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第102話「罪悪感と責任感③」

 突然話を振られたライムは動揺する。


  

「──えっ? 俺? 俺が何かすればいいのか……?」



 ナヴィだけでなく、もちろん言われたライムにも分からない。博士はその理由を詳しく説明した。



「この島の習性を利用するんだよ! この島は“噂”が広まりやすい。他の伝達手段がないからか、分からないがね。

 これは身を持って体験済みだから、安心したまえ! 私の場合、キリシマのペアがいるとの噂は、島中に一気に広まった!


 キリシマの不利になる噂は、なぜか静かに消えるが……有利な情報は、あっという間に広まる!!」



 博士の言う島の噂話の件は、ライム達も似たような感覚を持ち合わせていた。

 確かに、この島の噂話は、異常なまでに広がりを見せる。

 博士がその習性を利用する策を提案した。



「そこで、こんな噂を流すんだよ。

『ライムがこの島に来ている』、『キリシマの息子がいる』ってな噂をな!


 するとどうだ? キリシマは間違いなくライムに会いに来るに決まってる!」



 博士の名案に、ナヴィが飛び付いた。



「それはナイスアイディアだね! 博士!! 

『ライムが塔に捕まった』そんな噂でもいいかもしれない! 行けそうな気がするよ!!」



 博士やナヴィの考えた噂話に、ミサキは不安要素を見い出す。



「博士を見てると、キリシマも同様に頭がいい人物なのが分かるわ! ライムがこの島に来ていることは知らなくても、キリシマにライムという息子がいるということを知っている人は、この島に何人かいるはず……

 オオヤマさんのような、研究所で働いていた人達みたいにね。そう考えると、キリシマは罠と怪しんで、警戒したりしないかしら?」



 キリシマのペアである博士は、頭を悩ませた。



「罠か……確かに警戒する恐れはあるかもしれない。実際にこれは誘き寄せる罠なわけだしな! だが、本人を目の前にして言うのは、照れ臭いところではあるが……」



 そう言って、博士はライムの顔をチラッて見た。そして、頬を赤らめながら言葉を続けた。



「ライムを愛する父の気持ちは計り知れんものがある!! 罠だろうが何だろうが、数パーセントの可能性があるかぎり、キリシマはライムを求めて必ずやってくる!! そう断言できよう!!」



 博士は、この作戦がうまく行くであろうことを、きっぱり断言した。


 これで決まった。

 早速、ナヴィはキリシマを誘き寄せる作戦に取りかかる。



「よし! これなら行けそうだ! ありがとう! 博士! ライム、ミサキ。この作戦をみんなに知らせに行こう!!」



「あぁ!!」



 三人は急ぎ足で、エレベーターへと向かった。


 しばらく会えなくなるかもしれない……

 いや、もしかしたらこれで会うのは最後かもしれない……

 そう感じたキリシマ博士は、ライムを呼び止めた。



「ライム……」



 ライムは博士の方を振り返る。

 博士は鉄格子から手を差し伸べていた。


 ライムは数々の情報提供の感謝の意を込めて、鉄格子の外から握手をかわした。

 博士はライムの手を両手で、ぎゅっと強く握る。



「気を付けろよ! それと……相手が私、父親だろうと、気にするな!! 容赦するなよ!! またあとで──必ず会おう!!」



 博士はライムとの再会を誓った。

 ライムも博士の気持ちを汲んで答える。



「あぁ、必ずだ!! 俺があなたのペアを倒してくる!! そして──」



 ライムは言葉を濁した。 

 少しの沈黙のあと、博士の目を見て力強くライムは言った。

 

 

「全部終わらせて、いっしょに元の世界に帰ろう!!」



 もちろんライムに父親の記憶が甦ったわけではない。

 しかし、博士の今までの態度や言動を見ていたライムには、しっかりと感じ取っていた。


『きっと尊敬するような、いい父親だったのだろう』


 そんな博士の息子を愛する気持ちを。

 その気持ちが十分に伝わったがために、ライムの口から『いっしょに帰る』との言葉が出たに違いない。


 思わず博士は嬉しさから、涙を流した。



「あ、あぁ……帰ろう……いっしょに。約束だ。頼んだぞ……ライム!!」



 ライムは頷き、そっと博士の手を離した。

 エレベーターへと乗り込む。


 博士は去り行くライムの姿が、視界から完全に消えるまで目を離すことなく、じっと見つめていた。


 残念ながら、博士の目は涙で滲み、息子の旅立つ姿を、この目にしっかりと焼き付けることはできなかったが──


 博士の手には、ライムの優しさがこもった手の温もりが、いつまでもいつまでも残り続けていた。






第102話 “罪悪感と責任感” 完

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