動じないわね
カミュ・カイラス・クロノス。
乙女ゲーム『碧色のセレナーデ』の攻略対象の一人で、クロノス王国の第二王子で、ザ・王子様キャラ。
(実際に王子様なんだけど)
少し癖のあるプラチナブロンドに、エメラルドのような瞳で、とにかく常にキラキラエフェクトをまとっているように輝いている。背景音は「シャラーン」という感じで、薔薇の花束を持たせたら無双しそうなキャラだった。
現在十二歳であるが、白のフロックコートを見事に着こなし、微笑むとまさに天使。
国王陛下に促され、丁寧にお辞儀する姿は……。
(可愛い~。SDキャラみたい! キーホルダーにして鞄にぶらさげる! アクリルスタンドにして動画撮りまくりたい!)
そうではない。
こんなに素敵なカミュ第二王子であるが、婚約したら最後、悪役令嬢街道まっしぐらになってしまうのだ。絶対に、心を許してはいけない人物NO.1。
お茶会開幕の挨拶を、国王陛下とカミュ第二王子が順に行う。そしてお茶会がスタートし、まずは皆、淹れたての紅茶を口に運ぶ。
だがすぐ動きが起きる。
ひな壇とも言える席に着席した国王陛下夫妻とカミュ第二王子が座る席に、高位貴族の令嬢と令息から順番に、挨拶へ行くのだ。
公爵令嬢であるアドリアナの順番はすぐに回ってくる。侍女と共に移動し、国王陛下夫妻とカミュ第二王子の前に立つことになった。
「国王陛下夫妻とカミュ第二王子にご挨拶いたします。サンフォード公爵の長女アドリアナ・セレネ・サンフォードでございます」
そう言って美しくカーテシーをした後、私は薄気味悪い笑みを浮かべ、舐めるようにしてカミュ第二王子を見た。
カミュ第二王子はギョッとしたがすぐに天使の笑みを浮かべる。
(さすがヒロインの攻略対象。森で出会ったオオカミでさえ、怖気づいたこの笑みにも、動じたのは一瞬だけとは。しかもすぐに笑みを返せるなんてさすがね)
これはまさに軽いジャブのようなものだが、私としては自信があった。何せ本当にこの不気味な笑みで、オオカミを撃退できたのだ。
(カミュ第二王子もこの笑みを見て、ドン引きするかと思ったのに……)
弱肉強食の世界では、出会い頭でひるんだり、弱さを見せたりすれば、負けだった。余程の武器を所持しており、それで仕留められるなら話は別。そうでない場合、初出の目力と気迫で、「あ、コイツ、やばい奴かもしれない」と思わせられたら勝ちである……と祖父が教えてくれたが、それは本当だと私は思っている。
(もちろん、良い子のみんなはこんな精神論ではなく、専門家が推奨する正しい対処法に従って欲しいと思うわ。決して真似はしないで欲しいし、それに今の実践相手は獣ではなく、人間だから……)
カミュ第二王子から視線を逸らし、国王陛下夫妻を見る。二人はスッとさりげなく、私から視線を外した。
どうやらカミュ第二王子には効果なしだったが、国王陛下夫妻には効果ありだったようだ。
(不気味な笑みを浮かべる公爵令嬢。しかも息子を舐めるように見ていた。婚約者狙いなのだろうが、警戒した方がいいかもしれない……とでも国王陛下夫妻は思っていそうね)
本人から敬遠されるのが一番だが、国王陛下夫妻から用心されるのも大歓迎だ。それで婚約者候補から外してもらえれば、御の字である。
ともかく軽いジャブは終了で、次の計画に移ろう。
そこで気が付く。蜂が飛んでいる、と。
間もなく新緑という庭園なのだ。蜂の一匹がいようとおかしなことではない。
だが森暮らしを六年もしていると、蜂には敏感になる。
ブーンと飛んでいる蜂の姿をつい目で追ってしまう。スズメバチではない。一匹の蜂ぐらいでは、脅威ではないが……。
「!」
一匹ではなかった。二匹目、三匹目と複数の蜂を捉えることになった。もしやと目を凝らし、「!」と声にならない声を上げそうになる。
国王陛下夫妻が座るひな壇の近くには、ゾウの形を模したトピアリーがあった。その整えられた植え込みの一角に、蜂が集まり始めていたのだ。
(これは……蜂の引っ越し、分蜂だわ。ううん、違うわね。こんなに目立つ場所に巣を作らないから、これは分蜂中に起こる、休憩! 大変だわ。ここには甘いものが沢山ある。まさに蜂にしたら休憩して甘い物にあやかろうだけど、みんなパニックになる!)
でもまだ蜂は休憩のために集結しつつある状態。ならばゆっくりみんなをここから離れた場所に誘導し、そこで蜂が集まっていることを知らせ、そのまま避難してもらう──。
そこで私は山猿令嬢作戦で使う予定だった珍しい羽根…… フウチョウのエメラルドグリーンの尾羽を使うことにした。レストルームに行くふりをして、庭園の中程まで移動し、ここから演技スタートだ。
「まあ、皆様! ご覧になってください! こちらにとても珍しい羽根が落ちているわ。さすが宮殿ですわね」
そう言ってフウチョウの尾羽を高々と掲げる。
「まあ、なんて美しいの!」
「とても綺麗ね。素敵」
「欲しいわ、あの羽根!」
予想通り、皆、この珍しい羽根に反応し、席を立つ。ゆったりと優雅に私の方へとやって来てくれる。
(本当はもう少し早歩きで来て欲しいところだけど、貴族なのだから仕方ないわ。それにこれぐらいゆったりの方が、蜂を刺激しなくていいわね)
ずらずらと令嬢と令息が集まってくると、私は羽根を侍女に渡す。
「これはトルンガ原産の鳥の羽根で、現地では『天国の鳥』とも言われるの。とても貴重だけど、王宮の鳥園で飼っているのかしら?とか適当に話して」
いきなりの無茶振りに侍女は目を白黒させる。だが私と六年間。祖父の森で過ごしたのだ。そこはある意味、肝が据わっており「わ、分かりました」と応じてくれる。
私はというと、急いで国王陛下夫妻のそばに控える侍従長のところに駆け寄ろうとした。
ところが!
「アドリアナ!」
腕を掴まれ、呼び止められてしまった。
お読みいただき、ありがとうございます!
私の腕を掴んだのはどなた!?
続きは明日ですが……
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