけ……
ライムとミサキ──救世主の二人は、キリシマ撃破のため、その時が来るまで、神力及び神獣の鍛練を積んでいた。
いつものようにライムとミサキが修行をしに、塔の外へと出ようとした瞬間──塔内の警告音が鳴り響く。
朝っぱらから鳴り響く爆音に、ライムは両耳を塞いだ。
「な、なんだ!?」
ナヴィはその警告音の意味をすぐに理解し、唾をごくりと飲み込んだ。
(──!!! とうとう来たか……)
慌てた声で、塔のアナウンスが流れる。
「遥か前方に捉えました!! キリシマです!! キリシマが一人で、こちらに向かってきています!!」
──ついに、“その時”は訪れた。
カコイマミライ
~時を刻まない島~
第103話
“否定”
時の塔の住人に、一気に緊張が走る。
ナヴィが先陣を切った。
「よし、行くぞ! ライム!! ミサキ!!」
「あぁ!!」 「分かったわ!!」
万が一の可能性として、キリシマが出頭する場合もある。
ナヴィとミサキが前を歩き、ライムは少し離れた位置で、キリシマから見えないように工夫を施す。
そんな陣形を敷きながら、こちらもキリシマに近づいて行くつもりだ。
ナヴィが塔の入り口に立つ、救護班に声をかける。
「救護班はいつでも準備できるように頼む!!」
「了解です! ナヴィ様!!」
ナヴィはライムとミサキを心配し、一番に身の安全を考慮した。
「二人とも。時の塔は安全だ! 万が一のことがあったら、必ず時の塔に逃げてくれ!!」
そう、時の塔は神力は無効化され、神獣の攻撃を寄せ付けない。いわば、島唯一の安全地帯なのである。
その時の塔を背に戦うことで、ライム達はいつでも安全が確保できる。
一番無茶をしそうなライムに、ナヴィは釘をさした。
「特にライム! 何もここで決着を急ぐ必要はないんだ。死んでしまえばそこで終わり……だから無理だけはしないでくれよ?」
「あ、あぁ! 大丈夫だって! 分かってるよ!!」
改めて命の大切さを二人に植え付けたところで、ナヴィはキリシマにゆっくりと近づいていく。
このまま行けばちょうど、このだだっ広い何もない平野──“ウェダル平野”でキリシマと落ち合いそうだ。
キリシマの取る態度、行動によっては……ここが戦場と化す!!
そして──
ついに先頭を歩くナヴィの目に、キリシマの姿が映った。
「──!! いた……本物だ。あのキリシマだ!!」