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第12話 新たな探索に乗り出します。ただし何のとは言ってない

◆2/2◆


連続投稿2本目です。

読み飛ばしてしまった方は前話からどうぞ。

「うーん……手があればもっと色々便利なんだけどなぁ」


 現在は移動の間の暇つぶしと【擬態】の練習を兼ねて、足だけをサメイルカのような魚状に固定し、上半身をどうにか人に近づけられないかを試行錯誤中である。

 イメージとしては人魚のそれが完成形なのだが、如何せん上手く行かない。

 どうやらこの体になってから食べた事のあるものにしか擬態できない様で、サメイルカや鷹の魔物、イノシシやその他野生動物、果てはあの山葵味の赤水草にまで擬態できたというのに、ほかのモノには一切擬態できないのだった。

 今の僕はひどい格好をしているだろう。頭部に髪にも見える水草のようなものと白銀の角を持ち、鷹の翼とイノシシの四肢が生えた巨大な魚――キメラも真っ青な謎生物状態だ。


「っと、さすがに抵抗が大きくなるから得策じゃないね、これ」


 形状を普段の一角魚へと戻しつつ、検証結果を整理する。

 【擬態】自体は他の存在の形状を模ることができるスキル、ということで間違いはなく、さらに言えば、全身を真似るだけではなく、任意で部位だけを変化させることもできた。

 説明では、“自分よりも下位のもの”にしか擬態できないとあるので、恐らくは僕が最弱種だからこその弊害なのだろう。

 上手に変化するには、食べる事で実質的に上位になるか、種として上位種にならなければならないようだ。


「でも逆に言えば、食べることができれば何にでも成れるってことでもあるんだよね」


 ますます捕食にかける情熱が上がったように思う。食べたものに自在に変身できるとなれば、ドラゴンとかを食べれば飛べるのではないだろうか。いや、飛ぶだけならば鷹の魔物になればいいんだけど。


「でもやっぱりドラゴンってあこがれるよね。男の子だもの」


 うんうん。憧れる。どんな味なのだろう。いつかは食べてみたいものである。

 ……おかしいな。ロマンの方向性をはき違えている気がする。


 ともあれ、本日探索に赴く先は僕が今まで足を踏み入れたことがない方向だ。

 というのも、この湖は存外に広い。

 ぶっちゃけ海と遜色つかないレベルである。

 陸地と孤島周辺の間の限られた領域でしか生活をしていない今のままでも十分といえば十分なんだけど、それはさすがにもったいないというのが正直なところ。

 新しいスキルや味覚と出会えるチャンスが目の前に広がっているのに、踏み出さない理由はない。


「便利になると際限なく次がほしくなるって言うしね。なんていうんだっけ、戦国武将は万石奪う?」


 微妙に違う気がする。たぶん僕の前世はあまり頭がいいほうではなかったんだろう。

 とにかく、欲に飲まれすぎないように、それでいて欲望――主に食欲だ――に忠実で居たいと思う次第だ。


 探索は主目的として、それだけで終わるのは勿体無い。

 福次目的を定めたいと思うが、さてどうしよう。


「ま、いっか。探索中に思いついたら追加していこう」


 高度の柔軟性を維持しつつ臨機応変に対処していこう。スライムなだけに。


「どーちーらーにーいーこーうーかーなー。天のかーみーさーまーのいーうーとーおーりーっと」


 太陽の位置から、僕が普段生活の基盤としている場所を南と推定――この世界の太陽も東から西に動くならばという前提付きだけど、そもそも方位を気にするのが現時点僕しかいないのだから何も問題はない――し、西と東、どちらへ向かうべきかで迷うこと十数秒。

 東は何となく水温が低い様な感じがして、魚はそういえば暖かいほうが好きだったようなと、うろ覚えな前世の知識から西へ向かうことにした。


 もちろん、新しい場所への警戒は怠らない。先日も十分怖い目にあったばかりだ。

 というか、この姿になってから新しい場所で怖い目に遭っていない事がない気がする。


 ……おかしいな。急に探索をやめたくなってきたぞ?


 全力で【索敵反響】を使いつつ警戒して進む。その姿はサメイルカに近い。

 僕がこの湖の中で見た強い魔物がサメイルカだったからというのが理由のひとつであり、これがなかなかしっかりと周囲を威圧できているようなのでこの格好を選んだ僕に間違いはなかったようだ。

 僕の姿を認識したサメイルカが早々に逃げ出すので平和そのものである。


 エコーに毒魚ではない小魚の反応がいくつもあり、魚群がやや離れた位置にあるのが分かる。これは当たり狩場かもしれない。

 そこでふと、色々あって中断したまま放り出していた生簀計画を思い出した。

 今でこそ一日に安定して食料調達ができることでうっかり失念していたが、あって困るものではないし、あの辺の小魚などちょうどいいのではなかろうか。


 そうと決めればあとは即決。行動あるのみ。

 彼らの視覚に入らないように気をつけつつ、【加速】を駆使して魚群まで一気に近づいて毒を生成し、そのまま何匹かの魚を体内に取り込んで眠らせる。

 奇襲はもはやおてのものという感じだ。


 魚群が散り散りになっては再結集して、渦を巻いて僕を惑わそうと逃げ回るが、【加速】で急激に突撃する僕の速度には対応し切れていない。

 魚群に突っ込むたびに数匹の魚を取り込み、眠らせることができた。


「……こんなところかな? あまり多く捕まえても帰りが大変だし」


 体の中で魚がぷかぷかと浮かんで美味しそうに漂っている。食べたい。が、我慢だ。

 ……一匹だけなら。味見だし。美味しくなきゃ捕まえておく意味も無いしさ。


 うん。そうだよ。そうしよう。一匹くらい、一匹くらい……

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