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第19話 水使いって言うと途端に格好良さが増す

◆1/3◆


明けましておめでとうございます。

新年だからといって何か特別な企画をやるわけではなく、淡々と進めることになりますが、お年玉な感じで連続投稿です。

2本目は12時を予定しております。

 まぁ、あれだけ浮かれていたのには理由がある。

 何せ広域を正確に探知できるようになった【索敵反響】によって、この湖に巨大魚をしのぐほどのサイズを持つモノがいないことが明らかになったからだ。

 探索は残っているものの、もう僕の湖と呼んでも過言ではないだろう。


「さて、と。ご飯の捕獲もかねて、【水術】の練習でもしてみようか」


 スペル。つまりは呪文。これが意味することとはつまり、魔法が使えるのではないかという希望である。

 現代に生きた少年少女ならば一度は憧れたであろう魔法。それに手が届くかもしれないという現状を興奮しないでいる事なんて僕にはできない。


 小魚の群れが見えてきた。

 そろそろ近づきすぎて見つかる頃合ということもあって、ゆっくりと移動をとめて【水術】に集中する。

 魚群を視界に入れつつ【水術】を念じる。

 出来る限り格好いいイメージで、さながら気分は魔法使い。

 見た目が魚とかいう突っ込みは受け付けない。断じてだ。

 僕の体内で気泡がゴポゴポッと音を立てる。

 誰も聞いていないのをいいことに、詠唱なんて、してみたりしようか……。


「<水織り成せ(ウォーター)囲い込む檻を(・ケージ)>」


 イメージしたのは水の檻だ。

 流動し始める水は対照的に激しく渦を巻き、水の中に水で作られた水槽を描き出す。


「――わぁっ!?」


 激しく揺れる水が魚群を逃がさず捉え込んで放さず、瞬く間に魚群丸々の捕獲に成功してしまい、あまりの性能に自分でも変な声が出てしまった。

 今日は朝から驚くことの連続だ。やはり大物を仕留めた恩恵というのは随分と大きいらしい。


「……ふむ」


 捕らえた魚たちを体内に放り込もうとしてふと考える。

 先日はそれで結局は全部食べてしまったではないか。


 迷いに迷った末、同じ轍を踏まない為の解決策を選択することにした。

 一つの群れ丸々を生簀に入れることは出来ないので、半分をお持ち帰り、残りの半分の更に半分、元の四分の一を胃袋に収め、残りを絶滅防止に放逐するという折衷案だ。


「むぐむぐ。うん。やっぱりおいしい。でもそろそろ文明の味が恋しくなってきちゃったなぁ」


 癖が無くあっさりとした味わいを堪能しつつ帰路につく僕に敵はいない。

 今まさにサメイルカが捕獲した魚を狙って近づいてくるが、今更この程度でビビる僕ではない。

 やはり【激流障壁】がエコーを遮断しているようで、向こうがこちらに気づいたのは普段よりもかなり距離が近くなってからだった。

 <水檻(ウォーター・ケージ)>と名付けたこの捕獲魔法も例外ではなく、水流によって脱出不可の檻を形成しているためサメイルカにも直前まで気付かれることはないはずなのだが、それでもさすがに視界に入ってしまえば注意を引いてしまう。

 逆に、僕は範囲の広くなった【索敵反響】で定期的にサメイルカたちの位置を把握しているので、こうして訓練がてら先手を打つことができるわけだ。


 水に念じる。

 今度は囲い込む檻ではなく、弾丸のように鋭く尖った刃の姿を。


「――<水よ奔れ驟雨の如く(アクア・バレット)>」


 使っている僕だからこそわかる。無数の水がサメイルカへと突撃してゆく。

 狙いたがわず命中した……のはいいが、どうやらやりすぎたらしい。


「あーあ……もったいない、うん。もったいないし、いただきます」


 水中で血が撒き散らされると、それにつられてサメイルカがよってきてしまいそうだというのも理由だが、やはり一番は仕留めたからには頂かなければならないという、僕自身の決め事だ。

 大口をあけてすっぽりとサメイルカを飲み込み、ふいに思いつきで、水流を操作して流れ出した血も口の中に収めてゆく。

 体内でサメイルカと血だけを消化し、水だけを外へ。

 ……うまくいったようだ。


 その後は何事も無く家の近くへと戻り、【水術】で水を操って魚ごと流し込んで生簀を完成させた。

 構想から実現までだいぶ紆余曲折あったように思う。

 感動もひとしお、というよりは、焼き魚のための塩がほしいというのが正直な感想だった。

 さすがに転生してからこっち、水草と魚ばかりでは、鳥や猪も食べているとはいえ野生主義が過ぎるというものだ。


「そろそろ、陸に進出する時期かなぁ……」


 今までもちょくちょく陸に上がることはあったが、本格的に陸地で活動するとなれば話は別だ。

 ただ、その決断を先延ばしにしたい程度には迷っているのもまた事実。


「今の生活、割と安定しちゃったし……うー……決意鈍るー……」


 現在は生活に必要な衣食住――尤も、今の僕に限っては衣類は必要ないのだけど――の内、食も住も安定している。

 このまま暮らしていく分には、おそらく何一つ困らないはずだ。

 けれど、このままでいいのかという考えも同時にある。

 そもそも僕の最終目標は人里を見つけて人と交流することだ。

 ならば陸への進出は避けようも無ければ、人類の生活圏の捜索のために探索の足を伸ばさなければならないのもまた事実。

 現状の安定か、未来への歩みか。

 選択の時だ。


「僕は、どうすべきなんだろうね」


 誰に問いかけるでもない声が遺跡の中で溶けて消える。

 【索敵反響】のおかげで、一応音らしい音はだせるようになったが、これは声というより鳴き声に近いだろう。

 声帯がそもそも、陸で発声するためのものではないのだから仕方が無い。


 ……仕方が、なくはない。

 だって僕の手元には、【擬態】もあれば進化という可能性もある。

 まだまだ手に入れたいものがたくさんある。


「……よし!! 決めた!!!」


 改めて、目的意識を定かにした上で、行動を決定する。


「人に会うことを目指すのはもちろんとして、その前に、まずは陸でも生活を安定させる。そのためには更なる生存圏の確立が必須条件」


 よって、まずはこの湖を完全に探索しきることが先決だ。

 湖そのものを僕の安全圏とすることで、ここを起点に陸地の探索をするのだ。


「よーし。そうと決まれば探索だー!」


 幸い日も高い。今日は食糧確保を優先し、明日からは湖の東の探索をするとしよう。

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