第41話:最終告白(クライマックス)
風が、止んだ。
葉の揺れが、ぴたりと静まる。
音が、消える。
遠くの気配さえ、途切れたように。
「……」
庭園。
初めて出会った場所。
何度も通ったはずなのに——
今は、まるで別の場所のように見える。
「……」
何もない。
表示も。
選択肢も。
導きも。
どこにも存在しない。
ただ——
自分と。
目の前の相手だけ。
「……」
アルトが、いる。
変わらない距離で。
変わらない立ち方で。
だが——
今は、違う。
これは。
“イベント”ではない。
やり直しも。
最適化も。
存在しない。
「……」
息を吸う。
浅い。
うまく、整わない。
「……」
言葉を、探す。
だが——
見つからない。
整った言い回しも。
最適な順序も。
どこにもない。
「……」
それでも。
口を開く。
逃げないために。
ここまで来た意味を、捨てないために。
「……上手く言えませんわ」
最初の一言。
不完全なまま。
そのまま、落ちる。
「……」
アルトは、何も言わない。
ただ、聞いている。
それだけでいい。
「……」
続ける。
途切れながら。
迷いながら。
「間違えるかもしれません」
声が、少し震える。
隠さない。
隠せない。
「……」
胸が、痛む。
怖い。
あまりにも。
「……」
だが。
止まらない。
止まらないと、決めた。
「それでも——」
一瞬。
言葉が、途切れる。
沈黙。
逃げ場が、よぎる。
やめればいい。
まだ間に合う。
何も言わなければ。
失うことはない。
「……」
だが。
それでは、残らない。
何も。
「……」
息を吸う。
震えたまま。
それでも。
前を向く。
アルトを見る。
逃げずに。
まっすぐに。
「あなたが、好きです」
言い切る。
整っていない。
綺麗でもない。
最適でもない。
だが——
それでいい。
それがいい。
「……」
静寂。
何も返ってこない。
すぐには。
「……」
時間が、伸びる。
一秒が、やけに長い。
呼吸の音だけが、やけに大きい。
「……」
返事が、来ない。
来ない。
来ない。
「……」
胸が、強く締め付けられる。
遅い。
あまりにも。
遅い。
「……」
間違えたのかもしれない。
言わなければよかったのかもしれない。
すべてが、崩れたのかもしれない。
「……」
思考が、揺れる。
逃げたくなる。
だが——
もう、戻れない。
「……」
その時。
わずかに。
アルトが、息を吸う。
ほんの小さな動き。
だが——
それだけで、すべてが止まる。
「……」
視線が、合う。
逃げ場はない。
選択もない。
ただ——
答えだけが、残る。
「……はい」
短い。
それだけ。
それだけなのに。
重い。
あまりにも。
「……」
胸の奥に、落ちる。
静かに。
確かに。
「……」
そして。
少しだけ、間を置いて。
アルトが続ける。
「自分も、そうです」
同じではない。
言葉の形も。
熱の出し方も。
まったく同じではない。
だが——
確かに、同じ方向を向いている。
「……」
それで、十分だった。
完璧でなくていい。
揃っていなくていい。
それでも——
重なる。
「……」
息を吐く。
ようやく。
ゆっくりと。
「……」
何かが、ほどける。
張り詰めていたものが。
静かに。
確かに。
「……」
世界は、変わらない。
何も起きない。
光も。
奇跡も。
表示も。
どこにもない。
だが——
「……」
胸の奥に、残る。
消えないものが。
確かに。
「……」
視線を上げる。
アルトを見る。
少しだけ、距離が近い。
ほんの少しだけ。
だが。
決定的に違う。
「……」
これは。
消えない。
もう、消せない。
やり直せない。
だから——
本物だ。
「……」
風が、戻る。
ゆっくりと。
止まっていた時間が、動き出す。
音が、戻る。
世界が、息をする。
「……」
その中で。
二人は、ただ立っている。
特別なことは、何もない。
だが——
すべてが、変わっている。
「……」
選んだ。
逃げずに。
一度きりで。
それで、いい。
それが——
すべてだから。
(第41話 終)




