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サウジアラビア・エフェクト ――最後に燃えるのはアメリカ――

✦サウジアラビア・エフェクト


――最後に燃えるのはアメリカ――


………


サウジが風邪をひいた時、

最初に青ざめたんは、

日本の島じゃった。


けどな。

最後に高熱を出して、

世界ごとベッドから落とすんは、

アメリカなんよ。


原油があるけえ大丈夫?

食料があるけえ無傷?


寝言は寝て言え。


帝国いうんはな、

大砲で倒れるんじゃのうて、

小さい部材と、

遅れた送金と、

一本のケーブルで

倒れるんじゃ。


………


★目次


■第一章 

 最初の悲鳴は、島から始まる


■第二章 

 アメリカは原油で死なん。

 けど、数字を見たら

 背筋が寒うなる


■第三章 

 AI帝国は、変圧器と

 電力とヘリウムでむせる


■第四章 

 医療大国は、

 針と袋と滅菌で転ぶ


■第五章 

 畑は広え。

 けど肥料と軽油がのうなっとる


■第六章 

 世界最大の輸入大国が、

 無傷なわけがねえ


■第七章 

 武装社会は、

 我慢より先にキレる


■第八章 

 海の底のケーブルが切れた時、 

 都市はどこから狂うんか


■第九章 

 最後の火種は、金融じゃ


★あとがき

 ホームズとワトソンの

 やすきよ漫才

 ――王様は、ネジ一本で転ぶ――


………


■第一章 

 最初の悲鳴は、島から始まる


67歳の元証券会社の

おじいちゃんは、

朝のニュースを見ながら、

コーヒーを一口すすって、

テレビを消した。


画面の中では、また

「原油価格」と

「停戦期待」と

「市場は冷静」いう言葉が

踊っとった。


けど、そんなもんは、

都会の人間の言葉じゃ。 


ほんまに先に壊れるんは、

王様の国やねえ。


島じゃ。

港じゃ。


フェリーが一本減っただけで、

棚の奥行きが浅うなる町じゃ。


ホルムズ海峡を通る石油は、

いまでも

日量およそ2,000万バレル級。


しかも、

流れとるんは原油だけやねえ。


✲「IEAは、湾岸から精製油製品が

  日量3.3百万バレル、

  LPGが日量1.5百万バレル規模で

  出とると整理しとる」


つまり細るんは、

ガソリンだけやのうて、

軽油、ジェット燃料、LPG、

石化原料、肥料まで一緒なんよ。


日本や韓国みたいに、

中東との距離が近うて、

しかも原油やナフサを

海で受けとる国は、

最初に顔色が変わりやすい。


じゃけど、この話を

「日本かわいそう」

で終わらせたら浅い。


ほんまに怖えんは、

この細い悲鳴が、

数週間から数か月遅れで、

アメリカの真ん中へ

返っていくことなんよ。


■第二章 

 アメリカは原油で死なん。

 けど、数字を見たら

 背筋が寒うなる


アメリカには原油がある。


そこだけ見たら、

たしかに強そうじゃ。 


「日本ほど困らん」

「中東が止まっても平気」

「食料もあるし、国土も広い」


そう言う人は多い。


けど、

元証券会社のおじいちゃんは、

数字を見る癖が抜けとらん。


そこで引っかかる。


✲「アメリカのモノの貿易赤字は、

  2025年に1.23兆ドルまで

  膨らんだ。


 2026年2月の

 モノの貿易赤字も846億ドル。


 さらに2026年度前半の

 財政赤字は1.169兆ドル、

 CBOの2026年度通年見通しは

 1.853兆ドル」


✲「IMFは、米国の一般政府債務が

  **2031年にGDP比140%**へ

  達する可能性まで示しとる」 


つまりアメリカは、

「世界一豊かな国」いうより、

世界中からモノを吸い込み、

借金で未来を前借りしながら

回しとる巨大装置として 

見た方が近い。


ここが肝じゃ。 


アメリカの弱点は、

「サウジ原油依存が

 日本並みに高い」

ことではない。


そうやのうて、

✲世界最大級の輸入依存

✲世界最大級の貿易赤字

✲世界最大級の財政赤字


しかも、上物の産業ほど

外の小さい部材に

ぶら下がっとること、

これなんよ。


読者に言うなら、

こうじゃ。


アメリカは、原油で死なん。

その代わり、

小さい物が来んことで

高熱を出す国なんじゃ。


■第三章 

 AI帝国は、変圧器と電力と

 ヘリウムでむせる


アメリカは今、

AIで天下を取る気じゃ。


データセンター。

クラウド。

GPU。

学習。

推論。

国家戦略。


けど、

そのAIを支えとるんは

カッコええ発表会やねえ。


電気じゃ。

変圧器じゃ。

開閉装置じゃ。

ケーブルじゃ。

冷却設備じゃ。

特殊ガスじゃ。


✲「Reutersは、データセンターが

  米国電力需要の2025年4%から

  2030年9%へ伸びる

  可能性を伝えとる」


✲「別のReutersでは、

 データセンターの電力使用量は

 2030年までに約4倍になる

 可能性があるとしている」


✲「EIAも、米国電力需要は

  2026年4,244 billion kWh、

  2027年4,381 billion kWhへ

  増える見通しを出し、

  テキサスでは

  2027年の卸電力価格が

  基準ケースより

  79%高い可能性まで示した」


つまりAI帝国いうんは、

頭の良さやのうて、

配電設備の太さで決まる時代

に入っとる。


そのうえ変圧器じゃ。


✲「Reutersによると、

  米国の大電力変圧器は

  8割超が輸入に頼っとる」


✲「Wood Mackenzie系の

  Reuters報道でも、

  2025年の米国向け供給では

  電力用変圧器の約80%、

  配電用変圧器の約半分が

  輸入品になる見込みじゃ」 


アメリカは今や、

世界最大の

変圧器輸入国なんだよ。


さらにヘリウム。


✲「Reutersは2026年3月、

 中東危機でヘリウム不足が

 すでにテック供給網へ影響し、

 スポット価格は

 危機開始後に倍増したと報じた」


ヘリウムは半導体、医療画像、

航空宇宙に使われる。


つまり、

AI、MRI、ロケット、軍需が、

同じ透明なガスで

首を絞められとる。


これらを、

読者向けに一行で言うなら、

AI帝国は、

コードで出来とるんじゃねえ。


変圧器とヘリウムで

出来とるんじゃ。


■第四章 

 医療大国は、

 針と袋と滅菌で転ぶ


アメリカ医療は高え。

とにかく高え。


でも、

高いことと強いことは別じゃ。


医療いうんは、

名医だけで出来とるんやねえ。


針。

シリンジ。

カテーテル。

袋。

樹脂。

包装。

滅菌。


FDAは

医療機器 shortage list を運用しとる。


✲「Reutersは2026年4月、

 心血管手技用シリンジをめぐって

 FDAが警告を出した件を報じた。


 その記事では、

 問題の製品に対して

 221件の苦情、

 177件の安全報告が

 出とったとされる」


最悪の故障は

空気塞栓のリスクじゃった。


✲「しかもAPによると、

 米国の医療機器の約半分は

 エチレンオキシド滅菌に

 依存しとる」


つまり

医療大国のほんまの弱点は、

医者の腕やのうて、

針と袋と滅菌の流れなんよ。


病院は急に

「終わりました」とは言わん。


そこが怖い。


まず納期が伸びる。

次に在庫が偏る。

次に優先順位がつく。

最後に、


「命に別状はありませんが、

 しばらく待ってください」


いう静かな地獄が始まる。


アメリカの医療は巨大じゃ。


じゃけど巨大じゃけえ、

細い管一本で、よう震えるんよ。


■第五章 

 畑は広え。

 けど肥料と軽油がのうなっとる


アメリカには畑がある。

そこは本当じゃ。


でも現代農業は、

土と水だけで回っとるんやねえ。


肥料。

軽油。

輸送。

乾燥。

冷蔵。

飼料添加剤。

包装。


✲「Reutersは、

 中東危機で米国の肥料価格が

 ニューオーリンズの輸入拠点で

 1トン516ドルから

 683ドルへ急騰したと報じた」


ほぼ32%上昇じゃ。


✲「別のReutersでは、

 その影響で2026年の米国農家が

 トウモロコシを減らし、

 大豆を増やす方向へ動いとると出た。

 アナリスト予想では、

 トウモロコシ作付け4.5%減、

 大豆5.2%増、

 春小麦は1970年以来の

 低水準に近づく見方まであった」


つまり、畑が広いことと、

平気でおれることは別。


最初に死ぬんは、

収穫量やのうて採算なんよ。


作っとっても儲からん。

燃料が高い。

肥料が高い。

運べん。 


そして畜産も同じじゃ。

トウモロコシがあるだけでは足りん。


飼料の配合、添加剤、物流、

冷蔵、処理設備。

そういう地味なとこが

全部つながって、

初めて肉や卵や牛乳になる。


若い読者に効く言い方はこれじゃ。


アメリカは食料大国じゃ。

でも食料流通大国でもある。

畑より先に、帳簿が死ぬ。


■第六章 

 世界最大の輸入大国が、

 無傷なわけがねえ


ここが、

この話のど真ん中じゃ。


アメリカは、原油がある。

食料もある。軍隊もある。

ドルもある。


でもな。

世界最大級の輸入大国なんよ。


2025年の

モノの貿易赤字1.23兆ドル。

2026年2月の

モノの貿易赤字846億ドル。


しかもその輸入の中身は、

でかい完成品だけやない。


変圧器。

絶縁材。

配電設備。

医療部材。

化学品。

包装材。

特殊ガス。

電子部品。

小さなネジ。

小さなセンサー。


そういう

「なくても一日は持つ。

 でも、ないと全部が遅れる」

もんばっかりなんよ。


世界はコスパ重視じゃ。


安いところで作る。

汚い仕事は外へ出す。

薄い在庫で回す。

必要な時に届けばええ。


それを世界一うまいことやって、

世界一でかくした国が

アメリカなんよ。


じゃけえ、

その仕組みが裏返った時、

いちばんでかい音を立てて

壊れる可能性がある。


アメリカは、

原油不足で即死はせん。


その代わり、

輸入依存の小物不足で、

巨大産業がまとめて熱を出す。


ここが、

読者にゾクッとさせる

本当の弱点じゃ。


■第七章 

 武装社会は、

 我慢より先にキレる


ここ、日本と決定的に違う。


日本は、

文句を言いながらでも、

しばらくは並ぶ。

しばらくは我慢する。


けどアメリカは、

そう簡単にいかん。


移民問題。

州ごとの温度差。

政府不信。

武装社会。

自警の空気。


✲「Pewによると、

 米国では成人の32%が

 自分で銃を所有し、

  約4割が銃のある家庭に住む」


✲「Reutersは2025年、

 ロサンゼルスの抗議対応で

 州兵4,000人と海兵隊700人が

 投入されたと報じた」


ここへ、 


物価高。

物流不安。

医療遅延。

通信障害。

雇用不安。

金融不安。


こんなもんが重なった時、

「みんなで我慢しましょう」

で済む土壌やねえ。


アメリカの怖さは、

物がのうなる速さやのうて、

空気が荒れる速さなんよ。


最初の悲鳴は島。

最初のパニックは帝国。


ここが、この小説の

一番ゾクゾクするところじゃ。


■第八章 

 海の底のケーブルが切れた時、

 都市はどこから狂うんか


戦争いうたら、

人はミサイルを想像する。


でも今の文明で先に効くんは、

ケーブルじゃ。

サイバーじゃ。

決済じゃ。


✲「Reutersは、

 イラン系ハッカーによる

 米国重要インフラへの攻撃が

 戦争開始後に激化したと報じた」


銀行もサイバー警戒を強めとる。


海底ケーブルの障害は、

アジアと中東の通信にも

実害を出した。


ここがほんまに嫌らしい。


銀行アプリが重い。

送金が遅い。

物流追跡が飛ぶ。

病院予約が乱れる。

在庫管理が見えん。

クラウドが不安定。


人間はな、腹が減る前に、

見通しがなくなると怒るんよ。


「いつ届くんか分からん」

「金が下ろせるんか分からん」

「本当に病院が受けてくれるんか

 分からん」


この“分からん”が、

都市をいちばん早う狂わせる。


ホルムズ由来のショックは、

燃料だけやない。


信頼そのものを濁らせるんよ。


■第九章 

 最後の火種は、金融じゃ


そして最後に来るんが、

金融じゃ。


ここが一番見えにくい。

でも、ここが燃えたら

世界が一緒に燃える。


✲「Reutersによると、2026年春、

  Barings、Apollo、Blue Owl、

  Ares、BlackRock などの

 私募クレジット系で

 解約制限や出金抑制が相次いだ」


FRBも、大手銀行の

2兆ドル規模の

プライベート・クレジット市場への

エクスポージャーを調べ始めた。


✲「Baringsの私募

 クレジット・ファンドでは、

 第1四半期の解約請求が

 11.3%に達し、

 実際に応じられたのは

 44.3%だけ」


✲「BlackRockの一部ファンドでは、

 12億ドルの解約請求に対して、

 払えたのは6.2億ドルじゃった」


これが何を意味するか。


金はある。

けど、すぐに動かせん。


そこへ、

エネルギー高。

AI設備の遅れ。

ヘリウム不足。

医療部材不足。

肥料高。

物流不安。

サイバー不安。


これが重なる。


その時、アメリカの高熱は

アメリカだけで終わらん。


ドル。

米国債。

送金。

ファンド。

年金。

保険。

クレジット。


その全部が、

世界中につながっとる。


サウジが風邪をひく。

日本の島がくしゃみをする。

韓国が節約を始める。

欧州が顔色を変える。


そして最後に――

アメリカの金融が震えて、

世界中の心拍数が上がる。


これが、

サウジアラビア・エフェクトの

最終着地点なんよ。


………


★あとがき

 ホームズとワトソンのやすきよ漫才

 ――王様は、ネジ一本で転ぶ――


✲ワトソン


先生、今回の話、

よう分かりましたわ。

アメリカは

原油があるけえ平気、

いう話は、

半分だけ本当で、

半分は寝言なんですな。


✲ホームズ


ほう。

今日はちいと

賢うなっとるがな。


✲ワトソン


いや先生、

わしも学習しとるんです。

AI時代ですけえ。


✲ホームズ


お前はまず、

自分の脳の接続工事を

終わらせえ。


✲ワトソン


ひどい言い方しますなあ。

で、結局なんで

アメリカが危ないんです?


✲ホームズ


簡単じゃ。

帝国いうんはな、

自分で全部作っとる顔をして、

実際は世界中の

小物に支えられとるんじゃ。

変圧器は8割超輸入。

データセンターは

2030年に電力需要の9%。

ヘリウム価格は倍。

肥料は516ドルから683ドル。

貿易赤字は1.23兆ドル。

財政赤字は通年見通しで

1.853兆ドル。

私募クレジットは2兆ドル市場。

王様ほど、

足元が数字で腐っとるんよ。


✲ワトソン


つまり、

でっかい王冠かぶっとるけど、

足元は百均のサンダル

いうことですな。


✲ホームズ


おお、

今日は例えがようなっとる。

けど百均に失礼じゃ。


✲ワトソン


いや先生、

百均は意外と丈夫です。

アメリカの方が

もろいかもしれませんで。


✲ホームズ


そうなんじゃ。

王様は大砲で倒れるんやねえ。

ネジ一本で転ぶんじゃ。


✲ワトソン


わし、そこが一番怖いですわ。

ミサイルが飛ぶ方が

まだ分かりやすい。

けど、

針が足りん、

袋が足りん、

ガスが足りん、

送金が遅い、

変圧器が来ん、

ネットが重い、

それが全部いっぺんに来たら、

笑えんじゃないですか。


✲ホームズ


喜劇いうんはな、

最初は笑える。

けど遅れて、

「これ現実じゃったんか」

いう涙が来るんじゃ。


✲ワトソン


ほな先生、

最後に一言でまとめてください。


✲ホームズ


よろしい。

サウジが風邪をひく。

日本の島がくしゃみをする。

韓国が節約を始める。

欧州が息をひそめる。

そして最後に――

帝国の金融が、

世界中へ高熱を配る。


✲ワトソン


笑うたらええんか、

泣いたらええんか、

分からんですわ。


✲ホームズ


その両方じゃ。

それが文明の落語じゃけえな。

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