その輝きは永遠に
ギラギラと容赦なく太陽が私たちを照らす。すぐにでも倒れてしまいかねないこの温度の原因は太陽だけでなく、高まった会場の熱もあるだろう。
このサーブを決めれば私の勝ち、そして私たちのチームの勝利だ。グッとテニスボールを握り、相手を見据える。窮地に追い込まれた相手は最高まで集中力を高め、全身全霊で私のサーブを撃ち返すつもりみたいだ。
それは私も同じだ。全身全霊をこの一球に込めて、勝負を決める。そして、そんな私に力をくれる言葉が聞こえた。
「頑張れ! 彼方!」
地面が揺れるほどの応援の声の中から、愛しい人の声がはっきりと聞こえた。その瞬間、私の視界から余計なものが全て消えた。
美鈴の応援はいつだって私に力をくれて、私の限界を越えさせてくれる。美鈴の応援でゾーンに入った私は、思い切ってトスを上げる。
懐かしい気分だ。初めて美鈴の応援で限界を越えて、三原に勝った日。あれが私の全てを変えた。そして今、私をここまで連れてきてくれた。
ここで勝って、あの日の誓いを果たす。世界一のテニスプレイヤーになるという私の決意と誓いを。
「らぁ!!」
今までにないくらい最高の当たり。凄まじい豪速球に相手は反応できず、見事にサービスエースを決めた。
「ゲームアンドマッチ! ウォンバイ飯島!」
「よっしゃあ!!」
最高に熱いこの瞬間。拳を掲げて勝鬨を上げる私に、真っ先にベンチから飛び出して抱きついてきたのは最愛の人。
「彼方! やったね!」
「あぁ、応援してくれてありがとな」
疲れた身体でもしっかりと受け止め、抱き合って喜びを分かち合う。少し汗の匂いが気になってしまうが、この前美鈴に聞いたところ、頑張った匂いだからむしろ好きだと言ってくれた。私の全てを受け入れてくれる美鈴の愛の大きさには本当に助けられてる。
「相変わらずだねぇ」
「大勢の観客の前で、こっちが恥ずかしくなるわ」
「まぁ、らしいと言えばらしいけど」
「とにかく勝利! 優勝だよ!」
私と美鈴が抱き合っているところに、三原と三原ガールズが近寄ってきた。そしてその背後には、松葉杖をついている坂田先輩がいた。
「本当にお前ら……よくやってくれた!」
その時坂田先輩は最高の笑顔を見せてくれたが、目の中には熱い雫が溜まっていた。かくいう私も、勝利の興奮をたどり着いた場所への達成感と感動が上回り、いつのまにか涙を流していた。
「……やったんだな」
「うん勝ったんだよ。ほら、取材の人来てるよ」
美鈴に背中を押され、カメラとマイクを向ける取材陣の前に立つ。目の前に立っていた女性の記者がマイクを向けながら質問を投げかけた。
「U20世界大会、坂田璃音選手の途中離脱などのアクシデントがあった中、見事優勝されましたが、今のお気持ちは?」
今年の12月、オーストラリアで開催されたU20世界大会。その代表選手に私と三原と坂田先輩は選ばれていた。もちろん他にも選手がたくさんいて、坂田先輩はチームの主力としての活躍が期待されていた。
しかし準々決勝、坂田先輩は試合の途中で怪我をしてしまった。その時はまだ軽いものだったが、棄権してしまうとチームが敗北してしまうからと無理をしたのだ。
その結果、なんとか勝利はしたものの坂田先輩は途中離脱を余儀なくされた。そして私は坂田先輩が担当していたシングルス1を託されたのだ。
自分の身を犠牲にしてまで優勝を目指す坂田先輩に胸を打たれたチームは一丸に。そして今大会無敗の完璧なパフォーマンスを見せた三原の活躍もあり、私達は見事優勝したのだ。
「達成感で胸がいっぱいです。応援してくれたファンの皆さん、支えてくれたスタッフの皆さんには感謝しかありません」
「坂田選手の代わりにシングルス1を努めるのはかなり負担だったと思うのですが、それについてはどう感じていましたか?」
「プレッシャーが無かったと言えば嘘になりますけど、信じて託してくれた坂田さんのためにただひたすら全力を尽くしました。共に戦った仲間、特に絶対勝ってくれる三原には助けられました。私が常に高いパフォーマンスを発揮できたのは仲間が信じてくれおかげです」
正直言って坂田先輩の代わりのプレッシャーは凄まじく、一時期は美鈴が作った食事すら喉を通らなくなった。
そんな中でも美鈴は私が少しでも食べれるようにと食べやすい食事を用意してくれたし、三原と仲間たちは「そもそもお前に出番はないから安心しろ」って心強いことを言ってくれた。
特に三原は「私に勝った君が負けるわけないでしょ。というか、私以外に負けるなんて許さないから」なんてライバルらしいエールを送ってくれた。
高校最後のインターハイ。県大会で三原に負けて総戦績一勝一敗で臨んだ決勝戦。最愛の人のためにお互いに負けられない一戦。長い長いタイブレークの果てに最高に熱い戦いを制したのは私だった。
世界大会に参加してなお、私にとっての最高の試合が三原との戦いだった。だからこそ、その言葉はとてつもなく心強かった。
そうして坂田先輩の代わりという重荷を克服した私は、今まで以上のパフォーマンスができるようになった。
「なるほど。ありがとうございました」
「あっ、最後に一ついいですか」
インタビューを終えて下がろうとする記者を引き止めて、マイクを渡してもらう。グッとマイクを握り、少し遠くで私を見ていた美鈴を指さす。
「愛してるよ」
同世代だけの大会で団体戦だけど、私は世界一になった。世界一のプレイヤーになるという誓いを不完全ながら果たした私は、最愛の人に勝利を捧げた。
すると美鈴はボンっと顔を真っ赤にして、記者たちはスクープというわけでここぞとばかりにシャッターを切る。美鈴の可愛い照れ顔が見られて満足した私は取材陣の前から退場しようと踵を返そうとした。その時だった。
「私も愛してる!」
騒がしい記者たちやシャッター音を切り裂くような大声で、美鈴は私に愛を伝えた。まさかカウンターが来るとは思ってなかった私は、不意を突かれて完全ノックアウト。試合で上がった体温を遥かに超える熱を上げて一発KOされてしまった。
「折角の優勝者があれじゃカッコつかないわね」
「まぁ、最高に幸せってことじゃん!」
「まったく、見せつけてくれちゃって」
観客席の方から海香と委員長、そして芹香が呆れたような表情を私に向けていた。はるばるオーストラリアまで応援しに来て、大勢の人の前で惚気まくってる私たちを見たらそうもなるか。
そんな事を思いながら倒れる私を三原がすんでのところで受け止めた。
「はぁ……世話が焼けるねぇ私のライバルはぁ。あっ、エリカも何かしよぉかぁ?」
「えっ、うーん、やっちゃう?」
「おぉ、やったぁ。記者さんたちマイクちょーだい。エリカ、愛してるよ」
「ッ! う、私も愛してますぅ……」
「おーおーういやつういやつ。愛してるよ」
「さ、咲希ちゃん! もう無理だよぉ!」
三原が記者からマイクを横取りして鳳さんに愛の告白をしまくって周囲を騒然とさせたところで、一気に試合の疲れが出てきた私は意識を手放した。
○○○
次に私が目を覚ましたのは白い天井の一室だった。窓からは夕暮れが差し込んでいて、柔らかい布団から体を起こせば近くに座っていた美鈴と目が合った。
「おはよう。疲れは取れた?」
「おはよ……かなり眠ったからもう元気だぞ」
「そっか」
美鈴はそれだけ言うと私と唇を重ねた。優しく触れるようなキスが彼女の慈しみを感じさせてくれて、試合終わりの疲れた身体の全てが癒やされた。
「頑張ってたからご褒美だよ」
「こりゃ、賞金なんかより嬉しい優勝賞品を貰っちまったな」
黄金に輝くトロフィーよりも、豪邸が建てられる賞金よりも、私にとっては美鈴のキスの方が価値が高い。夕陽を背に笑顔を見せてくれる美鈴が愛おしくなって、彼女の頬に手を伸ばして触れた。
「なぁに?」
「なんとなく触れたくなってな」
美鈴の柔らかい頬を撫でて、ゆっくりと顔を近づけてさっきより深いキスをする。二人の愛を味わい尽くすような甘い時間を堪能し、唇を離した。
「もう、欲張りなんだから」
「今日くらい許してくれ」
「仕方ないなぁ」
私のわがままを美鈴は優しく許してくれた。私は体の向きを変えてベッドに腰掛け、美鈴に手招きをした。美鈴はその誘いに乗って私の隣に座り、指を絡ませて手を繋ぎ、身体を寄り添わせた。
「ようやくここまで来たな」
「うん。世界一のテニスプレイヤーに向けてまずは第一歩だね」
「あぁ、ここまで来れたのも美鈴のおかげだ。これからもよろしく頼むぞ」
「うん。約束したもんね」
美鈴との約束はまだ完全には果たせてない。それに、一生かけて叶えなければならない誓いも交わしている。
一生愛し合う。一緒にいるだけじゃ満足できない私が提案した誓い。クリスマスの魔力にやられて提案したこんなに重い誓いを、美鈴はすんなりと受け入れてくれた。
その誓いが今も続いている幸福をただ享受する。夕暮れが沈んでいく中、少しずつ部屋が暗くなっていく。何をするでもなく二人きりの沈黙の時間が過ぎていく。
そんな時間すら愛おしい。隣に美鈴がいるだけで私の胸は満たされる。夕陽が沈んで部屋が薄暗くなった時、お互いの胸の中にある愛が溢れた。
「好きだよ。世界で一番愛してる」
「あぁ、私も一生かけて美鈴を愛すよ」
お互いに求め合うように情熱的な口づけを交わす。薄暗い部屋でこんなキスをしてしまったら、ブレーキが壊れて美鈴を押し倒してしまいそうだ。
けれど流石にそれはスキャンダルなので、冷静な私がすんでのところで欲望を抑え込んだ。
世界一はまだ遠い。けれど、美鈴との誓いがあれば私はどこまでだって行ける。一生だと誓った愛が無限に私を高みへ押し上げてくれる。
私は美鈴の太陽であり続ける。私のそばで永遠に輝き続ける一等星のためにも。
私の決意は何よりも固いし、この誓いを果たせる確信を持っている。
私たちの輝きは永遠だ。
「愛してるよ」
だから、永遠に続く幸福を共に生きよう。
最終回です。ここまで読んでいただきありがとうございました。




