月の輝く夜に
国王陛下への挨拶。
それは謁見の間に集められたデビュタントの令嬢が一人ずつ前に出て挨拶をして、退出する流れだった。爵位の序列順になるので、私はほとんど待機時間もなく、挨拶を終え、退出することになる。
謁見の間を出ると、そこには沢山のエスコート役の令息が、自身のパートナーが国王陛下への挨拶を終えるのを待っていた。
ヒロインの攻略対象である宰相の息子ダグと公爵家の令息ロンもここにいるということは。どちらかがヒロインのエスコート役なのだろう。
「サンフォード公爵令嬢、早く終わったね」
声に振り返ると、美青年リアスがブロンドをシャンデリアに煌めかせながら、私の方へと駆け寄る。
「そうね。緊張して待つ時間は幸い少ないけど、この後、ホールで最初のダンスでしょう。そこまでの待ち時間が長くなるわ」
「まあ、そうなるよね。でもリラックスして待つ方が気分が楽じゃない? 陛下への謁見は終わっているのだから、肩の力は抜けているよね?」
「それはそうね」
すると美青年リアスは少し真剣な表情になり、私に尋ねる。
「……サンフォード公爵令嬢、最初のダンスまでまだ時間がある。ホールに戻る前に、ちょっと寄り道しない?」
「寄り道……? いいけれど、私、宮殿は今日が初めてよ。あ、子どもの頃に来たことはあるけど、あまりにも幼くて覚えていないわ。だから寄り道できそうな場所は……よく分からないけれど」
「そこは問題ないよ。僕の方でちょっと調べておいたから」
そこでふわっと優しい笑顔になると、美青年リアスは手を差し出す。その手に私は自分の手を重ねる。
(こうやって美青年リアスにエスコートされること。それがいつの間にか当たり前になっているわね)
「行こうか」
「ええ」
私をエスコートして歩き出すと、美青年リアスは宮殿に、父親と一緒に何度か来たことがあると教えてくれる。
「父上の勲章や褒賞の授与で、兄上と母上も一緒で、家族四人で何度か宮殿に来たんだ。その時に、見つけて、夜に一度来たいと思っていた場所があるんだ」
そう言って迷うことなく美青年リアスが連れて来てくれたのは……。
「これは……」
「アトリウム、って言うそうだよ」
そこは中庭の一角で、水盤が設けられていた。ちょうど月が昇り、その水盤に映り込み、この場所だけ何とも幻想的な空間になっていた。
「すごいわ。月光が降り注ぎ、円形の水盤の周囲の緑が銀色に輝いているように見える。それに水盤に映り込んでいる月もとっても綺麗。なんだか物語の世界に来たみたい」
「僕が夜にここに来たいと思った理由、分かってくれた?」
「ええ、理解できたわ。昼も……きっと素敵なはずよ。でも夜はさらに神秘的な雰囲気で、感動しちゃうわ」
私の言葉に美青年リアスはその透明感のある美しい碧眼を細めて笑顔になる。
「サンフォード公爵令嬢が喜んでくれて、嬉しいな」
「ここに連れて来てくれてありがとう」
御礼の言葉を伝えたまさにその時。
美青年リアスが自身の両手で私の両手を掴んだ。
これにはどうしたのかと思い、彼の顔を見上げる。
「サンフォード公爵令嬢、聞いて欲しいことがあるんだ」
「どうしたの? 何か心配ごと?」
すると美青年リアスはふるふると首を振った。
そして「違うよ」と言うと、大きく深呼吸をした。
「アドリアナ・セレネ・サンフォード公爵令嬢」
(!? どうしていきなりフルネームで呼ぶのかしら!?)
「僕は……リアス・テゼ・レイノルズは、君に伝えたいことがある」
美青年リアスに降り注ぐ月光が、彼のブロンドと碧眼を輝かせ、まるでキラキラエフェクトがかかっているようだ。つまりは今、目の前にいるリアスは、現実離れした美しさだった。
(リアスが……眩しいわ! それに突然どうしたの……!?)
心臓の鼓動が緊張で速くなる。
「アドリアナ、君のことが好きです」
「えっ……」
「大好きです。出会った頃からずっと、僕は君に恋しています」
あまりにも驚きすぎて、目を大きく見開くことしかできない。
「実はデビュタントのエスコート役が決まってから、水面下で君のご両親に僕の気持ちを伝えている。僕の両親にも話していた。両家の両親で連絡を取り合い、とても前向きに僕たちの交際を考えてくれている。後はアドリアナ、君の気持ち次第だって」
(えええええ、こ、これはつまり……!)
「僕は……これからもずっと、君の婚約者としてアドリアナと呼びたい。つまりアドリアナ、君にプロポーズしたいと思っている」
心臓が急激にバクバクしてきて、顔や耳が熱い。
(ううん、全身が火照るように熱いわ!)
「僕の気持ち、受け入れてくれる? アドリアナは僕のこと、好き?」
(美青年リアスのことが好きか、どうかって。それは……)
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