子分ができた
ワイルドヘアのセーブルは私に呼びかけるとすぐに従者に目配せをした。その従者は何かを抱え、そこには白い布が被せられている。
「サンフォード公爵令嬢、先日の非礼を詫びるため、よろしければこちらの品をお納めください」
そう言って自身の胸に手を当てると、セーブルは礼儀正しくお辞儀をする。
(黒のスーツをビシッと着こなし、なんだか黒服みたいだわ。悪の雰囲気も皆無!)
そんなことを思いながら、前世の謙遜文化でつい、遠慮してしまう。
「そんな……謝罪だけで十分ですのに」
「きっとお喜びいただけると思うんです!」
セーブルが黒曜石のような瞳で私を見る。
(パッチリとして黒目が大きいので、目力が半端ないわ!)
「わ、分かりました。では遠慮なく受け取らせていただきます……」
「ぜひ、どうぞ!」
そう言うとセーブルは、白い布をまるでマジックショーをしているみたいにパッと持ち上げる。
そこに現れたのは角笛!
象牙の角笛は柔らかみのあるアイボリーの色合いで、吹く部分と開口部には、黄金の装飾があしらわれていた。そして側面にはブラックウッド家の紋章が、宝石と共にペンディングされている。
これは応接室やエントランスホールに飾りたくなる逸品と思ったが。
「ぜひ、これをマスターには吹いていただきたいと思います」
「えええ、吹くんですか!? え、吹けるものなんですか、そんな素人に!」
(てっきり置物として贈られたと思ったのに!)
「息を吹き込めば、とりあえず鳴ります! もし低く太い角笛らしい音色を響かせたい場合は、練習が必要です。唇の形の調整やブレスコントロールが必要になるので。それは自分が喜んで教えますよ」
(なるほど。とりあえずは鳴らせるのね。それに狩猟で鳴らす角笛よりサイズも大きいから、まさに戦場で使うものよね? ……上手に吹けたら、ちょっとカッコいいと思うわ……)
「そうね。吹き方は教えてもらいたいわ」
「喜んで! マスター!」
(うん? マスター? え、マスター? それって私のこと……?)
殺気を感じ、ハッとして視線を動かすと、美少年リアス、ジャスパー、アンバーがとても怖い顔でセーブルを睨んでいた。だがセーブルはその睨みを気にせず、ニコニコと私を見ている。
(な、何の……!?)
「サンフォード公爵令嬢」
落ち着いた声音のアンバーから名前を呼ばれ、もはや頭の中では「次から次へと何なんですかー!」となりながらも、「は、はいっ!」と返事をする。
「僕も先日の無礼な行いを謝罪したく、今日、訪問させていただきました。まさか他のみんなも同じことを思いつき、同じ時刻を提案するなんて。ですが誰かを訪問するならティータイムというのは、この国ではごく当たり前のこと。被ったのは致した方ないことです。ですが贈り物は絶対に他のみんなと被らないものをと思い、こちらをご用意しました!」
アンバーの従者もまた、白い布を被せた何かと共に控えている。
(でもこれはトルソーよね。多分、トルソーが着ている物をギフトにしようとしているのだわ)
「ご覧ください」
ミルクティー色のセットアップを着たアンバーもまた、セーブルのようにドラマチックに白い布を持ち上げた。そこに登場したのは……。
「これはクロノス王立アカデミーで販売されている関係者と在校生しか入手できない、アカデミーのエンブレム入りのフード付きロングローブ、エンブレム入りのマフラーと革手袋、角帽、そしてハンカチのセットです!」
これには「「「おおおっ」」」と美少年リアス、ジャスパー、セーブルの声が揃っている。
それもそのはず。
クロノス王立アカデミーは、クロノス王国の最高学府であると同時に、大陸にある全アカデミーの最上位に君臨しているのだ。クロノス王立アカデミーの卒業生であれば、どこの国に行っても大歓迎される。ゆえにそのエンブレムも有名だったし、そのエンブレム入りの衣装や装飾品も大人気だった。
「さあ、身に着けてみてください」
「え、ここで!? いいわよ、後で、え、あ、ちょっと……!」
アンバーがロングローブを私の肩にかけ、マフラーをぐるぐる巻きにして、頭に角帽を被せ、革手袋とハンカチを手渡してくれるが……。
「あ、暑いわ……(怒)!」
「失礼しました、マイ・ロード!」
大慌てでアンバーがローブを脱がせ、マフラーを外してくれるが、その様子を見てジャスパー、セーブルがクスクス笑っている。
(モブ令息三人組は徒党を組んでいたはずなのに。もしかして仲間割れをしたのかしら?)
「今が夏であることを失念しており、大変失礼しました! どうかお許しください、マイ・ロード!」
「無理矢理着せるのはやめてほしいわ。でもそれはそれよ。わざわざ貴重な物をありがとう。……ところでなぜ“マイ・ロード”と呼ぶのかしら!?」
「それは僕がサンフォード公爵令嬢を心から尊敬しているからです! あなたにお仕えしたい気持ちでいっぱいで」
そう言うとアンバーが私の前で片膝を床につき、跪くと、自身の胸に手を当てる。そして私を見上げ、「サンフォード公爵令嬢に忠誠を誓います」と手をとると、甲へとキスをするので、もうビックリ!
「な、お前、一人抜け駆けはズルいぞ!」とジャスパー。「騎士でもないのに、なんでそんな誓いを! それなら自分が」とセーブルはアンバーを押しのけ、自身が片膝を床について跪く。するとアンバーは「うるさい! 僕は誠意を示しただけだ!」と応戦し、セーブルとアンバーが取っ組み合いの喧嘩を始めてしまう。するとジャスパーがなぜかそこに交じり、三人がギャーギャーするので、彼らの従者が慌てて止めに入る。
「レイノルズ侯爵令息、これはどういうことなのかしら!?」
「あの三人は池でドボン事件以降、心を入れ替えたんだよ。そして僕を抱き上げ、見事救出したサンフォード公爵令嬢に心酔。その結果、サンフォード公爵令嬢をジャスパーは『師匠』としてその生き様を学ぼうと考え、セーブルは『マスター』と仰ぎ、戦術を習いたいようで。アンバーは『マイ・ロード』として、サンフォード公爵令嬢の側にいたいみたいだ」
「えええええっ、そうなの!?」
驚く私の手をスッとると、美少年リアスは天使のように微笑む。そして私の指にキスをすると、上目遣いで瞳をウルウルさせる。
「でもサンフォード公爵令嬢の一番弟子は僕でしょう?」
「……っ!」
それをされると「違う」とは言えなくなる。
「あの三人は子分と思い、適当にあしらって。僕だけを――」
「おい、リアス、お前、ずるいぞ!」
「そうだ! 我が主から手を離せ!」
「マスター、自分があなたの一番ですよね!?」
ジャスパー、アンバー、セーブルが美少年リアスに掴みかかるが……。
そこはさすが私の一番弟子(!?)、三人をあっという間にかわしてしまう。そして私を抱き寄せると「サンフォード公爵令嬢、お茶にしましょう」と優雅に微笑む。
(リアス……成長したわね。一年前のあなたは、この三人に泣かされていたのに。でもまだまだよ)
「みんな、バカなこと言っていないで、行くわよ。せっかく用意したスイーツがダメになっちゃうわ」
美少年リアスの腕を関節技でねじりあげ、体を離すと、私はくるりと四人に背を向け歩き出す。
「サンフォード公爵令嬢、待ってください!」
「師匠」「マスター」「マイ・ロード!」
四人が慌てて私を追いかける。
こうしてこの日、山猿令嬢の私に三人の子分ができた。
お読みいただきありがとうございます!
山猿令嬢と愉快な仲間たちが爆誕(笑)
続きは明日、更新しまーす!
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