クリスマス作戦会議!
私が美鈴と付き合い始めて二ヶ月程が経った。その日々はまさに順風満帆で、一分一秒を事細かに覚えている。さらに私のテニスの実力はうなぎのぼり。お別れ会の夜に坂田先輩に言われた、外せていない枷とは私の恋心だったらしい。
頼りになる人ではなかったけど、私の心を見透かしてくるあたり、敵わないなぁと感じる不思議な人だった。
そんな部活引退済みの想いを馳せる対象である先輩が、今目の前にいる。
「第1回クリスマスデート作戦会議!!」
我が家に部外者の声が響き渡る。両親が仕事でまだ帰ってなくて助かった。こんなやかましい声を聞いたら母さんの怒号が返ってきただろうから。
「いえーいぃ」
「待ってました!」
「ははは……うるさくしてごめんね」
「いや、委員長はいいんだ。一番の問題は……」
うるさい坂田先輩、ノリノリの海香、申し訳なさそうにする委員長。この三つの声に交じっている間延びした特徴的な声、その正体を私は知っている。
「なんでテメェがいるんだ三原ァ!!」
「およぉ?」
怒る私をおちょくるようにこの天才はふざけた態度を崩さない。今は土曜の部活終わりの夕方。OGの坂田先輩がいるのは百歩譲って納得できる。なんで別の高校に通っているコイツがいるんだ。
「わたしぃはぁ、さかちぃに呼ばれたんだよぉ」
「さかちぃって、坂田先輩!?」
「おうよ。三原も恋人がいるからな。参考になると思って」
ならない。それだけは断言する。というか、この間延びした声ってことは真剣に考えてないんだよ。絶対面白そうって興味本位で遊びに来たに決まってる。
私に部屋の丸テーブルに頬杖をついてニヤニヤしてんじゃん。アドバイス送る気ゼロだよ。
「なんでこんなことに……」
もうすぐクリスマス。この聖夜は恋人たちにとって重大なイベントであるというのは人類共通の認識だろう。私はその日を最高のものにするため、委員長に相談したのだ。
ここまでは問題ない。いけなかったのは、たまたま遊びに来ていた坂田先輩にこの話を聞かれたことだ。
「先輩に任せとけって!」
そう言って連絡したのが三原。海香を呼んだのはもちろん委員長。本来なら委員長と海香と建設的な会議ができるはずだったのに、坂田先輩の雰囲気に巻き込まれて海香もおふざけモードに入ってしまった。
「さてさて、この恋愛初心者ちゃんにアドバイスをあげるわけだけど、意見ある人!」
「はいはい!」
「はいどうぞ!」
なぜか司会を担い始めた坂田先輩の声にまず手を挙げたのは海香。いつもなら頼りになる彼女も、この雰囲気ではどうかわからない。坂田先輩に当てられた彼女はコホンと咳ばらいをして意見を述べ始めた。
「やっぱり王道のイルミネーションでしょ!」
あっ、よかった。なんやかんやまともそうだ。
「隣町でクリスマス限定のイルミネーションやるらしいから、そこでデートなんていいんじゃない? あそこは飲食店とか遊べる場所もいっぱいあるから」
なんてすばらしい提案なんだ。下調べもきちんとしてくれてるし。まぁ多分委員長とのデートスポットを探していたからだろうけど。一瞬でも疑ってしまった私を許してくれ。
「なるほどなるほど……すばらしい提案だ。彼方も目をキラキラさせている」
「うん。大枠はそれでいいと思う」
「なら細かいとこ詰めてくか。スマホであのあたりのマップ出して」
そこから私の当初の心配とは裏腹に、どんどん順調に計画が定まってゆく。なんだかんだ坂田先輩もいろいろ案を出してくれて、もしやこれは平穏に終わることができるのではないか。そんな期待が私の頭の中に湧いてきた瞬間だった。
「そういえば彼方さぁんは美鈴ちゃんとどこまでいったのぉ?」
とんでもない核弾頭が三原から投下された。
「お前……デリカシーってもんが……」
この空気を読まない天才にそんなものを期待しても無駄なのはわかってる。それにコイツの質問の意味が分からないほど子供じゃない。でも、イラつく権利くらいはあるはずだ。ついでにこいつを家から放り出す権利もあるはずだ。
「あっ、それ私も聞こうと思ってた」
追加オーダー。こいつも家から締め出す。一瞬でもこの大馬鹿野郎先輩を見直した私が馬鹿だった。面白半分で三原を呼び寄せる奴がまともなわけなかった。
「ちょっと二人とも。そういうのはやめなって」
さすが我らが委員長兼部長。あまり聞かれたくない部分への質問をすぐさま注意する。でも声が優しかったからか、二人から引き下がろうという気配はしない。どう対処しようかと頭を悩ませていたら、意外な人物からとんでも発言をくらってしまった。
「でも、心の準備はするべきかもね」
「海香!?」
味方だと思っていた海香のまさかの不意打ち。しかもその場のテンションの悪ノリではなく、大真面目に言っているようだった。
「どうせ彼方のことだからキスもしてないんでしょ?」
「んなっ……まぁ、そうだけどさ」
美鈴と付き合い始めてから二か月、何度かデートをして手をつないだりはした。でも、キスまでは至っていない。その理由は単純で、私は美鈴を大切にしたいからだ。天使のように純粋で穢れのない可愛い恋人は蝶よ花よと優しく扱わなければならない。
「そうだと思った。どうせ大切にしたいからって言い訳してビビってるんでしょ」
なんだこの子はエスパーか? いやいや違うし。ビビッてるわけじゃないし。私は本心から美鈴を大切にしたいと思ってるからこそ慎重になってるのだ。……それをビビってるというのでは?
「いやちげーし」
正気になりかけた私を振り払って海香に言い返す。しかし私の心はお見通しな彼女は、ムッと頬を膨らませて不満そうな顔をした。それを隣の委員長が可愛いと言ったのは聞かなかったことにする。
「ちなみにぃ、わたしはエリカとぉ」
「わかってる。もうしゃべるな」
こいつは水着姿の恋人を人前で愛でるような奴だ。私達より遥か先の段階に進んでいるに決まっている。まぁ鳳さんも合意してるみたいだからとやかく言うつもりはない。恋人との関係は人それぞれだ。
「……なぁ委員長。どう思う」
「えっ、うーん……」
正直海香の言うことには一理ある。でも、美鈴が初めての恋人な私はどうするべきなのかわからない。よって私が信頼を寄せ、尚且つ海香といちゃいちゃ恋人ライフを送っている委員長に意見を求めることにした。委員長は少し唸って考えた後こういった。
「キスは考えておいたほうがいいと思うよ」
「そっか……」
美鈴と恋人同士になって二か月。もともとの親密度を考慮し、クリスマスという特別な時であるとなれば、私も覚悟をするべきなのだろう。
告白は美鈴からしてくれたから、キスは私からするというのが道理というものだ。今日立てた計画道理に美鈴をエスコートし、最後にロマンチックな雰囲気になったらキス。うん、完璧な計画だ。
「ビビッて何もしなかったらぶん殴るよ。乙女心の代弁者として」
「まぁねぇ、わたしぃのライバルがぁ、恋人にぃキスもできないヘタレェなわけないよねぇ」
「テニス部時期エースとしての度量があるか見極めさせてもらうよ」
なぜこの三人に私がちゃんと美鈴にキスできるかどうかで圧をかけられるのだ。特に海香からは殺意にも似た感情を感じる。
「うんまぁ、頑張ってね」
「うん……ありがとな」
唯一の癒しである委員長の優しい応援に、三人からの圧に打ちのめされた私は力なくうなずいた。
こうして何とか計画を立てた私はクリスマスを待つこととなった。
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