第11話:告白イベント(1回目)
夕暮れの庭園。
空はゆるやかに色を変え、橙と紫が溶け合っている。
風は穏やかで、花々は静かに揺れていた。
——選ばれた場所。
この時間、この位置、この光。
すべてが、整っている。
ここは——
告白イベントの発生地点。
「……来てくれて、ありがとう」
王子が、ゆっくりと口を開く。
その声は落ち着いていて。
わずかに、緊張が混じっている。
——想定通り。
「お呼びとあらば、当然ですわ」
柔らかく応じる。
視線の角度も、声の温度も。
すべて最適化されている。
沈黙が落ちる。
だが、それもまた——予定通り。
数秒後。
王子が、一歩踏み出す。
距離が縮まる。
空気が、わずかに張り詰める。
「レティシア」
名前を呼ばれる。
その響きは、真剣で。
真っ直ぐで。
揺らぎがない。
——完璧な前振り。
「私は——」
言葉が続く。
間も、タイミングも、正確に。
「私は、君を愛している」
落ちる。
静かに。
丁寧に。
言葉が、そこに置かれる。
——告白。
このルートにおける、到達点。
すべての選択の積み重ねが、ここに収束する。
視界の端。
【好感度:100(固定)】
数値が、動かない。
これ以上、上がらない。
——最大値。
完了。
ほんの一瞬。
沈黙。
——ここでの最適解は、決まっている。
迷う必要はない。
すでに、何度も確認している。
だから。
口を開く。
「光栄ですわ」
完璧な返答。
控えめで。
肯定的で。
品位を保った受諾。
王子の表情が、緩む。
安堵と喜びが混ざる。
「……そうか」
静かに息を吐く。
その姿は、どこまでも誠実で。
疑う余地がない。
——理想的な結末。
周囲の空気が、やわらかく変わる。
夕焼けが、少しだけ深くなる。
風が、静かに通り過ぎる。
すべてが、美しく整っている。
何一つ、欠けていない。
完璧な終着点。
——なのに。
「……」
胸の奥に、何も起こらない。
喜びも。
高揚も。
震えも。
何一つ。
感じない。
ただ、静かに。
何もない場所が、そこにある。
「……これで、完成ですわね」
小さく、呟く。
確認するように。
このルートは終わった。
選択はすべて正しかった。
結果も、理想通り。
——完璧。
それなのに。
胸の奥は、ひどく静かで。
空白のままで。
何も満たされていない。
「……」
王子が何かを言っている。
優しい言葉。
未来の話。
穏やかな約束。
すべて、理想的な続き。
だが。
その言葉は、どこか遠い。
聞こえているのに。
届かない。
まるで。
“すでに知っている台詞”を、もう一度なぞっているだけのようで。
指先が、わずかに冷える。
視線を落とす。
何も変わらない。
何も、動かない。
——達成したはずなのに。
——終わったはずなのに。
そこにあるのは。
ただの、静かな空白。
「……」
ゆっくりと、息を吐く。
微笑みを崩さないまま。
完璧なまま。
何一つ間違えないまま。
——それでも。
この結末には。
“実感”が、なかった。
(第11話 終)




