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輝く太陽に祈りをこめて  作者: Sen
運命の文化祭
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想いの原点

 彼方に待っていてと言われたのに、私はいつの間にかお化け屋敷を離れて中庭にいた。わたあめやたこ焼きなどの屋台が並び、楽しそうに笑う人々が行き交う。


 友達、親子、そして恋人。いろんな関係の人たちの笑顔を見て私の心は沈んでゆく。こんな気分になるのは久しぶりだ。


 私はあんなふうになれない。


 私なんかが彼方の友達でいられるだけ十分だ。


 彼方の隣に私は相応しくない。


 あの日、彼方の一等星になるって決めた日から忘れていた不安。これまでの彼方との日々で自身もついてきた。彼方との距離が大きく縮まったのも間違いない。


 だけど、あんな彼方を、私が知らない人の隣で私といる時以上に楽しそうに笑う彼方を見たら、今まで積み上げてきた自信は簡単に崩れてしまった。


 接客の後でお腹が空いていて、周りから食べ物の匂いがしてくるのに、全く食欲が湧かない。何をするでもなく中庭のベンチに座り続ける。なにをやってるんだろと思うけど、何をすればいいのかも分からない。


 出てくるものはため息ばかり。楽しい雰囲気の場所でこんな姿を晒す私は、きっとかなり浮いて見えるだろう。


「どったの?」


 そんな私に、サングラスをかけてマスクをつけた不審者が話しかけてきた。


「うわぁ! だれ!?」

「わわ! そんな大きな声出さないで! 私だよ!」


 驚いて取り乱す私を見た不審者がサングラスとマスクを外すと、海香ちゃんが現れた。海香ちゃんは周囲を見渡して何かを確認すると、私の手をとってどこかへ歩き出した。


 到着した場所は三階にある空き教室。展示や出し物をしている教室から少し外れた場所にあるけど、賑わう声がかすかに聞こえてくる。


「いやー、盛り上がってんねー」

「えっと、海香ちゃん?」

「あー、この格好? 外部からの人も来てるからね。変装しなきゃ騒ぎになっちゃうんだ」


 あの不審者みたいな格好にはそんな理由が。って、私が聞きたいのはそこじゃない。


「なんでこんな所に」

「なんでってそりゃ、あんな顔してて心配するなって方が無理でしょ」


 海香ちゃんはそう言って机の上にぴょんと飛んで座ると、ペットボトルを開けてお茶を飲みはじめた。彼女は何も言わず、私の方も見ずに空いた足をプラプラと揺らしている。


 言いたいことがあるなら言っていい、何も言いたくないならそれでいい。そうやって寄り添ってくれる彼女の態度が、弱った私にはありがたかった。


「……ちょっと、弱音吐いてもいいかな」


 返事はなかった。でも、海香ちゃんは足を揺らすのを止めて、真剣で優しい目を向けてくれた。誰に聞かせるでもない、ただの独り言みたいに弱音を吐けるようにしてくれる。


 本当に、海香ちゃんには助けられてばっかりだ。


「……芹香さんと話す時の彼方は、私が知らない彼方だった。あの彼方の笑顔を、私は知らなかった。二人の間に壁なんて無い、二人の信頼は固いものだって言うみたいな笑顔を」


 私と彼方の付き合いがまだ二年にも満たないってわかってる。幼馴染の芹香さんと比べたら積み上げてきたものが違うってわかってる。


 でも。


「嫌だった。見たくなかった。私が一番じゃない彼方を」


 私の言葉が傲慢だって、強欲だってわかってる。でも、私と彼方が積み上げてきた日々は特別だって、少なくとも私は思ってる。


 だけど、芹香さんの隣にいる知らない彼方を見ていたら、その日々が踏み躙られているみたいに感じてしまった。


「だから……逃げちゃった」


 弱い私はその光景を受け入れられなかった。我ながら情けない話だ。芹香さんに悪意なんてないのに、勝手に傷ついて逃げ出して、きっと二人ともいなくなった私を心配してる。


「ごめん、全部私が悪いの。弱い私が勝手に傷ついて……心配させてごめんね」


 海香ちゃんは文化祭相当楽しみにしてたはずだ。仕事でなかなか学校に来れない中で、なんとか時間を作って準備に参加してくれたんだから。


 それに、恋人の委員長と行きたい場所だって沢山あるはずだ。私も彼方と行きたい場所がたくさんあったから。


 それなのにこんな話を聞かせてしまって、今更申し訳なくなってきた。


「謝らなくていいよ」


 海香ちゃんは机から飛び降りて、ゆったりとした仕草で私に体を向けると、目を細めて頭を傾けた。彼女の柔らかくて優しい雰囲気は、一瞬で私の罪悪感を消し去るのに十分だった。


「好きな人のことになるとさ、どうしても敏感になっちゃって、傷つきやすくなるの。好きになれば好きになるほど、その弱さはどんどん大きくなって自分じゃどうしようもなくなっちゃう」


 海香ちゃんは私の痛みを理解してくれる。お医者さんが怪我の診断をするみたいに、私の痛みを言葉にしてくれる。


「だからさ、逃げてもいいんだよ」


 その傷に一番効く処方箋を渡してくれる。


「私もそうだったでしょ?」

「そう、だったね」


 委員長が他の子に告白された時、海香ちゃんは思ってもない言葉で委員長を祝福して、親友としての大空海香に逃げようとした。


 あの時の海香ちゃんはこんなに辛かったんだな。


「でも、一つだけ忘れないで欲しいの」


 私の手をとって、彼女は慈しむような微笑みでこう告げた。


「美鈴ちゃんはどうしたいかって」


 海香ちゃんの言葉が私の純粋な気持ちを思い出させてくれた。


 私は彼方が好き。


 釣り合わないとか、まだ彼方の一番になりきれてないとか、いろんなしがらみはまだある。でも、そんなの関係ない。


 私は彼方が好きで、彼方とずっと一緒にいたくて、彼方の一番になる。それだけだ。


「自分の原点を見つめ直すと力が湧いてくるでしょ。私もそうだったから」

「海香ちゃん、ありがとう」

「どういたしまして。元気が出てよかった」


 心がぐちゃぐちゃになってどうすればいいのかわからなくなっていたけど、海香ちゃんのおかげで想いの原点を思い出せた。


 ほんの少し溢れた涙を拭って、海香ちゃんに感謝を伝えた時だった。制服のポケットに入れていたスマホから着信音が鳴り響いた。


「おっ、ナイスタイミングだね」

「うん。……頑張ってくるね」

「胸張って行ったきな。なんたって、大女優大空海香様がついてるんだから」


 海香ちゃんはドンと胸を叩いて自信に満ちた笑みを浮かべた。


「本当にありがとう」


 もう、弱気になっていた私はいない。先輩とのお別れ会で文化祭で告白するって決めた。芹香さんが現れたって、私の決意は変わらない。


 そんな強い想いを胸に、海香ちゃんに改めてお礼を言って教室を出て、彼方と芹香さんがまた場所に駆け出した。

ブクマと評価よろしくお願いします。

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