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卵が消える前に、冷たい会社が日本を救う ――ホルムズ封鎖の夏、正常化バイアスのかかった日本人は、まだ旅行の話をしていた――

✦卵が消える前に、

 冷たい会社が日本を救う


――ホルムズ封鎖の夏、

 正常化バイアスのかかった

 日本人は、

 まだ旅行の話をしていた――


………


戦争いうんは、

爆発音で始まるんやない。


最初に始まるんは、

卵の棚の奥行きが

少し薄うなって、

海苔一枚が急に

高級品みたいな顔をして、

冷凍ケースの前で


「これ、今のうちに

 買うた方がええんか?」


と、

人が迷い始めることじゃ。


その時、

正常化バイアスのかかった

日本人は、

まだこう言う。


「まあ、何とかなるじゃろ」


けどな。 


ほんまに何とかするんは、

テレビによう出る人やない。

派手な会社でもない。


食べ物を腐らせんように、

味も落とさんように、

日本人の胃袋が

空っぽになるまでの時間を

一日でも延ばす、


あの地味で巨大な

冷凍倉庫会社なんよ。


………


★【目次】


■第一章 

 相談役の机に並んだもの


■第二章 

 正常化バイアスの

 かかった日本人


■第三章 

 平時は

 一日百三十隻の海峡


■第四章 

 これは石油の話やなく、

 兵糧の話じゃ


■第五章 

 冷凍技術は

 「時間」を売る技術だった


■第六章 

 −1℃から−5℃の壁


■第七章 

 世界の肥料

 三分の一という喉


■第八章 

 六十日の餌、

 四十五日の沈黙


■第九章 

 海苔一枚十八・九六円の国


■第十章 

 二千七百九十八品目の悲鳴


■第十一章 

 マグロのドリップ二%


■第十二章 

 三千億円の客が来た理由


■第十三章 

 国家備蓄より先に動く

 民間の兵糧庫


■第十四章 

 港の冷たい廊下


■第十五章 

 腹が減ってからでは

 遅すぎる


★あとがき  

 ホームズとワトソンの、 

 やすきよ漫才風


❥Z世代のあなたへ


………


■第一章 

 相談役の机に並んだもの


その朝、

会議室の机に並んどったんは、

決算書やなかった。


卵。

海苔。

冷凍うどん。

マグロの切り身。

ブロッコリー。

小さい納豆のパック。


それから、

ホルムズ海峡を通る船の

本数を書いた紙じゃった。


六十七歳。

元証券会社勤務。

今は食品冷凍倉庫会社の

相談役みたいな顔を

しとる男は、

その並びを見て

ひとりで苦う笑うた。


「とうとう来たな。

 晩飯そのものが

 経営戦略になる時代が」


若い社員は最初、

その意味が

よう分からんかった。


冷凍会社いうたら、

倉庫の温度、

電気代、

冷媒、

トラック、

荷役、

そういう話をする

会社じゃろう、と。


けど相談役は

卵を指で転がしながら

言うた。


「違う。

 これから議論するんは

 売上やない。

 正常化バイアスの

 かかった日本人を、

 最後に何が食わせるか、

 その話じゃ」


その瞬間、

部屋の空気が

少しだけ変わった。

………


■第二章 

 正常化バイアスの

 かかった日本人


相談役は、

会議室の窓の外を

見ながら言うた。


「この国の人間はな、

 よう頑張る。

 よう我慢する。

 よう並ぶ。

 よう値上げにも耐える」


そこで少し間を置く。


「でもその代わり、

 おかしいことを

 “まだ普通”やと

 思い込みやすい」


若い社員が苦笑いする。


「正常化バイアスって

 やつですか」


「そうじゃ。

 卵が高うなっても、

 まあしゃあない。

 海苔が減っても、

 そんなもんか。

 肉の種類が減っても、

 今日は鶏でええか。

 そうやって、

 少しずつ削られることに

 慣れてしまう」


相談役は

机の上の冷凍うどんを見た。


「ほんまに怖い時代

 いうんは、

 いきなり全部なくならん。

 まず“選べる自由”の方が

 痩せるんよ」


牛をやめる。

豚を減らす。

魚を諦める。

海苔を一袋にする。

冷凍食品を一つ減らす。


そうやって日本人は、

自分が兵糧攻めの中へ

少しずつ入ってることに

気づかん。


「じゃけえ、

 うちみたいな会社の仕事は

 余計に重たくなる」


若い部長が聞く。


「なぜです?」


相談役は答える。


「人間が“まだ大丈夫”いう

 顔をしてる間に、

 食べ物の時間を

 先回りして

 確保せにゃならん

 からじゃ」 


………


■第三章 

 平時は

 一日百三十隻の海峡


スクリーンに映ったんは、

海峡の地図じゃった。


平時は

一日百三十隻前後が通る。


けど、ある十二時間では

動いたのが三隻だけ。


若い社員が

読み上げるたびに、

部屋の空気が重たくなる。


相談役はうなずいた。


「そうじゃろうな。

 見出しで“再開”いうても、

 物流は見出し通りには

 戻らん」


昔の相場でもそうじゃった。


“安心”の文字だけ先に上がる。

けど現物は帰ってこん。


「門が開いたように

 見えても、

 兵糧が入るとは限らん」


その一言に、

若い社員たちは

ようやく気づく。


これは

原油価格の会議やない。

物流会社の会議でもない。


日本人の晩飯の残量を

どう読むかの会議なんやと。


………


■第四章 

 これは石油の話やなく、

 兵糧の話じゃ


若い部長が言うた。


「でも結局、

 問題の中心は

 原油ですよね」


相談役は首を振った。


「そこがまだ甘い」


部屋が静かになる。


「石油が細る。

 それはもちろん怖い。

 けどほんまに怖いんは、

 石油が高いことやない。

 それで飼料と肥料と

 包材と冷却の全部が

 細ることなんよ」


彼は卵を持ち上げた。


「これが、

 いつまで普通の値段で

 普通の顔をしとれるか。

 そこが勝負なんよ」


魚。

肉。

豆腐。

納豆。

海苔。

冷凍食品。


全部、

原油だけの話では終わらん。


飼料。

肥料。

LNG。

電気。

フィルム。

印刷。

運ぶ燃料。


その全部が

食卓にたどり着く前に

絡み合う。


「戦争いうたら、

 みんな派手なもんを

 見たがる。

 でも兵糧攻めの時代に

 ほんまに大事なんは

 台所の残量なんよ」


………


■第五章 

 冷凍技術は

 「時間」を売る技術だった


若い社員が聞いた。


「でもうちは、

 結局は

 冷凍倉庫会社ですよね」


相談役は黒板に

大きく書いた。


✲時間 


「うちは

 魚を売っとるんやない。

 肉を売っとるんでもない。

 冷凍うどんを

 売っとるんでもない」


黒板を指で叩く。


「うちは、

 腐るまでの時間を

 延ばして売っとるんよ」


若い社員たちは

きょとんとする。


相談役は

ブロッコリーの袋を持ち上げる。


「食べ物は置いときゃ傷む。

 味が落ちる。

 栄養も逃げる。

 見た目も死ぬ。

 でも、

 冷凍がうまくいけば、

 その劣化を

 一日でも一週間でも

 先送りできる」


そこで少し声を強めた。


「兵糧攻めの時代に

 一番高いものは

 何やと思う?

 米でも卵でもない。

 食べ物の寿命を延ばす

 技術なんよ」


ここで、

部屋の見え方が変わった。


冷凍庫は箱じゃない。

この国の“猶予”を抱える

城なんや。


………


■第六章 

 −1℃から−5℃の壁


相談役は続ける。


「多くの人は、

 冷凍いうたら

 ただ凍らせるだけやと

 思うとる。

 そこが素人なんよ」


食品の中の水は、

−1℃から−5℃あたりで

大きな氷の結晶を

作りやすい。


この帯をノロノロ通ると、

細胞が壊れる。 

解凍した時に水が出る。

食感が死ぬ。

うまみが逃げる。

見た目も悪うなる。


「でも日本の急速凍結は、

 この危ない帯を

 一気に抜ける。

 そうすると細胞損傷が

 かなり抑えられる」


若い技術者が続ける。


「だから解凍した時に、

 魚や肉の中の

 水とうまみが

 外へ逃げにくい。

 ベチャッとせず、

 噛んだ時の感じも

 ちゃんと残る。

 だから戻した時に、

 “まだ生きとる”顔を

 しとるんよ」


相談役は笑うた。


「そうじゃ。うちは 

 凍らせとるんやない。

 壊さんように

 止めとるんよ」


この一言で、

冷凍技術が

ただの保存やなく、

時間を止める高度な技術やと

みんなの腹に落ちた。 


………


■第七章 

 世界の肥料三分の一という喉 


次の資料は肥料じゃった。


窒素。

リン。

カリ。


この島国は、

リンもカリもほぼ輸入頼み。

窒素も外に大きく依存する。


しかも、

世界の肥料貿易の

約三分の一が

あの細い喉元の影響を受ける。


相談役は静かに言う。


「ガソリンが高いなら、

 車を止める話になる。

 けど肥料が細るいうんは、

 来年の命が細る話になる」


若い社員が言うた。


「今年の棚の話じゃ

 ないんですね」


「そうじゃ。

 今年の値札はまだ入口じゃ。

 怖いんは、

 来年の畑が

 返事をせんなることじゃ」


冷凍倉庫会社いう仕事は、

食品の最後だけを

見るんやない。


その食品が

ここへ届くまでの

全体の時間を見んといけん。


そこまで見て初めて、

この会社はただの

地味な倉庫屋やなくなる。


………


■第八章 

 六十日の餌、

 四十五日の沈黙


次は飼料。


相談役はここを

一番長く見つめた。


「六十日。

 これが平時の顔じゃ」


「四十五日を

 超えたあたりから、

 笑えん顔になる」


採卵鶏は、

餌が細ると

数日から一週間で

産卵率が落ちる。

肉用鶏は成長が止まる。


立て直しには

半年から一年かかる

こともある。


「最初は市場に

 鶏肉がちょっと

 増えることもある。

 早出しするからな」


若い社員がうなずく。


「でもそれは安心やない」


相談役は言葉を切った。


「最後の晩餐じゃ」


兵糧攻めいうんは、

全部が一気に

消える話やない。


まず一回だけ、

平気そうな顔をするんよ。


そのあとで、

本当の沈黙が来る。


正常化バイアスのかかった

日本人は、

たぶんその最初の

平気そうな顔を見て


「やっぱり大丈夫じゃった」


と言うじゃろう。


そこが一番怖いんよ。


………


■第九章 

 海苔一枚十八・九六円の国


その日、

相談役は海苔を全員に回した。


「見てみい。

 乾のり一枚

 平均十八・九六円。

 五年前の約一・八倍じゃ」


若い社員が笑う。


「たかが海苔で、

 そんなに空気が

 変わるんですか」


「たかがやない」


相談役は、

海苔を指先で軽う弾いた。


「海苔いうんは、

 黒い紙みたいな

 顔しとるけど、

 雨と川と海の機嫌と、

 養殖の苦労と、

 運ぶ燃料と、

 この国の余裕の薄さが

 一枚に畳まれた

 もんなんよ」


「海苔一枚が

 高うなるいうんは、

 おにぎりが

 気軽な食べ物じゃ

 なくなるいうことじゃ」


若い社員のひとりが

ぽつりと言うた。


「値札って、

 世界史なんですね」


相談役は笑うた。


「そうじゃ。

 世界史いうんは

 派手なところより

 先に値札へ出るんよ」


………


■第十章 

 二千七百九十八品目の悲鳴


その春、

値上げは

二千七百九十八品目。


そのうち調味料だけで

千五百十四品目。


マヨネーズは六〜十%。

食用油は八〜十四%。

即席麺もじわじわ上がる。


相談役は言うた。


「一番怖いんは、

 主役の皿の前に

 台所の土台が

 重たくなることじゃ」


油。

タレ。

包材。

印刷。

輸送。

冷却。


つまり、

食材の中身より先に

“普通の献立”の方が

壊れ始めるんよ。


若い部長が続ける。


「だから

 冷凍技術が要るんですね。

 急いで使わなくていい。

 仕入れの時間差を

 吸収できる。

 旬を一回止められる」


相談役は

満足そうにうなずいた。 


「そうじゃ。

 冷凍いうんは節約やない。

 食卓の崩れる速度を

 遅くする技術なんよ」


……… 


■第十一章 

 マグロのドリップ二%


若い技術者が、

次の資料を出した。

マグロの比較データじゃった。


「普通の凍らせ方では、

 解凍した時に

 魚の中の水とうまみが

 七%も外へ逃げてしまう。

 けど高性能凍結では、

 それが二%で済む。

 つまり、味も食感も

 それだけ逃げにくいんよ」


「弾力も、

 生にかなり近い数字が

 出ています」


相談役は

その紙をしばらく見つめた。


「これじゃ」


七と二。

たったそれだけの差に見える。


けど、

刺身の顔は全然違う。

寿司屋の評価も違う。

スーパーの売れ方も違う。


冷凍マグロへの偏見も変わる。


「これはな、

 ただ冷たかった話やない。

 価値を壊さず

 持ち越した話なんよ」


解凍した時に、

魚の中の水とうまみが

外へ逃げにくい。 


だから身がベチャッとせず、

噛んだ時の

しっかりした感じも

残るんよ


「日本の冷凍技術が

 すごいんは、

 凍らせた時やない。

 解凍した時に

 本性が出るんよ」


若い社員が小さく言うた。


「日本の冷凍って、

 思ってたよりずっと

 繊細なんですね」


「繊細じゃ。

 でもその繊細さが、

 兵糧攻めの国を

 支えるんよ」


………


■第十二章 

 三千億円の客が来た理由


その日の最後に出た資料は、

例の大きな金の話じゃった。


ライバル会社が

五年間で三千億円。 


追加投資。

冷凍冷蔵。

自動化。

大型化。

新設。  


若い社員が聞く。


「なんで、

 こんな地味な業界に

 ここまで大きい金が

 来るんです?」


相談役は即答した。


「簡単じゃ。

 この国が 

 兵糧攻めに入った時、

 最後に値打ちが跳ねるんが

 冷たい技術やと

 分かったからじゃ」


「人間は食べられんと、

 心が先に細る。

 国家も、町も、店も、

 そこから順番に

 しんどくなる」


「なら、

 食べ物を一日でも長く

 腐らせず、味も落とさず、

 安全に抱えられる会社は

 ただの倉庫屋やない」


相談役は、

はっきり言い切った。


「隠れた成長産業なんよ」


ここで初めて、

若い社員たちは

三千億円の意味を理解する。


不動産やない。

箱やない。

冷気やない。


日本人の胃袋が 

空っぽになる速度を

遅らせる技術に、

資本が先回りして 

座りに来た。


それが、ほんまの意味じゃ。


………


■第十三章 

 国家備蓄より先に動く

 民間の兵糧庫


「国には備蓄がある」


テレビはそう言う。

政府もそう言う。

それは事実じゃろう。


けど、

毎日の食卓の全部を

魔法みたいに支えるんは、

そんな簡単な話やない。


実際に毎日、

魚や肉や

冷凍食品や加工品を

抱え、回し、出し、

繋いどるんは

民間じゃ。


相談役は言うた。


「最後に日本を

 食わせるんは、

 国家備蓄だけやない。

 民間の冷たい

 兵糧庫なんよ」


若い部長がうなずく。


「国が軽い時代ほど、

 民間が

 重たくなるんですね」


「そうじゃ。

 目立たんけど、

 こういう会社が止まったら

 晩飯の方が先に細る」


冷凍倉庫会社いう仕事は、

拍手されん。

テレビにもあんまり出ん。

ヒーローみたいな顔もせん。


でも兵糧攻めの時代には、

こういう地味な会社が

いちばん長く

正常化バイアスのかかった

日本人の胃袋を支える。


そこにこそ、

ほんまのかっこよさがある。


………


■第十四章 

 港の冷たい廊下


翌朝、

相談役は港へ行った。


そこには

派手なもんは何もない。


トラック。

フォークリフト。

冷蔵庫。

冷凍庫。 

眠そうな顔した

おっちゃんたち。 


けど彼は思うた。


「この国の延命装置、

 ここにあるやないか」


演説もない。

ミサイルもない。

拍手もない。


でも、

ここが止まったら

刺身が止まる。

冷凍うどんが止まる。

弁当が痩せる。

家庭の晩飯が細る。 


相談役は

冷たい廊下を歩きながら、

自分の手のひらを見た。


土を耕した手やない。

魚を釣る手でもない。

相場を読んできた白い手じゃ。


それでも、

この廊下の意味だけは

よう分かった。 


「国家安全保障いうんは、

 ほんまはこういう

 冷たい廊下のことを

 言わにゃならんのんよ」 


地味すぎる。

でも、

この地味さが

この国を

生かしとるんじゃから。 


………


■第十五章 

 腹が減ってからでは遅すぎる


最後の会議。


相談役は

若い社員たちに言うた。


「覚えとけ。

 うちがやっとるんは

 食品を預かる商売やない」


少し間を置く。


「正常化バイアスの 

 かかっ日本人が、

 腹を空かせるまでの時間を

 少しでも延ばす商売じゃ。」


そして、

もう一歩踏み込んだ。


「そのために、

 日本の冷凍技術は

 世界でも先頭集団でなきゃ

 意味がない。

 ただ冷やすだけなら

 どこの国でもできる」


「けど、

 細胞を壊さず、

 味を落とさず、

 栄養を持ちこたえさせ、

 戻した時に

 “まだ生きとる”顔をさせる。

 そこまでやって初めて、

 この国の晩飯を

 守れるんじゃ」


部屋は静かじゃった。

でも、その静けさの中に

確かな誇りが生まれとった。


冷凍倉庫会社は地味じゃ。

目立たん。

拍手もされん。


でも兵糧攻めの時代には、

地味なまま日本を支える

基幹産業になる。


相談役は最後に

小さく笑うた。


「腹が減ってからでは

 遅すぎる。

 それが、

 うちの商売の全部じゃ」


………


★あとがき

 ホームズとワトソンの、

 やすきよ漫才風 


✲ワトソン


先生、今回の話、

ようやく分かりましたわ。

冷凍倉庫会社いうんは、

ただの地味な倉庫屋や

ないんですな。


✲ホームズ 


そうだよ。

日本の冷凍は

“冷たい”だけじゃない。

戻した時に

どれだけ生に近いかを

執念深く追う技術なんだ。


✲ワトソン


執念深いなあ。

−1℃から−5℃を

急いで抜けるとか、

マグロのドリップが

七%から二%とか、

もう変態やがな。


✲ホームズ


いい意味での変態だよ。

そういう変態が、

国の胃袋を支える。


✲ワトソン


しかも

三千億円の金まで来る。

地味な仕事やのに、

なんでそんなにモテるんです?


✲ホームズ


人が兵糧攻めに入った時、

最後に値打ちが上がるのが

“食べ物を長持ちさせる技術”

だからだよ。


✲ワトソン


なるほどなあ。

卵が消える前に

冷たい会社へ

金が走るんやな。 


✲ホームズ


その通り。

腹が減ってから

倉庫を建てても遅いからね。


✲ワトソン


ほな最後に一言。


✲ホームズ


どうぞ。 


✲ワトソン


冷凍食品ナメとったやつ、

まずブロッコリーと

マグロと

港のおっちゃんに謝れ!


✲ホームズ


それは名推理だ。


✲ワトソン


推理やのうて、

ただの謝罪や!


………


❥Z世代のあなたへ


ここまで読んでくれて、

ありがとう。


たぶん多くの人は、

冷凍食品とか

冷凍倉庫とか聞くと、


「便利なやつ」

「レンチンのやつ」


くらいにしか

思ってなかったかもしれん。


けど、ほんまは違う。


日本の冷凍技術は、

季節を止める技術であり、

細胞を壊さんようにする

技術であり、

味や食感を未来へ送る

技術であり、


そして

正常化バイアスのかかった

日本人の胃袋が、

急に空っぽになるまでの

時間を買う技術なんよ。


これからの時代、

大事なんは

ただ不安になることやない。


何がほんまに

生活を支えとるのか。

どの技術が

明日の晩飯を守っとるのか。 

そこへ目を向けることじゃ。


お釈迦様が

この時代を見たら、

たぶん

こう言うんじゃないかと

わしは思う。 


「人は派手なものに

 目を奪われる。

 けれど命を支えるんは、

 たいてい静かで、地味で、

 毎日ちゃんと

 働いとるものじゃ」


それが見えたら、

この小説はただの

怖い話では終わらん。


それは、

この国の未来を読むための

新しい教養になるんじゃ。

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