これならどうかしら、王子様?
お茶会に参加している令嬢と令息、付き添いのマダムや紳士も、フウチョウの尾羽に惹かれ、庭園の中程へ移動してくれた。あとは国王陛下夫妻とカミュ第二王子を移動させればいいと思ったが。
「アドリアナ!」
腕を掴まれ、思いがけず邪魔が入ったと思ったが、それはお父様!
「アドリアナ、何をしているんだい!? 突然、鳥の羽根なんかを持ち出して。大人しくお淑やかにすると約束しただろう?」
「そうです、お父様。ですがご覧ください! あのゾウのトピアリーに蜂が集まっています。あれは蜂の引越しの途中で、休憩するためにあの場所に集結しているんです。こちらが刺激しなければ、攻撃はしません。ですがここには甘いものも沢山ありますから、蜂が皆様の席にも飛んでくるかもしれません。そこでパニックになったら大変です。皆を避難させるために、あの羽根を使っただけですわ!」
これを聞いた父親は、確かにトピアリーに集まる蜂を見て驚愕する。
「大変だ! 国王陛下夫妻と第二王子殿下の席の近くではないか!」
「ですから今、席を離れるよう、侍従長に進言し」
そこで言葉を切ることになったのは、カミュ第二王子がこちらへやって来たからだ。
「サンフォード公爵、こんにちは。何か問題でもありましたか?」
私と父親が真剣な表情で話していたので、心配してくれたようだ。
(さすがヒロインの攻略対象! 気遣いも完璧ね!)
「実は殿下、お席の近くに……」
父親が例の蜂の件を話すと、カミュ第二王子はさすがに驚き「皆の避難を……」となり、ハッとして私を見る。
「もしかして君は……皆を蜂から遠ざけるために、あの羽根を?」
「ええ、そうなんです。娘は機転が利く子でして」
「……なんて冷静な判断が出来るのでしょうか。分かりました。あとは任せてください」
カミュ第二王子はそう言うと、私に極上の笑顔を見せてくれる。つられて笑顔になりそうになるが、そうではない。
父親まで私を褒め、カミュ第二王子がこの笑顔では良い流れが出来てしまう。
そこで私はニタリと不気味に笑って見せる。
極上の笑顔を見せたカミュ第二王子に対し、このニタリは悪寒が走るもののはず。実際彼は一瞬頰をひきつらせたが、自然な仕草で私から視線を逸らし、「父上、母上」と声をかける。
(やっぱりヒロインの攻略対象。この不気味なニタリ笑顔にも、動じたのはわずか一瞬ね。それどころかスマートに国王陛下夫妻を席から移動させ──)
「皆さん、今日はホールで軽くダンスも楽しみたいと思います。といっても皆様、まだデビュタントもまだですよね。練習と思って気軽に参加してください」
そんな予定などなかっただろうが、ホールに移動し、ダンスを楽しむことをカミュ第二王子は提案したのだ。そして侍従長にすぐに宮廷楽団を呼ぶように指示を出す。さらに彼は蜂を別の場所に移動させるため、バトラーたちに煙を用意するよう指示を出した。
(なるほど。カミュ第二王子はああやって蜂が集まった時、うまく移動させる方法を知っていたのね。そこはヒロインの攻略対象としてさすがというべきか、それとも当然なのかしら?)
ともかくこれで蜂による問題が起きる事態は免れた。
「アドリアナ、私たちも移動しよう」
「そうですね、お父様」
母親も心配そうにこちらの様子を見ている。父親と共にホールへ移動しようとすると……。
「レディ、よろしければ僕がエスコートしても?」
カミュ第二王子が優雅に私に手を差し出したのだ!
これには父親は大喜びで「ぜひ、お願いします!」と私より先に返事をしている。私は身につけた社交術で「あ、はい」と応じそうになり、踏みとどまった。
(カミュ第二王子と親しくなっている場合ではない! でも今は、このエスコートの申し出を断るのは不自然過ぎる)
そこでハッと私は思いつき、ロープなどを入れた巾着袋に手を突っ込み、そして「はい、エスコートお願いします」と微笑む。
父親が安堵し、母親をエスコートして歩き出す。それに合わせ、私もカミュ第二王子のエスコートで歩き出すが──。
「サンフォード公爵令嬢は、しばらく首都を離れ、サンウエストに行かれていたのですよね?」
「はいっ! 畑を耕すのを手伝ったり、家畜に餌をやったり。弓や槍の使い方も習い、狩りにも出ました。鹿も仕留められますわ。木に登り果実や実を手に入れ、川や湖で泳ぎ、野宿も何度か経験しましたの」
カミュ第二王子が知る貴族令嬢では絶対に経験していない体験談をベラベラとしゃべりまくった。彼は驚きながらも表情は崩さない。
(礼儀もマナーも完璧ね。でもこれならどうかしら、王子様?)
「サンウエストで、こんな物も手に入れたんです!」
無邪気を装い、“ひっつき虫”と呼ばれるオナモミをカミュ第二王子に投げつける。オナモミの果包はとげとげしており、これが服の繊維にひっかかることから“ひっつき虫”と呼ばれているのだ。しかもパッと見は虫みたいに見えるので、もし令嬢にこれをつけたら「キャー、虫がドレスに沢山ついているわ!」と大騒ぎになるはずだった。
(さて、カミュ第二王子はどんな反応かしら?)
「これは……虫かと思いましたが、違いますね。……服に棘が絡み、外しづらい……なるほど。こうやって棘を絡ませ、動物の毛にくっつき、種を遠方まで運ぶのか。面白いですね。……さっきの美しい鳥の羽根。あれは王宮の鳥園でも見かけないものです。サンフォード公爵令嬢は、サンウエストの領地でいろいろ面白いことを体験できたようですね」
(な、どうして、こんな冷静な反応なのかしら!? もっと驚いたり、それどころか『何を投げつける!』と怒っても……)
そこで強い視線を感じる。ハッとした時はもう遅い。
「アドリアナ! 殿下の服に何を付けたんだ!?」
(しまった! お父様に見られていたわ……!)
「サンフォード公爵、気にしないでください。僕がサンウエストについて尋ねたら、彼女はこれを見せてくれたのです。それがうっかりこぼれ落ちたに過ぎません。服に絡みやすいものですから……僕はちょっと着替えて来ますが、くれぐれも彼女を責めないであげてください」
「殿下……!」
父親がカミュ第二王子に感動している隙に、私は両親から離れ、ホールに併設されている小部屋へ逃げ込む。
すると何だかすすり泣くような声が聞こえてきた。
お読みいただきありがとうございます!
うわぁー、お父様に見られちゃった!
そして聞こえるすすり泣き。どなた?
ということで感謝の増量更新でした!
続きは今晩更新しまーす!




























































