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地球が、水を飲めなくなった日(笑) ――火の国、洪水の国、そして卵が消える国―― «地球は、水を失ったんじゃない。 水を飲める土と、 水を逃がせる町を失ったんじゃ。»

✦地球が、水を飲めなくなった日(笑)


――火の国、洪水の国、

 そして卵が消える国――


«地球は、水を失ったんじゃない。

水を飲める土と、

水を逃がせる町を失ったんじゃ。»


………


★目次★


■第1章 

地球が、おしっこを漏らした日


■第2章 

十一万八千七百三十七ヘクタール

の火


■第3章 

平均では、誰も助からない


■第4章 

 雪が三十一%消えた春


■第5章 

 地球の内臓が減っている


■第6章 

 エルニーニョは天気予報ではない


■第7章 

 海峡は、海のETCになった


■第8章 

 石油より、ドル


■第9章 

 地図では前進、給油所では後退


■第10章 

 軍艦は不動産を売ってくれない


■第11章 

 韓国の巨大な賭け


■第12章 

 AIは水道管を直せない


■第13章 

 鳥が持ってきた警報


■第14章 

 五年後、日本に残るもの


■第15章 

 町に小さな池を作る日


❥Z世代のあなたへ


★あとがき

 ホームズとワトソンの 

 屋敷漫才(笑)


………


■第1章 

 地球が、おしっこを漏らした日


「おじいちゃん」


ゆづきが、

朝からスマホを見ていた。


「フランスは山火事。

 インドは大雨で空港が止まる。

 中国でも洪水。

 オーストラリアには

 鳥インフルが来た」


僕は、湯のみを置いた。


「地球、壊れたん?」


「壊れたんじゃない」


そう答えてから、少し考えた。


「いや。壊れかけとるのは、

 地球そのものより、

 人間が地球の水を扱う

 仕組みかもしれん」


「どういうこと?」


「人間で言えばな。


 地中海は、喉が乾いている。

 インドや中国は、

 急にトイレが近くなっている。


 飲んだ水を、

 体の中に保てんのじゃ」


ゆづきは顔をしかめた。


「朝から例えが汚い」


「だが、分かるじゃろ」


「分かる。

 分かるから困る」


ニュースは、事件を一つずつ流す。


火事。


洪水。


鳥インフル。


原油。


戦争。


AI。


だが五年後、僕らが本当に困るのは、

事件が増えることではない。


事件が同じ週に、

同じ国で、

同じ町の中で重なることじゃ。


………


■第2章 

 十一万八千七百三十七ヘクタール

 の火


二〇二六年七月一日までに、

EUでは

十一万八千七百三十七ヘクタールが

焼けた。


火災は九百六十二件。


長期平均の四百四十六件を、

もう大きく上回っていた。


「数字が大きすぎて、分からん」


ゆづきが言った。


「東京ドームなら、二万五千個分近い」


「そんなに?」


「そうじゃ」


火は、森だけを食べない。


道路を止める。


送電線を焼く。


観光地を閉める。


病院を圧迫する。


避難所を満杯にする。


消防車を、次の町へ回せなくする。


そして火が出す二酸化炭素は、

二〇二六年の前半だけで

五百十三万トンに達した。


火を消せない。


火が空を温める。


温まった空が、

次の乾燥と次の火を呼ぶ。


「火事って、

 火事で終わらんのじゃね」


「終わらん」


僕は言った。


「火は、

 次の火の燃料まで作る」


………


■第3章 

 平均では、誰も助からない


「でもニュースは、

 今年の雨量は平年並みとか言うよね」


「平均は、優しい顔をしとる」


僕は、ゆづきに言った。


一年に少し雨が増えた。


それだけなら、

傘を一本増やせばいい。


だが現実は違う。


一か月かけて降る雨が、

一晩で落ちる。


雨が降らない期間が長い。


土が固くなる。


そこへ豪雨が来る。


土が水を飲めない。


水が道路を走る。


地下道へ落ちる。


駅へ入る。


空港が止まる。


「じゃあ、

 雨が多い国は得じゃないん?」


「雨が多いことと、

 水を使えることは別じゃ」


洪水の水は、

飲み水にはならない。


流された土は、

翌週の畑を助けない。


壊れた橋は、

平均降水量では直らない。


«平均は、統計には便利じゃ。

でも洪水の夜には、

浮き輪にならない。»


………


■第4章 

 雪が三十一%消えた春


ヨーロッパの二〇二五年三月。


雪に覆われた面積は、

平年より三十一%少なかった。


面積にすると、

百三十二万平方キロメートル。


フランス、ドイツ、イタリア、

スイス、オーストリアを

合わせたほどの雪が、

平均より少なかった。


「雪が少ないだけで、

 そんなに困るん?」


「雪は、夏の水じゃ」


冬に積もる。


春に溶ける。


川になる。


畑へ行く。


ダムへ入る。


地下水へしみる。


森を湿らせる。


雪は、半年先の夏へ届く

水道料金の前払い

みたいなものじゃ。


それが減る。


夏の川が細る。


畑が困る。


水力発電が困る。


森が乾く。


火が燃えやすくなる。


「冬の雪が、

 夏の火事につながるん?」


「全部、遅れてつながる」


人間の失敗も同じじゃ。


今日、修理を後回しにする。


十年後、橋が落ちる。


今日、山を放置する。


二十年後、火が町まで歩いてくる。


………


■第5章 

 地球の内臓が減っている


「じゃあ、雨を止めればいいん?」


「止められん」


「じゃあ、どうするん」


「ためるんじゃ」


人間の体なら、腎臓。


町なら、土。


森なら、根っこ。


田んぼなら、水田。


湿地なら、巨大なスポンジ。


けれど世界では、

水をため、

ゆっくり流す場所が減っている。


流れが大きく落ちた河川流域は、

世界で四百二。


縮んだり消えたりした

川、湖、湿地などは三百六十四。


「地球の内臓が減ってるみたい」


「まさにそうじゃ」


僕は言った。


「人間は、道路や工場を作った。


 だが、水をゆっくり飲むための

 地球の内臓を削った」


雨が降る。


昔なら土へ入る。


今はアスファルトを走る。


側溝へ入る。


あふれる。


地下道へ落ちる。


町へ戻る。


「便利にした結果、

 水の逃げ道をなくしたんじゃね」


「水にとっては、

 人間の便利が

 迷惑だったんじゃろうな」


………


■第6章 

 エルニーニョは天気予報ではない


「エルニーニョって何だっけ」


ゆづきが聞いた。


「太平洋の海が、

 世界の天気に

 余計な口出しをする現象じゃ」


「説明が雑」


「だが本質はそうじゃ」


海が温まる。


空気が水蒸気を抱える。


風の道が変わる。


雨の場所が変わる。


暑さの場所が変わる。


WMOは、

二〇二五年から二〇二九年の

五年間平均気温が、

産業革命前より

一・五度を超える確率を

七〇%と見ている。


「一・五度って、

 小さくない?」


「熱が一・五度上がった

 人間を考えてみい」


ゆづきが少し黙った。


「しんどい」


「地球も同じじゃ」


一・五度は、

地球にとって微熱ではない。


海が抱える水蒸気が変わる。


土の乾き方が変わる。


夜の気温が下がらなくなる。


病院の救急が増える。


電力の使い方が変わる。


食べ物の値段が変わる。


«天気予報は、傘を持つ話じゃ。

気候の変化は、

町の設計図を書き換える話じゃ。»


………


■第7章 

 海峡は、海のETCになった


僕は地図を開いた。


「ここがホルムズ海峡。


 ここが紅海。


 ここがバブ・エル・マンデブ海峡。


 ここがスエズ運河」


「名前が多い」


「世界は、狭い場所で止まる」


石油。


LNG。


食料。


部品。


半導体装置。


車。


コンテナ。


全部、海を通る。


でも今の海は、

昔のように自由ではない。


船籍はどこか。


保険は入れるか。


何を積んでいるか。


どこの港へ行くか。


誰に狙われるか。


「海のETCじゃね」


「通行料は、お金だけじゃない」


僕は言った。


「保険料。


 遠回り。


 運賃。


 日数。


 そして命じゃ」


一つの海峡が詰まる。


石油が高くなる。


電気代が上がる。


肥料が高くなる。


食料が高くなる。


町のスーパーの値札まで、

遠い海の銃声が届く。


………


■第8章 

 石油より、ドル


世界の原油供給は、

日量一億バレルを超える。


「そんなにあるなら、

 石油は足りるんじゃない?」


「足りない時もある。


 だが、もっと怖い時がある」


「何?」


「石油を売らんと、

 国にドルが入らない時じゃ」


原油価格が下がる。


産油国は困る。


軍事費。


補助金。


公共事業。


若者の仕事。


社会保障。


全部にドルが要る。


だから値段が安くても、

売る量を増やしたくなる。


売る。


余る。


また値段が下がる。


また売りたくなる。


「安売り地獄じゃん」


「国家でも、あるんじゃ」


世界の石油は、

地面から出る黒い液体ではない。


国の財布から流れる

黒い血液でもある。


「じゃあ五年後は?」


「石油不足だけを見る人は、

 次の石油余りを見落とす」


僕は言った。


「市場はいつも、

 今いちばん怖いものを

 最後まで買うからのう」


………


■第9章 

 地図では前進、給油所では後退


ロシアでは、

前線の地図が毎日動く。


「ここを取った」


「敵を押し返した」


「勝利は近い」


けれど別の画面では、

給油所に車が並ぶ。


燃料が高くなる。


農家が困る。


運送が遅れる。


物価が上がる。


「戦争って、

 勝ってる側も困るん?」


「勝っていると言う側ほど、

 困っていることがある」


軍事力は、ミサイルだけではない。


燃料。


トラック。


タイヤ。


整備士。


橋。


鉄道。


食料。


兵士の家族。


一つの工場が壊れる。


一つの製油所が止まる。


一つの港が詰まる。


すると前線の兵隊の靴まで、

遅れて困る。


«地図の上では前へ進む。

だが給油所の列は、後ろへ伸びる。»


「戦争って、

 勝った方も町が壊れるんじゃね」


「そうじゃ。


 戦争は、敵の国を壊す前に、

 自分の国の修理能力を食べる」


………


■第10章 

 軍艦は不動産を売ってくれない


中国とロシアは、

海で軍艦を並べた。


「強そう」


ゆづきが言った。


「強く見せたいんじゃ」


中国には不動産不況がある。


地方政府の借金がある。


若者の仕事がある。


物価が上がらない。


消費が伸びない。


IMFは、中国経済の成長率を

二〇二六年に四・五%と見ている。


「じゃあ軍艦を出しても、

 問題は解決しないね」


「軍艦は不動産を売ってくれん。


 潜水艦は

 若者の就職を増やしてくれん。


 だが、映像は作れる」


《我々は孤立していない》


《我々は強い》


《我々はまだ戦える》


国は時々、

国民へ向けて演説する。


だがもっと多いのは、

自分自身に言い聞かせる

演説かもしれん。


「じゃあ本当に強い国って?」


「水が止まらん国じゃ」


僕は言った。


「電気が消えん国。


 病院が動く国。


 子どもが学校へ行ける国。


 軍艦より先に、

 そこを守れる国じゃ」


………


■第11章  

 韓国の巨大な賭け


韓国は逆に、

未来へ賭けている。


半導体。


AIデータセンター。


ロボット。


フィジカルAI。


「フィジカルAIって、

 ロボットが働くAI?」


「そうじゃ。


 工場。


 病院。


 物流。


 車。


 介護。


 頭だけではなく、

 手足のあるAIじゃ」


韓国は、国を挙げて

新しい産業を作ろうとしている。


それは悪くない。


むしろ必要じゃ。


だが、僕はゆづきに言った。


「半導体は、

 工場を建てたら終わりではない」


電気が要る。


水が要る。


送電線が要る。


冷却が要る。


人が要る。


地方に住む人が要る。


「ゲームで言えば?」


「最強の武器だけ買って、

 回復薬を買わない感じじゃ」


「それ、途中で全滅するやつ」


世界のデータセンターの

電力消費は、


二〇二五年の

約四千八百五十億キロワット時から、


二〇三〇年には

約九千五百億キロワット時へ

ほぼ倍になる見通しだ。


「日本の電気全部くらい?」


「それに近い」


「AIって、そんなに食べるん?」


「食べる」


僕は言った。


「AIは賢い。

 だが腹が減る」


AIの時代は、

半導体の時代ではない。


本当は、


水。


電気。


送電線。


発電。


冷却。


下水。


非常用電源。


その全部を食べる時代じゃ。


………


■第12章 

 AIは水道管を直せない


「じゃあAIが水漏れを見つけたら、

 全部解決じゃん」


「見つけることと、

直すことは違う」

 

AIは、水圧の変化を読む。


橋のひびを見つける。


雨雲を予測する。


避難の道を示す。


だが。


夜中に道路を掘る人がいる。


泥水の中でポンプを直す人がいる。


停電の診療所へ発電機を運ぶ人がいる。


古い下水管に潜る人がいる。


「地味だね」


「地味なものが、最後に人を助ける」


株式市場は、

次の四半期で

売上が何倍になるかを買う。


だが人間の生活は、

次の大雨で水が出るかを買う。


この二つは、

同じようで違う。


「じゃあ五年後、

 何が一番高くなるん?」


「壊れないことじゃ」


僕は言った。


「橋が落ちなかった。


 水が止まらなかった。


 避難所に電気があった。


 その価値が、

 今よりずっと高くなる」


………


■第13章 

 鳥が持ってきた警報


オーストラリアで、

渡り鳥から鳥インフルが見つかった。


最後まで遠かった大陸へ、

ついに病気が渡った。


「鳥ってすごいね」


「国境を知らんからな」


鳥インフルは、

暑いから直接増えるわけではない。


だが地球が変わると、

鳥の道が変わる。


餌場が変わる。


海の魚が変わる。


干ばつで水場に集まる。


洪水で人と鳥が近くなる。


家畜と野鳥の距離が近くなる。


そして病気は、

その隙間を渡る。


「人間が作った高速道路じゃなくて、

 鳥の高速道路?」


「そうじゃ。


 しかも料金所がない」


 鳥インフルは、

 卵の値段だけの問題ではない。


 生態系が、

 人間より先に悲鳴を上げている。


「鳥が先に逃げるなら、

 人間は何を見ればいいん?」


「水じゃ」


僕は答えた。


「水の流れ。


 土の乾き。


 森の色。


 川の高さ。


 そこに未来の警報が出る」


………


■第14章 

 五年後、日本に残るもの


二〇三一年。


僕は七十二歳になる。


ゆづきは二十一歳。


町には、

今より子どもが少ない。


働く人も少ない。


水道管は古くなる。


橋も古くなる。


病院は人手が足りない。


介護も足りない。


「なんか、悪い未来ばっかり」


ゆづきが言った。


「違う」


僕は首を振った。


「日本には、まだ道具が残っとる」


水をきれいにする技術。


雨を逃がす管。


工場を止めない非常用電源。


地震に耐える建物。


水を再利用する仕組み。


河川を監視する人。


自治会。


消防団。


避難所。


鉄道。


港。


そして、直す人たち。


「古いものじゃん」


「古いから価値がないんじゃない。


 古いものを、

 次の時代に合わせて

 使い直せる国が強い」


人口を無理に増やして、

家も学校も病院も

足りない国になる必要はない。


少ない人でも、


水が出る。


電気がある。


病院へ行ける。


火事の時に逃げられる。


働く人が休める。


子どもが眠れる。


「そんな国になれる?」


「なれる」


僕は言った。


「ただし、

 儲かる話だけを追いかけずに。


 水を守る人。


 電気を守る人。


 橋を点検する人。


 下水を直す人を。


 地味だと笑わん国になれたらな」


………


■第15章 

 町に小さな池を作る日


「じゃあ、私たちに何ができるん?」


ゆづきが聞いた。


世界は大きい。


火事は遠い。


洪水も遠い。


海峡も遠い。


戦争も遠い。


僕は、しばらく黙った。


「小さな池を作ることじゃ」


「急に童話になった」


「本気じゃ」


雨を逃がすだけでなく、ためる。


学校の校庭に雨水をためる。


駐車場を全部コンクリートにしない。


田んぼを残す。


山に人が入る。


水路を直す。


避難所に電気を残す。


町に木を植える。


データセンターを建てるなら、

水と電気の帳尻も一緒に考える。


「地味だね」


「地味なものが、最後に人を助ける」


ミサイルより先に、水。


AIより先に、避難路。


株価より先に、井戸。


未来は、

派手な発明だけでは作れない。


«雨をためる土。

火を止める森。

逃げるための道。

そして、困った時に声をかける人。»


それがあれば、

地球が少し咳をしても、

人間はまだ立てる。


ゆづきが窓の外を見た。


雨は降っていなかった。


けれど空は、

何かをためこんでいるように見えた。


「おじいちゃん」


「なんじゃ」


「地球が喉乾いてるなら、

 水をあげればいいんじゃない?」


「水はある」


「じゃあ何が足りないん?」


僕は答えた。


「水を、ゆっくり飲める場所じゃ」


………


❥Z世代のあなたへ


世界のニュースを見ると、


火事。


洪水。


戦争。


鳥インフル。


原油。


AI。


全部、別の話に見える。


でも少し引いて見ると、

同じ言葉が見えてくる。


余力。


森に余力がない。


土に余力がない。


都市の排水に余力がない。


家計に余力がない。


国の予算に余力がない。


物流に余力がない。


人の心に余力がない。


だから小さな衝撃が、

大きな災害になる。


五年後。


君たちが社会へ出る頃。


AIは今よりずっと賢い。


データセンターは

今よりずっと電気を食べる。


熱波は、もっと長くなる。


豪雨は、もっと急になる。


水道管は、もっと古くなる。


働く人は、もっと少なくなる。


でも。


絶望する必要はない。


未来は、

偉い人だけが作るものじゃない。


AIで水漏れを見つける。


ゲームで鍛えた空間認識で、

避難路を設計する。


SNSで危険を知らせる。


ドローンで山を見回る。


ロボットを、介護と復旧へ回す。


«火を見た人が、

次の火を防ぐ。


洪水を見た人が、

次の雨をためる。


壊れた町を見た人が、

次の町を強くする。»


日本は人口が減る国かもしれない。


でも。


少ない人でも、

水、電気、医療、物流、

防災を守る方法を、

世界で最初に作れる国かもしれない。


その時、日本が輸出するのは、

車や半導体だけではない。


«人が少なくても、

人が安心して暮らせる社会。»


それが、世界がこれから

いちばん欲しがる技術になる。


………


★あとがき

 ホームズとワトソンの屋敷漫才(笑)


ホームズが、窓の外を見ていた。


「ワトソン君。

 未来を救うのはAIだ」


「急にAI派ですな」


「AIが水漏れを見つける」


「ほう」


「AIが橋のひびを見つける」


「ほうほう」


「AIが洪水を予測する」


「すごいじゃないですか」


「だから未来はAIだ」


ワトソンは腕を組んだ。


「ほな聞きますけど」


「なんじゃ」


「AIが水道管を掘り返して、

 直してくれるんですか?」


ホームズは黙った。


「AIが停電の夜に、

 発電機へ燃料を入れるんですか?」


ホームズは、さらに黙った。


「AIが台風の中で、

 橋を点検するんですか?」


「それは人間がやる」


「ほな未来を救うのは、

 AIと人間と下水道じゃないですか」


「言い方が地味すぎる」


「でも正しい」


そこへ、ゆづきが入ってきた。


「何の話?」


ワトソンが言った。


「未来を救うのは、

 AIか下水道かという話です」


ゆづきは即答した。


「両方でしょ」


ホームズが驚いた。


「即答か」


「AIだけあっても、

 水が止まったら困るじゃん」


ワトソンが深く頷いた。


「若い人の方が、

 よく分かっとる」


ホームズは胸を張った。


「では結論。


 AIは頭脳。


 下水道は内臓。


 非常用電源は心臓」


ワトソンが言った。


「ホームズさん」


「なんじゃ」


「その例えを言い出すと、

 地球はまた頻尿になりますよ」


「やめなさい(笑)」


その夜。


屋敷のベランダには、

小さな雨水タンクが置かれた。


ホームズは言った。


「これで世界を救える」


ワトソンは言った。


「まずはバジルを救いましょう」


ホームズは頷いた。


「世界平和は、

 バジルから始まる」


(笑)

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