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全てをやり直せる悪役令嬢ですが、本命の好感度だけ操作できませんわ  作者: 南蛇井


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第21話:セラフィーナの理論展開

講義室は、静かだった。


 


 高い天井。

 整然と並ぶ机。

 無駄のない配置。


 


 その空間自体が、どこか“最適化”されているように感じられる。


 


「……」


 


 席に着きながら、ゆっくりと視線を巡らせる。


 


 いつもと同じ光景。


 


 同じ顔ぶれ。


 


 同じ空気。


 


 ——変わらないはずの世界。


 


 それでも。


 


 どこか、違って見える。


 


 理由は、分かっている。


 


 もう、“同じもの”として見られなくなっているから。


 


「……」


 


 前方。


 


 講壇の近くに、ひときわ整った存在が立っている。


 


 セラフィーナ。


 


 教師ではない。


 


 だが。


 


 この場の中心に立つことが、あまりにも自然だった。


 


 誰も疑問に思わない。


 


 誰も逆らわない。


 


 その存在自体が、“正しさ”のように見える。


 


「本日は、少し趣向を変えましょう」


 


 静かな声。


 


 よく通る。


 


 無理なく、全体に届く。


 


 無駄がない。


 


「テーマは、恋愛です」


 ざわめきが、わずかに広がる。


 


 だが、それもすぐに収まる。


 


 彼女の前では、長くは続かない。


 


「……」


 


 視線を上げる。


 


 嫌でも、耳に入る。


 


 逃げられない。


 


「恋愛は、感情の問題だと考える方が多いようですが」


 


 セラフィーナは、淡々と話す。


 


 説明するように。


 


 教えるように。


 


「それは、誤解です」


 


 即断。


 


 迷いはない。


 


 反論の余地も与えない。


 


「恋愛とは、構造です」


 その言葉が、静かに落ちる。


 


 だが。


 


 その意味は、重い。


 


「相手の性質。環境。選択の積み重ね」


 


「それらが積算され、結果が導かれる」


 


 一つ一つ、丁寧に。


 


 しかし、容赦なく。


 


「つまり——」


 


 わずかに間を置く。


 


 全員の意識を引き寄せてから。


 


「恋愛は、最適化可能な現象ですわ」


 断言。


 


 揺らぎのない結論。


 


 それは。


 


 かつて、自分が辿り着いた答えと。


 


 完全に一致していた。


 


「……」


 


 胸の奥が、わずかに軋む。


 


 否定できない。


 


 間違っていない。


 


 だからこそ。


 


 息が詰まる。


 


「重要なのは、選択です」


 


 セラフィーナは続ける。


 


 視線が、ゆっくりと教室をなぞる。


 


 そして。


 


 一瞬だけ。


 


 こちらで止まる。


 


 逃げられない。


 


「選択は、結果のためにありますの」


 静かな言葉。


 


 だが。


 


 逃げ場はない。


 


 すべての行動が。


 


 すべての言葉が。


 


 結果へと収束する。


 


 そのために、選ぶ。


 


 そのために、進む。


 


 それ以外の意味は、ない。


 


「感情は、その過程で発生する副次的なものに過ぎません」


 


 淡々と。


 


 切り捨てるように。


 


「感情は、その副産物に過ぎませんわ」


 教室が、静まり返る。


 


 誰も、反論しない。


 


 できない。


 


 論理として、完成しているから。


 


 否定するには、感情に頼るしかない。


 


 だが、その感情自体が否定されている。


 


 逃げ場がない。


 


「……」


 


 視線を落とす。


 


 机の上。


 


 何も変わらないはずの光景。


 


 だが。


 


 言葉だけが、残る。


 


 “選択は、結果のため”


 


 “感情は、副産物”


 


 それは、正しい。


 


 かつての自分が、証明してきたこと。


 


 間違いではない。


 


 ——それなのに。


 


「……」


 


 思い出す。


 


 あの空虚。


 


 あの軽さ。


 


 何度繰り返しても、残らなかったもの。


 


 それは。


 


 本当に“副産物”だったのか。


 


 なくてもいいものだったのか。


 


 削っても問題のないものだったのか。


 


「……」


 


 分からない。


 


 まだ、言い切れない。


 


 だが。


 


 引っかかる。


 


 消えない。


 


「質問は?」


 


 セラフィーナが問う。


 


 穏やかに。


 


 だが。


 


 その声には、確信がある。


 


 誰も何も言えないと。


 


 分かっているように。


 


「……」


 


 沈黙が続く。


 


 誰も、手を挙げない。


 


 誰も、口を開かない。


 


 それが。


 


 この理論の完成度を示していた。


 


「では、結論です」


 


 最後に。


 


 静かに締める。


 


「正しい選択を重ねれば、正しい恋が得られる」


 それが。


 


 この世界の“答え”。


 


 揺らぎのない、結論。


 


「……」


 


 息が、わずかに重くなる。


 


 正しい。


 


 否定できない。


 


 だが。


 


 その“正しさ”が。


 


 なぜか。


 


 ひどく遠く感じた。


 


 手の届く場所にあるはずなのに。


 


 触れた瞬間に、消えてしまうような。


 


 そんな感覚。


 


「……」


 


 視線を上げる。


 


 セラフィーナは、変わらず微笑んでいる。


 


 揺らぎのない存在。


 


 完成された形。


 


 ——正しさ、そのもの。


 


 そして。


 


 その正しさが。


 


 今。


 


 ゆっくりと、自分を締め付けている。


(第21話 終)

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