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輝く太陽に祈りをこめて  作者: Sen
太陽は揺れる
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恋の毒

 クラゲというのは不思議な生き物だ。何を考えてるのか分からない姿でふよふよと水中を漂っていて、この自分達とは違う理の中にいるような美しい姿に憧れて迂闊に触れば、命に関わる毒を注入されてしまう。


 なんだか恋に似てるなとふと思った。


 恋というのは掴みどころがなくてよくわからないが、少年少女は恋に憧れ、それを題材にした作品が人気を博している。けれど恋をすれば今まで見ていた景色は一変する。


 好きな人はキラキラと輝いて見えて、ほんの少し近づいただけで胸がドキドキしてしまう。好きな人の一言一句に耳を傾け、何を考えているか、自分はどう見られているか一生懸命考えるけど、恋にやられた頭では正しい答えには辿りつかない。


 それが恋の毒の効能だ。


 ……私にしてはポエミーなこと考えてるな。これも恋の毒の効能だろうか。


「彼方? 聞いてる?」

「えっ、あぁごめん。ぼーっとしてた」


 隣から聞こえた美鈴の声で現実世界に引き戻された。今私達は一緒に世界のクラゲ展というのを見て回っている。物珍しさか、それともイベントだからとりあえず来てみたのか、ここは人でごった返していた。


 水槽の周りには常にたくさんの人がいて、クラゲを一種類見るのに数分かかる。混むことを見越していたのか、展示は一方通行で進んで見ていく仕組みになっている。


 満員電車ほどではないが、人の密度が高くて気を抜いたら押し流されてしまいそうになる。


「あんまり集中してみられないね」

「日曜の昼頃だから特に混んでるんだろうな」


 軽い気持ちで来てみたが、まさかここまで混んでるとは。クラゲ展を侮っていた。


 ちょんちょんと腕を触られる感触がして視線を下げると、美鈴が私を見上げていた。私と美鈴の身長差はだいたい20センチくらい。美鈴が小柄でスポーツやってる私が大柄なので男子と女子くらいの身長差がある。


 近くに並んで歩くとその身長差が意識されて、ちんまりとした美鈴がさらに可愛く見える。小さいというのは可愛いという感情の重要なファクターになるらしい。


「どうした」

「えっと、手、繋がない?」


 これまたとんでもない爆弾を投げつけられた。まさかの好きな人からの手を繋ごうという提案。なんて魅力的なのだろうかと二つ返事でOKしようとした時、ふとカツオノエボシというクラゲが展示されているのが見えた。


 音声ガイドによると、カツオノエボシは強力な毒を持っており、下手をすれば人すら殺すようだ。浜辺に打ち上げれることも多く、不思議な色合いに惹かれて不用意に触ってしまう例が多いらしい。


 まさしくその状況が私とリンクする。


 美鈴の提案に惹かれて手を取ってしまったら、私は恋の毒にやられてどうにかなってしまうだろう。一度自分を落ち着かせ、美鈴の真意を探ることにした。


「なんで突然手を?」

「えっと……人混みにさらわれて離れないためだよ」

「あぁ、たしかに」


 せっかく二人で来たのに離れ離れになってしまっては意味がない。でも手を繋ぐなんて恋人みたいな……いや待てよ、友達から女の子同士で手を繋ぐのはよくあることと聞いた事がある。


 私が美鈴を好きなせいで変に意識してるだけで、美鈴からしたらなんでもない行為なのだろう。そうなれば私のするべきことはただ一つ。


「分かった。ほい」


 彼女に手を差し伸べる。すると美鈴の細くて小さな手が私の手に触れる。テニスラケットを握り続けてゴツゴツした私の手とは違って、女の子らしいすべすべした綺麗な手。ギュッと握ると私の手が一回り以上大きいから包み込むような形になる。


 やばい。手を繋いでるだけなのにめっちゃドキドキする。可愛らしい小さな手で、優しく握り返してくれるのがたまらなく愛おしい。


 私の体に恋の毒があっという間にまわり、動悸が激しくなる。頭がぐわんぐわんってなってただ手を繋いで歩いてるだけなのに目が回ってきた。


 やばい。恋の毒はカツオノエボシ以上に強いかもしれない。


「彼方の手、おっきいね」

「えぁ、まぁ、テニスしてるからな」

「彼方の手、好きだな。頑張ってるって感じがして」


 その言葉は、カツオノエボシどころじゃない致死性があった。完全に麻痺しきっていた私の体にとどめの一撃。毒が完全に体にまわって私の頭がボンっと弾けた。


 ぶっ倒れそうになるのをなんとか耐えて、真っ赤に染まった私の顔が見られないよう美鈴から目を逸らしながら歩いた。思い返せばあまりにも不自然で、美鈴に気づかれていなかったただろうか。


 そこから先、私達がどんな会話をしたかもどんなクラゲを見たかも全く覚えていない。


 ただ一つ記憶の中にあるのは、帰った後耐えた分存分に美鈴の可愛さに悶えたことだけだ。

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