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第18話 ゼリーは スライムに しんかした!

今年最後ですね。

来年もよろしくお願いいたします。

 目が覚め、体が不思議と軽い事に気づく。

 そういえば寝る前にいつもとは違った項目があったのだと思い出してステータスを開いてみて、改めて自分の種が進化しているのを知った。

 ……アクアスライム、っていうのは、水属性のスライムという事でいいのかな。

 体の内側に視覚を向ければ、水色に透き通った半透明の流動体に変化していた。

 外皮は前よりも滑らかさが増しているように思え、体格は少々サイズダウンしてスリムになっていた。


「……ってあれ? なんか称号増えてる」


 変化した身体を確かめるために開いたステータス画面の末尾に見慣れない文字へと意識を向ける。


 【水陣の御手】

 水を司る防衛者、バルハムルドを討伐した者の証。

 火や熱に対する耐性。水に干渉する力が強化される。


 どうやらボス討伐勲章のようなものらしい。

 この称号についての検証もひとまずは後回しにしよう。今は何よりも【極彩鎧鱗】の存在が気になる。

 今までスキルで得られたものは基本的に、その存在が持つ特性に限定されていたが、しかし……


「お? おおっ?」


 意識をすると、ピキピキと硬質な音がして、僕の表皮……というか外面が巨大魚――バルハムルドとか言ったか――の鱗とまったく同じ、キラキラと光を反射して輝く鱗に覆われてゆく。

 瞬く間に全身の表面が鱗に覆われて、今の僕はさながら鱗饅頭、ないし、花を象った和菓子のようだ。


「やっぱり! あの鱗ちょっと気になってたんだよね!! うわー綺麗ー。山椒の味……するのかな?」


 体が完全に鱗に覆われきった後になって、動こうとした時にふと違和感を覚えた。


「う、ごけない……」


 堅い。身を捩るたびにギチギチと堅いものが擦れ合うような音が鳴って、その度に接触している地面の石床がごりごりと削れる。その割には移動しているという感慨が一ミリも沸かない。

 ……つまりは、外皮が完全にガチガチになってしまった為に、今までの様な移動方法が取れない事に、今更ながらに気がついたのだった。


 どうやら防御としては有用なようだが、日常生活で全身を覆うには工夫が必要なようだ。

 幸い、行うべき工夫には心当たりがある。それはまた後で。具体的には【激流障壁】と【水術】、それから【水陣の御手】の試運転と検証をするときに試してみることにする。

 消えろと念じれば鱗は元のぷるぷるな外皮に戻って行き、色も薄水色に戻って、元通りの体になった。


「まぁでも、石製の床が身じろぎで抉れるくらいには硬いってことだよね。……僕、水の障壁無くてもわりと詰んでた?」


 今更すぎるが、かるくゾッとしたのはここだけの話。

 それはそうと、今日一日は検証や試運転に費やすことは決定事項だ。いつまでもここでごろごろしているわけにも行かない。

 動き出せば、どうやらゼリー種よりもスライム種のほうが全体的な性能が上がっているためか、陸上での移動速度も以前よりも速く感じる。

 これは水中での移動が楽しみだ。


 道すがら、身体の調子を確かめるように触腕を動かせば、その動作は以前よりも格段に早い。

 ただ、早いといっても以前までが遅すぎただけであって、今で漸く野生動物の動きにある程度対応できるようになった程度と言える物だ。

 それでも進化という事は種が一段階上昇したという事で、生存率が上がったことが無性に嬉しかった。

 遺跡の小部屋から穴へ、そこからいつも通りに水中に身を投げ出してみれば、今まで以上に水と同化するような一体感に心が躍った。


「まだ【擬態】してないのに――ってそうだ!【擬態】!!」


 先ほどまでは新しいスキルにばかり気がいっていたが、種のランクが上がったということは、自身より下位の物に化ける能力である【擬態】のバリエーションが増えたということでもある。

 さらに――むしろこっちが本題だけど――自分が捕食したモノに擬態できるって事は――


 【擬態】――バルハムルド


 ぐぐぐっと身体が伸びる。半透明で長細い龍のようにも見える姿へと形が変わる。


「おおおー!!! これは、そのままミニマムの主じゃん!!」


 ただし、擬態はあくまで形状と色相を似せるだけであるため、このままではあの優美さは表現できない。

 それを補うスキルは、別にある。


 【極彩鎧鱗】を発動すれば、【擬態】した身体にフィットする形で鱗が生え揃い、僕の姿は完全に巨大魚のそれへと変わった。

 サイズさえどうにかすればそのまま成り代わることだって可能だろう。

 ためしに尾びれを強く打つ。


「っ!!!」


 速い。

 今までの速度の比ではない。

 これに【加速】を加えればもう水中で僕に追いつけるモノなんていないんじゃないだろうか。


「うわ、水が。これが【激流障壁】か」


 速く泳げることが楽しくて、何も無い水中をぐるぐると縦横無尽に泳ぎまわっていて、今までとの違いに気づいた。

 周りの水流が僅かに渦を巻いて、僕の移動を補助している。

 これは最初に僕が【索敵反響】で見落としてしまっていた時と同じ状態……いや、それ以上に、範囲が以前までとは比べ物にならない。

 水流が僕の味方をするお陰で、音の反響率が格段に上がっているみたいだ。

 遠くの水の流れまで、手に取るようにわかる。


「流水、唸れ!」


 試しに自力で【激流障壁】を操作できないかと念じてみる。

 すると、ただ自動的に移動の邪魔にならないように流れていた水が僕の周りを取り巻くように渦を強めた。


 そのままを維持するよう念じて少し。どれくらい体力を使うのかを測るつもりだったんだけど、どうにも【激流障壁】はとんでもなく燃費がいいのか、ほかの要因があるのか。あるとすれば【水陣の御手】による“水への干渉強化”くらいか。

 どっちにせよ、ずっと指示を出していてもほとんど疲れないことが判明してしまった。


「……もしかして、僕の時代が来てしまったのでは?」


 あれほど恐ろしかった能力の両方が、今は僕の手中にある。

 これほど自信が付くものもない。アイツは本能に任せて振り回していたが、僕には考える頭がある。


「僕が一番うまく扱えるんだ! なんてね」


 新しいスキルふたつだけでもこれだけの驚きと喜びを僕に教えてくれたんだ。

 きっとスペルはもっとロマンにあふれているに違いない。


 うきうきした気分のまま、朝食を探しに先日巨大魚と死闘を繰り広げた地域にまで足を伸ばすのだった。

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