第1話:悪役令嬢、ログイン完了
——視線が、突き刺さる。
ざわめき。
冷たい石床。
高い天井に反響する声。
「レティシア・ヴァルモンド。貴様の罪を——」
……ああ、これ。
目を開けた瞬間、すべてを理解した。
ここは王立学園の大広間。
そして今まさに、私は断罪されている最中。
——悪役令嬢として。
「……は?」
思わず、間の抜けた声が出た。
だが次の瞬間、頭の中に雪崩れ込むように記憶が蘇る。
ゲーム。
選択肢。
ルート分岐。
そして——
破滅エンド。
「……なるほど」
口元に、自然と笑みが浮かぶ。
最悪の状況。
けれど、理解してしまえば——ただの“イベント”だ。
そのときだった。
視界の端に、微かな違和感が走る。
「……?」
瞬きをひとつ。
すると——
浮かび上がった。
半透明の、見覚えのあるUI。
王子の頭上に、細いバー。
淡く光る文字列。
【好感度:32】
……やっぱり。
視線を動かす。
別の人物にも、同じように数値が表示されている。
そして、ふと意識すると。
画面の端に、さらにいくつかの項目が展開された。
【ログ】
【選択履歴】
【セーブスロット:3】
「……ふふ」
思わず、笑いがこぼれる。
ここまで露骨なら、もはや隠す気もないらしい。
——これはゲームだ。
それも、ただの再現ではない。
操作可能な状態で、再構築されている。
ならば、話は簡単だ。
「少し、試させていただきますわ」
王子の声が続く。
「——貴様の行いは、到底看過できるものではない!」
断罪イベント。
ここでの選択は、本来ならひとつ。
反論すれば失敗。
黙っていても破滅。
——だからこそ。
「お言葉ですが」
わざと、選ぶ。
“間違った選択肢”を。
「それは事実ではありませんわ」
空気が凍る。
次の瞬間——
「まだ言い逃れをする気か!」
怒号。
視線が一斉に冷たくなる。
……はい、失敗。
わかりやすい。
意識を、内側に向ける。
——セーブ。
世界が、ほんの一瞬だけ歪む。
そして。
——ロード。
瞬間。
「レティシア・ヴァルモンド。貴様の罪を——」
同じ声。
同じ位置。
同じ空気。
完璧に、巻き戻った。
「……なるほど」
今度は、別の選択肢を取る。
「そのお言葉、少々誤解があるようですわ」
声のトーンを調整。
視線は柔らかく。
タイミングは半拍遅らせる。
——すると。
「……誤解、だと?」
王子の反応が、変わる。
空気が、さっきよりわずかに緩んだ。
視界の端。
【好感度:32 → 35】
「証拠をご覧いただけますかしら」
言葉を重ねる。
選択肢を、積み上げる。
周囲のざわめきが、少しずつ変質していく。
「……確かに、それは……」
王子の声が、揺れる。
——成功。
ゆっくりと、息を吐いた。
完全再現。
完全調整。
そして——完全制御。
「……恋愛とは」
小さく、呟く。
誰にも聞こえないように。
「“再現可能な現象”ですのね」
視界に並ぶ、選択肢。
積み上げられる、好感度。
何度でもやり直せる、未来。
ならば。
結末は、決まっている。
ゆっくりと、微笑む。
「攻略して差し上げますわ」
——この世界を。
(第1話 終)




