決戦前夜
文化祭一日目が終わり、今日の片付けと明日の準備を終わらせた私と彼方は、駅に芹香さんの見送りに来ていた。
帰宅ラッシュの時間というだけあって、制服やスーツ姿の人たちでごった返している。
「本当にもう帰っちまうのか? 芹香ならうちに泊めても構わないが」
「それは無理なの。チームの練習があるから」
しれっとお泊まりを提案した彼方の方に勢いよく振り向いて、芹香さんが断ったのを聞いて顔の向きを元に戻す。彼方は気付いていないが、その様子をちゃんと見ていた芹香さんは面白がってニヤニヤ笑っている。
「そっか、なら仕方ねぇか。頑張れよ」
「うん。彼方もね。それと彼方のことよろしくね、美鈴ちゃん」
「はい。任せてください」
芹香さんは彼方からの応援を受け取ると、それに笑顔で返し、心配な幼馴染のことを改めて私に託した。
「試合に出られるようになったら連絡するわ」
「おう。そん時は応援に行ってやるよ」
「ふふっ、それは心強いわね」
いつか叶える約束をし、芹香さんは腕時計を見た。もうすぐ時間らしい。
「それじゃ、またね」
「またな!」
「また会いましょう」
いつかまた会う約束をし、私と彼方は芹香さんと別れた。
一時とはいえ人との別れは寂しい雰囲気が漂う。三人から二人に減った私たちに、少し無言の時間が続く。
「それじゃ、私たちも帰るか」
彼方がそう言って踵を返した時、彼方の手を掴んだ。突然手を引かれた彼方は首を傾げて私の方を見た。
「どうかしたのか?」
このまま帰ってしまうのも口惜しい。それに寂しい雰囲気のままなのも嫌だったので、私はある約束をすることにした。
「明日、二人きりで文化祭回ろ」
夕暮れで照らされる駅前でそう告げられた彼方は、一瞬驚いたような顔を見せた。二人きりというワードと今の雰囲気で緊張が走る。
「うん、行こうぜ」
その緊張を切り裂いて彼方は即答し、私は約束ができて一安心した。
「どこ回るか決めてるのか?」
「もちろん! 今日行ってないところで楽しいとこいっぱいあるから!」
「そっか、そりゃ楽しみだ」
「うん、がんばるね!」
彼方が笑ってくれたから、明日は楽しいものにしなければ。そうやって気合を入れて鼻を鳴らした私の頭を優しくなでた。
「頑張らなくても、私は美鈴と一緒ならなんでも楽しいよ」
そう言って屈託のない笑顔を見せるものだから、私に頬は夕暮れに負けえないくらいの朱色に染まった。彼方の無意識イケメン台詞には本当に慣れない。
恥ずかしい顔を見せないように、必死に誤魔化しながら彼方と並んで帰路についた。
その夜は、今日と違って彼方と二人きりで、そして後夜祭には告白だと想像して、一人部屋のベットの上でバタバタとしていた。
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