9… あの日の
「うわあああ」
売れない漫画家さんが悲鳴を上げる!
湯もみの温泉の中から、リ◯グの貞◯のようなダラダラ下がる長髪で、五メートルはありそうな巨大な女が現れたのだ!
「いけない、スチームファントムが変化しました!」
謎のイケオジが謎の腕時計で分析を始める。
「コレは…物質です!幻でも水蒸気でもありません、物質です!
怨念という電気信号を集めて脳を作り、何らかの材料を得て形作っています!」
「キモい…」流石のこまちちゃんも後ずさる。
「実態があるってことは倒せるんだな!みんないくぞ!」
コウレイジャー赤、やっぱりリーダー!前向きでカッコイイ!
「ラジャー!」「りょっ!」「いくぞっ!」「承知いたしました」
みんなは息が全くあっていない思い思いの返事で答える。
しかし、パッと見このタイプのスキーマーには、五人中三人の必殺技が効きそうにない。
梨乃さんの必殺技「エイジレス」(相手女だし)、秀治さんの「ボイル」(そもそもスチームファントムだし)、三郎さんの「スモークandスメル」(微妙)。
「まかせとけ!必殺、怪力!」
半蔵さんは思い切り怪物にパンチした!
手応えはあるが、なにせ相手が巨大なのでちょっとだけしか効いてない気もする。
黒の新入り、のぶちゃんが構えた。
「物質となった今、黒の必殺技“アブソーブandブレイクダウン”は効かないのでは?!」
「いや、まだ形になって間もない筈です、粒子に隙間があるかもしれません!
あ、こいつに名前を付けます!
十七時〇七分、宇宙怪物スキーマー、スチームファントム改、ビッグサダコ!」
と、それええんかという名前を謎のイケオジが叫ぶ。
「必殺!アブソーブandブレイクダウン!」
黒ののぶちゃんは手のひらをビッグサダコに向けて回し始めた。
最初は変化を見せなかったビッグサダコだったが、すぐに体の所々で形が崩れ始めた。
サダコから滲み出る霧のような粒子がのぶちゃんの手のひらに吸い込まれていく。
そして巨大な体の長い前髪が溶けて落ち、顕になった顔も眼球が崩れて鼻がもげる。
とんでもなく恐ろしい顔になっていった。
「んぎゃあああーーー」
怖いものがめちゃくちゃ苦手な売れない漫画家さんは絶叫する。
怪物はさらに、その体から腕や足がタコの足のようにウネウネ伸びて襲いかかってきた!
「怪力!」
赤の半蔵さんがパンチで吹き飛ばす!
「エイジレス!」
ないよりマシ!梨乃さんも若くなってちょっと機敏になった体で素早く避けたりキックしたりした!
みんなそれぞれ応戦したが、形が定まらない相手には終わりが見えない。
還暦戦隊たち、体力も二、三倍しかなちのですぐに息が上がってきた。
「やばい疲れた」
「あと、暑い」
「お腹減ったバイキングまだ」
「十六時までに終わりますかね…」
愚痴だけは増える。
こまちちゃんと売れない漫画家さんは出口のすぐそばの柱の影で隠れて見ていたが、漫画家さんが何か閃いたように言った。
「怨念を脳みそとして形を作っているのなら、怨念をどうにかしたらどうでしょう?!」
「それだ!」
この案にノリノリで乗ったのは謎のイケオジだけ。
「そんなんどーやるんだよ!」
キレる半蔵。
そうこうしているうちに、ビッグサダコはボールみたいにギュッと丸まった。
ボールの表面に髪とか目とか歯とかもバラバラに配置されてて気持ち悪さマックスだ!
ゴロゴロゴロー!!
サダコボールは狂ったように会場の中を転がった。
「当たってしまうと取り込まれるかもしれません!気を付けて下さい!」
と、謎のイケオジが叫んだ瞬間!
「あっ!」
「梨乃さん!」
梨乃さんが木製の客席に足をぶつけて転ぶ!
その後ろから、狙いを定めてきたサダコボールが襲いかかる!
「いけない!取り込まれたら、もう助けられません!」
「梨乃さーーーーん!!」
すぐ、そこに、サダコボール!
コケて起き上がることができない梨乃さん!
助けが間に合う距離にいない、他の連中!!
「!!!」
もうダメだ、誰もがそう思った、その時!
サダコボールがピタリと動きを止めた。
「!…?」
来るべき時に来ないので、恐る恐る振り返る梨乃さん。
サダコボールは梨乃さんの一寸後ろにいて停止(一寸って3センチぐらいです)、上の方がほんわか光っている。
見ると、そこには、さっきの殺された女の子と、道也さんと、その他五人ぐらいの誰かたちがボンヤリ見えた。
「え…道也…」
道也さんはもう答えない。
そこにいるヒトたちはそれぞれ、何か灰色の煙みたいなモノを抱えている。
煙が大きくなると、サダコボールは徐々に分解して溶けていった。煙とヒトたちは次第に高く上がっていく、その先には光が見えた。
「み、道也!」
梨乃さんは声を振り絞った。
「待って!お願い!少しだけ、少しだけ振り向いて!」
梨乃さんはヘルメットを脱ぐ。
「エイジレス」の効果で、若い頃の…道也さんと出会った頃の梨乃さんだ。
道也さんのナンパで出会った頃の梨乃さんだった。
もう、その時には道也さんの頭の部分は薄く消えていたのだか、指でピースサインを作って、そして全身が消えた。
「らしいなぁ、助けてくれたんだなぁ、みっちゃん」
半蔵さんがまた涙ぐむ。
「そのようですね」
謎のイケオジが静かに言った。
「怨念があるということは、優しい感情や愛情もまた、存在するということです。
それが意思をもっていると解釈していいのかどうかは分かりません。
しかし彼らは、確実にここにいるあなたたちを助けたいと思っていた“心”なんです。
きっと、怨念を天国に連れて行ってくれたのでしょう。」
「道也…」
必殺技が解けて元の六二歳に戻った梨乃さんだったが、心はあの日のままだった。
「いずれ私も天国に行く。その時、面白い話をたくさん持っていくね、道也。お酒でも飲みながらたくさん話そう」
天国に持って行けるのは思い出だけ。
みなさんも、たくさんたくさん素敵な思い出を作ってください。
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かくして、今回もなんとかなった還暦戦隊コウレイジャー。
ひと暴れしたおかげで、夕飯のバイキングもたっぷり食べることができたのであった。
お寿司、揚げたて天ぷら(二回)、焼き立てステーキ(二回)、うっかりカレー少々、からの唐揚げ、焼きそば、卵焼き、火をつけてテンション上がる小鍋、地元ならではの汁物、夏にはソーメン、作るのがめんどくさい煮物をおかわりの対象とし、なのにデザートは小さいケーキをマスの皿ギッチリ、あーっ!え?フルーツポンチ?最後の最後にセルフのソフトクリームがあるぅぅ(バニラとチョコ)をマストイートする人は皆、兄弟である…のだと!
コーヒーをブラックで飲んだらカロリーチャラだと思ってるヒト!
はい、正解だ!
温泉も食前食後朝方と三回堪能し、すっかり体から出汁が抜けたコウレイジャー御一行様は一泊して無事に帰宅の途に着いた。
途中の上野で、ブラックのぶちゃんはみんなとは路線を変えて帰った。(京成線)
梨乃さんは家には帰らず、店の方に寄った。
そして、二十一個目となるお守りを棚に押しピンで吊り下げた。
草津温泉の光泉寺で授かった、ピンク色の「遅咲き守り」だ。
人生でもうひと花咲かせたいヒトに人気、らしい。
「別に道也に操をたてるつもりなんてサラサラないから!
先に死んだ方が悪い、人生まだまだ三十年!アタシ新しい恋探すわよー!」
「よっ!梨乃ねえさん!」
結局みんな梨乃さんの喫茶店についてきていて、調子のいい合いの手を打つ。
お守り一個目の、どこかの神社の恋のお守りが…
ニコニコと揺れていた。
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暗い地下室。
シンプルな机の上に、パソコンが三台並んでいる。
真ん中の一台がカチッという音とともに軌道、椅子に座っていた人物の顔が明るく照らされた。
謎のイケオジだ。
画面の中の何かに話しかける。
「次は日光かもしれません」
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次回、新シリーズ始動!
ここまで読んでくださった皆様、ありがとうございました!
コウレイジャーの紙本は文学フリマ東京や通販で頒布予定です(^人^)
サークル「かんおけ文庫」までぜひ遊びにきてください〜♡




