託された指輪
「誤解も解けたのならちょっといい?朔夜の治療をしたいんだけど。」
そういって、アヴァロンは俺の手を握る。
「ちょっと待ってね。」
ものの数秒だった。俺はみるみるうちに回復していった。なんの痛みも感じないほどに。
「アヴァロン、なにしたんだ?」
「簡単よ。単純に私の生命力を分けてあげただけ。心配しないで私の生命力は伊達じゃないから。」
「あ、ありがとう。さっきまでの傷が嘘みたいだ。」
「それは結構。で、なにがあったのか詳しく教えて?友達になった次の日になんの理由もなく約束を反故にするなんて朔夜はそんなことしない人間でしょ?」
どうもこいつは俺のことをかなり信用しているようだ。すごくありがたいことだが、その分ちゃんと待ち合わせ場所に行けなかったことが後悔だ。
「ああ、えっとだな。端的に言うと悪霊に襲われた。昨日とは全然違うタイプだったけど。」
「っていうと?」
「自我を持ってた。少し破綻はしてたけど、重力操作とか使ってた。これってスキルだよな?」
すると、アヴァロンは黙ってしまった。どうも考え事をしているらしい。やっぱり自我をもつというのは特別なことなのだろうか。
「いい?朔夜。あと、千代だっけ?あなたも聞いていきなさい。」
「元々そのつもりです。」
「そ。で、今回襲ってきた敵も悪霊で間違いないわ。ただ、普通ではないわ。恐らく自我を無理矢理組み込まれた悪霊ね。」
「自我を無理矢理って、そんなことができるのか?」
「ええ。簡単じゃないけどね。そして、多分その自我を入れられたときにスキル、正式名称精霊固有能力が発現したとみて間違いないわ。」
「精霊固有能力・・・」
そんな名前があったのか。このままだと長いからスキルと呼んでいるのだろう。なるほどと感心しているところに千代が質問を挟む。
「アヴァロンさんは、自我を組み込むことが簡単じゃないといいましたよね?ということは、それをする技量の人を絞れるんじゃないですか?」
おお、流石優等生。目の付け所が違う。俺なんてふむふむと聞いてただけだったのに、しっかりと的を射た質問をしている。
「ああ、簡単じゃないってのは方法のことよ。なんせ生きた人間の魂を悪霊に移植するんだもの。並みの人にはできないけど、そこらの魔術師はやろうと思えばできることだからこれだけで標的は絞れないわ。」
「そう・・・うっ。」
いきなり千代の体がふらつく。肩を支えてあげるも、かなりつらそうな表情をしている。
「どうしたんだ!千代!」
「ごめんね、朔夜。私の能力の副作用なの。だから、もう帰るわ。明日は学校いけないと思うからまた明後日ね。あと、アヴァロンさんにも詳しい事情を聞かせてもらいますからそのつもりで。」
「朔夜がいいっていうなら教えてあげるわ。それよりも早く帰った方がいいんじゃない?」
「ええ。じゃあね、朔夜。」
最後に俺への挨拶を済ませて飛んで行ってしまった。副作用って、あの力を使ったせいなのか?アヴァロンはそこらへん詳しそうだから聞いてみることにした。
「なあ、アヴァロン。千代の言ってた副作用って言うのは?」
「そうね。一から説明しましょうか。まず、彼女が使った技、神卸についてね。文字通り神を自分に卸す技よ。術者本人の身体的スペックを疑似的に神の位まであげる反面、その強大過ぎる力をコントロールするための代償が必要なの。彼女の場合はフルパワーでの活動時間を三十分というところね。そして、代償は睡眠というところかしら。」
「睡眠?」
「ええ。といっても普通の睡眠じゃないわ。神の力を抜いて人間に戻すために必要なことよ。あの力の規模なら二十時間以上は眠らないといけないと思うわ。」
「二十時間⁉そんなに?」
「あの力は人間の身には余るものよ。そして多分、神卸をするたびに彼女は寿命を削っているはずよ。」
「寿命って。三十分しか使えないのに代償が大きすぎるだろ!」
「朔夜、彼女は魔法使いでもなければ魔術師でもない。彼女にしてはその程度で済んでいるのが奇跡なくらいよ。五感の消失や一部人体の部位欠損なんてのが普通なのだから。」
俺なんかを守るためにそんな力を使ってくれた千代には感謝しかない。だからこそ、俺は強くならないといけない。これ以上誰かの迷惑をかけないために。
「アヴァロン。昨日言ってた・・・」
「ええ、武器のことね。もう私の力をふんだんに使ったんだから。とりあえず広い場所に移動しましょうか。お披露目はそこでしましょう。」
「分かった。広い場所って言ったらやっぱり大公園だな。」
アヴァロンの横に並び、大公園へと歩いていく。十分くらいで着くが色々質問したいことがあるので聞いてみることにした。
「なぁ、アヴァロンってなんでこの人間が暮らすところに来たんだ?精霊ってあの世にいるもんなんだろ?」
「前に言わなかったっけ?観光よ?人間の娯楽がどのようになったか遊びに来ただけ。」
「遊びに来ただけって・・・そんな簡単に来れるもんなのか?」
「まさか。今は私しか自由に来れないわ。それよりも明日はお昼から集まって人間の娯楽を案内してよ!夜に探索すれないいし。」
「あー。明日は早くても夕方からじゃないと無理だな。」
「えー、なんで?」
「人間には、学校というものがあるんだよ。」
「学校・・・確か学び舎のことよね。」
「ああ、人間はそこで大人になるまでは朝から夕方まで通わないといけないんですよ、お嬢様。」
「ふーん。じゃあ、そこにつれてっ・・・」
「ダメです。お前みたいなやつがいきなり学校にきたら大騒ぎになる。大人しく町で待っててくれよ。」
「その学校って毎日あるの?」
「五日行って二日休むってのが基本。たまに、長期休暇とかあるけど。」
「なんか、つまんないね。千年前に来た時もそうだったけど、人間って無駄なことをしがちよね。効率が悪いわ。」
「まぁ。それに関しては反論できないな。お前はそういう学び舎とか通ったことないの?」
「必要ないわ。知ろうと思えばいつでも星から情報が渡されるし、十秒もあればこの世界の全てを知ることができるわ。まぁ、それをしちゃうと観光が楽しくなくなるから敢えて私はしてないんだけどね。」
「星って、地球のことか?」
「そうよ。わたしのような精霊は例外だもの。あ、見えてきたよ。大公園。」
「お。おう。」
星からの情報提供ってどんだけロイヤリティなんだよ、お前。その気になれば人間なんて一掃できるんじゃないのか、こいつ。とりあえず、大公園に到着した俺らは昨日悪霊から助けてもらった広場へ向かった。アヴァロンが手を振り上げた。昨日のように結界を張るものだろうと思っていたら違った。その瞬間、一瞬で一面が荒野に変わった。
「おい、アヴァロン。これはなんだ?」
「あー。この一帯の地形情報を書き換えたの。安心して。後でもとに戻すから。」
「な、なるほどね・・・」
こいつのやることに一々突っ込んでたら話が進まないから今は放置することにしよう。
「それで、武器ってのはどこにあるんだ?」
「これよ。」
そういって、彼女は右手の中指にはめていた指輪を外し俺に差し出してきた。
「いや、指輪じゃないか?俺、片手剣って頼まなかったっけ?」
「まぁまぁ、とりあえずはめてみて!」
流されるがままにアヴァロンがつけていたように右手の中指に指輪をはめる。しかし、これといった変化は見受けられない。
「なんも起きないけど?」
「ジャンプしてみて。」
「ジャンプ?」
「そう。」
全く言ってることがわからないがとりあえず普通にジャンプしてみた。すると、みるみるうちに高度を上げていく。どのくらい上がったのか分からないが雲の近くまで上昇したのち、やがて下降し始めてなんとか着地に成功する。
「アヴァロン!これって・・・」
「そう。まず一つ目は肉体性能の強化よ。仮に武器を扱えても大体の精霊からの攻撃には人間の体そのものが耐えられない。だから、あらゆる肉体の能力、耐性をみにつけてもらう必要があったわ。この指輪をつけているだけで効力を発揮するからずっとつけててね。」
「ああ、分かった。」
確かにアヴァロンの言う通りだ。俺はどこまでいっても人間だ。最高の攻撃力があってもそれと同等な防御力がなければ意味がない。実際、今日の敵には大ダメージを喰らったし。
「うん?じゃあ、筋トレとかする意味ないんじゃないのか?」
「ううん。すごく必要なことなの!いい?この肉体能力の向上はあなたの今の肉体性能にかけ算したものなの。だから、元の肉体性能が上がればその分強くなるわ。」
なるほど。つまり、まだまだ上があるということか。
「ちなみに今の状態だと何パーセントくらいだ?」
「大体十パーセントかな?」
「十パー⁉単純計算あと十倍ものパワーアップができるのか⁉」
「もちろん。だって、私が作ったんだもの!」
軽くジャンプしただけで雲の近くまで行ったのにこれで一割かよ・・・やっぱりこの精霊化物だ。
「まぁ、分かった。とりあえずこれからもトレーニングは続ける。で、武器はどうするんだ?」
「うん。その指輪に自分が思う片手剣をイメージしてみて。」
「イメージ?」
「そう。その指輪は肉体性能の向上と創造力の二つに特化しているわ。だから、朔夜の思う武器とその性能をイメージして。星に影響するものはダメだけど、火や水とかはエンチャントできるはずよ。」
「創造力・・・」
確かにそれなら俺に馴染む武器なんてすぐに作れるだろう。刀身はおよそ百センチ、素材は鉄、とりあえず一般的な片手剣をイメージする。すると、俺の手の中に創造した通りの片手剣が現れる。
「これ・・・すごいな!」
「そりゃもちろん。で、本来なら今から私と一緒に練習したいところだけどさっきの傷のこともあるから明後日にしましょうか。」
「えっ。いや、今めちゃくちゃ元気だから今やってもいいぞ?」
「そりゃ私の生命力を渡したんだもの。だけど、人間相手に生命力を渡したの初めてだから何かしら体に影響するかもしれないから、今日はダメ。うーん、明後日大丈夫そうなら特訓しようか。」
「明後日って。そんな悠長にしていていいのか?二日連続で襲われてるんだけど。」
「大丈夫よ。しばらく手を出してこないと思うわ。」
「なんで?」
「色々理由はあるんだけど、結界に防音や人除けをつけるほど慎重な相手がここでもう一度攻めてくることは考えられないわ。それに監視もしていたはずだからイレギュラーが二人もいたら簡単には攻めてこられないはず。だからしばらくは大丈夫なはずよ。」
「な、なるほど。」
敵の性格から予測しているのか。無謀なことはしないってことか。つまり、今は次の作戦を立てているということか。
「わかった。アヴァロンがそういうのなら特訓は明後日からだ。じゃあ、明日はどうするんだ?」
「明日は町の調査くらいにしておきましょう。何個か気になる場所はあるから。それと観光!」
「観光って・・・まぁお前本来の目的だもんな。」
「そういうこと。案内してもらうから覚悟しなさいよね!」
「覚悟も何もそれが条件なんだ。付き合いますよ。」
明日、学校が終わるまでにどこに行くか考えておかないといけないな。幸いにも駅前付近は中々の都会だ。遊びに行く場所はたくさんある。
「じゃあ、今日はもう解散か?」
「そうね。早く朔夜を休ませてあげたいしね。」
「それはどうも。じゃあ、俺は帰るけど。アヴァロンはどうするんだ?ホテルとか取ってるのか?」
「?朔夜の家にお邪魔するつもりだけど?」
「ああ、なるほどね。まぁ何日滞在するかわかんないし、ホテルもたか・・・うん?・・・アヴァロン今なんて言った?」
「朔夜の家にお邪魔するつもりだけど、って言ったけど?」
「えええええええええ!?!?!!?」
ここが荒野でよかった。じゃなかったら学校に騒音のクレームが入っていたことだろう。




