非常ベルがあるのに、誰も押さん ――裸の王様が「文明ごと消す」と 、イースターに叫んだら、国会は風邪薬の説明書みたいに、「四日」「二十一日」「三分の二」を唱え始めた――
✦非常ベルがあるのに、誰も押さん
――裸の王様が
「文明ごと消す」と
イースターに叫んだら、
国会は風邪薬の説明書みたいに
「四日」「二十一日」「三分の二」
を唱え始めた――
………
一九六七年に
壁へ掛けられた非常ベルは、
今まで一度も、
ほんまの意味では鳴っとらん。
けどこの二週間、
裸の王様がTruth Socialで
「イラン文明ごと今夜消す」
とくしゃみしたら、
若い副将は
「fragile truce、
つまり脆い停戦です」
と言い、
廊下の議員たちは
「四日」「二十一日」「三分の二」
と、薬の説明書みたいな顔で
小声を数え始めた。
………
★目次
■第一章 四節いう非常ベル
■第二章 四日、二十一日、三分の二
■第三章 今まで誰も押してない
■第四章 王様と若い副将の二週間
■第五章 押すか、ねじ伏せられるか
■第六章 原油百ドルの世紀末
■第七章 一階だけ消火して、
平和と言い張る
■第八章 AIの城とコンセント不足
■第九章 ぶつぶつ交換の春
■第十章 ほんまの備蓄
★あとがき
………
■第一章 四節いう非常ベル
アメリカいう国には、
王様が急に倒れた時のための
制度がある。
死んだら誰が座るか。
辞めたら誰が上がるか。
自分で
「今日はもう無理です」
と言うたら、
誰が代わるか。
ここまでは、きれいな話じゃ。
問題はその先なんよ。
王様が自分で降りん。
けど周りが見たら、
「いや、これは
ちょっと危ないぞ」
という時。
そのための仕組みが、
修正第二十五条の四節じゃ。
副大統領と閣僚の過半数が
「大統領は職務不能です」
と議会へ書面を出す。
その瞬間、
副大統領が大統領代行になる。
王様が
「ふざけるな、わしは元気じゃ」
と反論しても、
そこで終わりやない。
■第二章
四日、二十一日、三分の二
まず王様が反論する。
「まだできる」
と書面を出す。
すると、
副王様と家来の過半数には
4日以内にもう一回
書面を出す猶予がある。
そこで再通知が出たら、
議会が
21日以内に決める。
ほんで最後は、
上院3分の2、
下院3分の2。
両方でそこまで
集まって初めて、
副王様の代行が続く。
つまり四節は、
王様を嫌いやけえ
追い出す制度やない。
王様がまだ喋っとるのに、
その喋り方が
国ごと火をつけそうな時に、
家来側が人生を賭けて
押す非常ベルなんじゃ。
しかも、そのベルは
今まで一度も
四節では鳴っとらん。
説明書はある。
押し方も書いてある。
けど新品のまま
壁に掛かっとる。
そこがもう、
ブラックユーモアなんよ。
■第三章 今まで誰も押してない
ベルはある。
でも前例がない。
これ、
むちゃくちゃ怖いんじゃ。
火事報知器は付いとる。
説明書もある。
消防訓練の紙もある。
でも、
本番で押した人間の
末路だけは誰も知らん。
じゃけえ、
制度が動く前に
まず動くんは、
憲法やない。
国会の廊下じゃ。
「最近おかしくないか」
「いや、前からあんなもんじゃろ」
「でも今度は度が過ぎとる」
「10分で2回も変更やぞ」
「あいつらは動物じゃと?」
「核兵器?本気やろか?」
「あれって インサイダー じゃろ」
「まぁ、やらすだけやらしとけ」
「ドクターストップ 寸前?」
「いや、まて、
今ここでベル押したら
押した方が終わるで」
国を動かしとるようで、
実は人間世界はだいたい
廊下のひそひそ話でできとる。
■第四章 王様と若い副将の二週間
この二週間でいちばん
おもろうて怖かったんは、
王様と若い副将の
役割分担じゃった。
王様は大きいことを言う。
「文明ごと消す」と
イースターに叫ぶ。
待てと言う。
急げと言う。
今度は「交渉は近い」と言う。
副将はそのたびに出てきて、
「王様はいら立っとる」
「停戦は fragile truce、
脆い停戦です」
「イランは交渉に
誠実にやれと言うとる」
と、
王様の怒鳴り声を
外交文に翻訳する役を
やらされとった。
ほんで別の日には、
副将は
「この停戦に
ホルムズは含まれてない」
と言う。
仲介した側は
「いや含まれてる」
みたいな顔をする。
世界中が、
王様の言葉より副将の注釈の方を
必死で読み始めた。
これ、若い副将にしたら
たまらんで。
前へ出される。
説明をやらされる。
失敗したら矢面。
成功したら王様の手柄。
上手いこといけば
「わしの采配じゃ」。
こけたら
「あれは副将が
うまくやれんかった」。
こういう世界では、
若いいうんは才能やない。
責任を押しつけやすい年齢なんよ。
■第五章 押すか、
ねじ伏せられるか
ほんでここからが、
今回のいちばん
ゾクッとする所じゃ。
議会では、
二十五条
ブリーフィングの話が出る。
戦争権限を縛る決議も出る。
つまり、
ベルを見上げる議員は増えとる
(民主党70人超が
「今すぐ発動せえ!」
と叫んどる)。
けど王様の耳にも、
その話は入るはずじゃ。
「誰がそんなこと言うとるんだ」
「名前を挙げろ」
「わしは元気じゃ」
「不忠なやつから替えろ」
「わしの言うこと聞かんやつは
クビ じゃ」
「地上戦?
勝つに決まっとるやろ!」
実際、こういう政権では
安全保障まわりの人事は揺れ、
高官の首が飛び、
忠誠心が能力より上へ来る。
じゃけえ
今回の緊張感はこうなんよ。
ベルが押されるかもしれん。
でもその前に、
ベルの近くに立つ人間が
入れ替えられるかもしれん。
制度と人事の早押し競争。
これが今の怖さじゃ。
■第六章 原油百ドルの世紀末
ここから先は、
王様の椅子の揺れが
庶民のレシートへ
降ってくる話じゃ。
ホルムズ海峡は、
世界の石油輸送の約20%を通す。
つまり、
あそこが詰まれば
文明の血が細る。
三月から四月にかけて、
原油は実際に
むちゃくちゃ振れた。
ある日は
WTIが11%超上昇、
ブレントは112ドル台、
一時120ドル超え。
停戦発表(4月7-8日)で
一気に13-16%暴落、
ブレント94ドル、
WTI95ドル前後まで落ちた。
市場そのものが発熱しとる。
小説の近未来予想は、
こう置ける。
❥王様が「勝った」場合
(四節を押させず、
反対派もねじ伏せ、
「わしは元気じゃ」
で押し切る)
✲原油 95〜115ドル帯で高止まり
✲物流費 5〜12%高止まり
✲ガソリン・軽油の値札が
週単位で書き換わる
✲食料と日用品は
「中身はあるのに届かん」
欠品が増える
→Z世代のUber Eatsも、
配送料が跳ね上がって
「今日のラーメンは
我慢するしかねぇ」
❥王様が「負けた」場合
(失権・辞任・実質退場・
四節発動に近い形で
マーケットが
「戦争声量下がる」
と受け取る)
✲原油 10〜18%下落
✲ダウ +1,000〜+1,800ドル
✲日経 +4〜+7%
✲ガソリンは数週間で
0.4〜0.9ドル/ガロン低下
✲ただしホルムズの火種が残れば
物流の詰まりはすぐには直らん
つまりこうじゃ。
王様の勝ち負けは、
末端のわしらには
“今日はUberやめて豆腐にするか”
いう形で届く。
政治は遠い。
でもレシートは近い。
■第七章
一階だけ消火して、
平和と言い張る
その頃、別の部屋では
まだ火事が燃えとった。
イランでは
停戦の看板は立っとる。
副将は
「ホルムズは対象外です」
と言う。
一階だけ消火して、
二階は燃えたまま、
「この家は平和になりました」
と言い張るんじゃから。
世界は時々、
言葉だけ先に平和になる。
現場はそのあとで
置いて行かれる。
■第八章
AIの城とコンセント不足
王様のくしゃみは、
未来産業にも響く。
米国のデータセンター電力需要は
2030年ごろまでに4倍化見通し。
AIの城は建てたい。
でも電気と水と
送電線が追いつかん。
Bloombergの最新情報では、
2026年に予定されてた
データセンターの約半分が
着工遅延かキャンセル。
原因は変圧器・スイッチギア・
バッテリーの深刻な不足
(中国依存も残っとる)。
着工予定案件の15〜25%が
半年以上遅延、
5%前後が延期か再設計。
半導体株は安心感で跳ねても、
三か月後には
電力・住民反対でまた重うなる。
未来のボス戦みたいな
顔しとるのに、
敗因はコンセント不足。
これ、
Z世代には逆に刺さるわ。
世界のトップが
狂騒を演じとる横で、
AIの未来は
延長コードみたいな現実に
足を引っぱられるんじゃ。
■第九章 ぶつぶつ交換の春
拝金主義は、
短期間では治らん。
王様が勝っても負けても、
大金持ちは
大金持ちの戦いを続ける。
でも下の方では、
空気が変わり始める。
現金より先に、
安定がほしくなる。
安定より先に、
「とにかく今日食えるもん」
がほしくなる。
そうなると人間は、
きれいな経済理論より先に、
ぶつぶつ交換みたいな
感覚へ戻っていく。
ガソリンが高い。
配送料が高い。
電気代が高い。
だったら、
物と物、
助けと助け、
時間と時間を
直接交換した方がええ、
という空気が戻る。
文明は高うなればなるほど、
最後は妙に原始的になる。
そこがまた、
ブラックユーモアなんよ。
■第十章 ほんまの備蓄
原油。軽油。重油。ガス。
ナフサ。米。水。薬。
バッテリー。
全部いる。
けどほんまに先に切れるんは、
案外そういうもんやない。
会話じゃ。
思いやりじゃ。
相手の話を最後まで聞く力じゃ。
嘘で押し切らん心じゃ。
支持率がどんな数字でも、
それが残っとればまだ間に合う。
逆に言えば、
それが切れた国では、
何人王様を取り替えても、
また次の裸の王様が育つ。
非常ベルは壁に掛かっとる。
けど、それを押す指にまで
優しさや正直さが
備蓄されとるわけやない。
そこが、この時代の
いちばん怖い所なんじゃ。
………
★あとがき
――ホームズとワトソンの、
やすきよ漫才ふう締め――
✲ワトソン
「おいホームズ、
やっと分かったわ。
四節いうんは、
王様が自分で降りん時の
非常ベルなんじゃな。」
✲ホームズ
「そうじゃ。
しかも今まで一度も
押されたことがない。」
✲ワトソン
「なんじゃその
一番大事なボタン!
新品のまま壁に
掛けとるんか!」
✲ホームズ
「説明書だけは立派なんじゃ。
四日、
二十一日、
三分の二。」
✲ワトソン
「二十一日は何なんや!」
✲ホームズ
「議会の最終期限じゃ。
そこで上院も下院も
決めるんじゃ。」
✲ワトソン
「三分の二は?」
✲ホームズ
「上院三分の二、
下院三分の二。
両方要る。」
✲ワトソン
「めちゃくちゃ重いがな!」
✲ホームズ
「じゃけえ非常ベルなんじゃ。」
✲ワトソン
「ほいで王様が勝ったら
どうなるんや。」
✲ホームズ
「原油高。物流高。
くしゃみ一発で
庶民のレシートが長うなる。」
✲ワトソン
「負けたら?」
✲ホームズ
「市場は拍手する。
ダウは跳ねる。
原油は下がるかもしれん。
でもホルムズの火種は、
そのままじゃ。」
✲ワトソン
「どっちにしても
地獄が残るがな!」
✲ホームズ
「じゃけえ
ブラックユーモアなんじゃ。」
✲ワトソン
「ほな最後に足りんのは
何なんや。」
✲ホームズ
「思いやりじゃ。」
✲ワトソン
「また急にええ話に戻す!」
✲ホームズ
「笑うて読んだあと、
ちょっと胸が痛うなる。
そのくらいが、
今の世界にはちょうどええ。」
✲ワトソン
「……ほな一言だけ
言わせてもらうで。
裸の王様がくしゃみするたび、
国会が風邪薬みたいな
言い訳でいっぱいになる
国はな――」
✲ホームズ
「うん。」
✲ワトソン
「非常ベルの点検も
大事じゃけど、
人間の心の点検の方が先じゃ。」
✲ホームズ
「名言じゃ。」
✲ワトソン
「じゃろ。でもな、ホームズ。」
✲ホームズ
「なんじゃ。」
✲ワトソン
「わしも最近、
ちょっと咳が出るんよ。」
✲ホームズ
「それは花粉じゃ。
何でも王様のせいにするな。」
✲ワトソン
「なんでや!そこは最後、
王様のせいで終わらせえや!」
✲ホームズ
「何でも
王様のせいにし始めたら、
また
次の王様が育つんじゃ。」
✲ワトソン
「……ああ。それ、
いちばん怖いやつじゃが。」




