第11話 その魚、雷のごとく
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聖夜当日ですね。
そんなわけで連続投稿です。
次の投下時間は前日に引き続き1時間後です。
鶏肉感謝祭の翌日。
住居とする遺跡の探索も進めては見たのだが、これといってめぼしいものが見当たらなかった。
というのも、あれから行っていなかった道の探索に向かった結果、崩落して通れない道やらスイッチを踏んだ瞬間に杭が突き出ている穴に落とされたり斧が頭上を通過したりと、見事なデストラップが満載だったのだ。
あれは人間だったら死んでたね。幸い、ゼリーという種の柔軟さがほぼすべてのトラップを無効化してくれるので探索自体は面倒なだけで危険は少なかったけど。
「これも安全確認のため……いや、まぁ。掘るまでもなく大きな住居が手に入ったと考えればプラスなんだけどさ」
すべての通路を歩き終わり、最初に入った部屋が最深部だったというオチが何よりも心に刺さる。
結局、そのショックから立ち直るまで何もする気が起きずに穴の中でごろごろと過してしまい、気づけば探索から2日ほどが経過してしまっていた。
さすがにそのままではよくないと、気力を持ち直して気分転換にスキルの検証と使いこなす為の練習に費やしたりと動き回り、現在。
僕は水中を猛スピードで駆け抜けていた。
額についた白銀の角が水を切り裂き、尾びれが力強く透明度の高い湖の水を弾いて体を前へと押し出すその瞬間に【加速】を使用すれば、ぐんっ、と体に掛かる負荷が強くなって景色が後ろへと流れてゆく。
【加速】というスキルをより有効に使うために試行錯誤した結果わかったのは、このスキルは一定速度まで速くなるのではなく、元の速度を倍にするスキルだということだ。
元が速ければ速いほど、【加速】による効果は上昇する。
これが、ここ数日ほどで行っていた食料集めを兼ねた【加速】スキル検証の成果だった。
「自由に動けるってすばらしい!! 加速最高ー!」
僕の元々の速度は遅すぎると言って良い。
【水中適性】のお陰で、水中限定でならば元の形状のままでも並の魚と同程度には動けていたけど、それでもドンフィルのように捕食するために他よりも速く動くことを求めてきた種には程遠い。
けれどそれは土俵が違うからであり、【擬態】を使って魚の尾ひれなどを形作って、より適した形状に変化させる事でその差を埋め、さらに空の存在である鷹が持っていた【加速】の効果を加えてやればその限りではない。
程なくして、目的地へと到着して身を潜めるように観察し――
「――狙いよーし、角度調整ー……だんちゃーく、今!」
――バシャッ、ドシャ……ッ!
水を飲もうと水面を覗き込んでいたイノシシの脳天に、一本の白銀の刀剣が貫く。そしてその勢いはイノシシでは止まれず、湖に沿うように生えた樹木にしっかりと突き刺さってようやく止まる。
使用時の速度を基準に瞬間的に速度を上げる【加速】というスキルには、もうひとつ明確な利点が存在していた。
その場限りの効果とも読めるこの性能だが、逆に行ってしまえば一度付いたスピードは急には落ちる事は無い。そして、そのスピードのまま水面を飛び出せばどうなるかという実験をした結果が、これだ。
やったことは至極単純。
水中から水面を見張り、獲物が水面に近づいてきた瞬間を狙って【加速】して水中から飛び出し、その勢いのまま獲物を角で突き刺して倒す。
想像してみて欲しい。ただの給水のために立ち寄った湖から、鋭い白銀のレイピアを生やした半透明のイルカ型巨大魚が弾丸の如きスピードで飛び出してくる姿を。
僕だったら絶対にトラウマになる自信がある。
まぁ、それはさておき。これが僕の考えた【加速】運用法である。
突くだけに限らず、背鰭や胸鰭部分を【高速鋭利化】させる事によって斬撃も可能だ。
予想したとおりの戦果も得たことだし、適性のない陸地からはさっさと引き上げるとしよう。
「ぶーたにく! ぶーたにくっ!」
鋭利化を解除して触腕を木から引き抜き、そのままイノシシを体内に抱え込んだまま湖に潜る。
そのままでは全身を守る鎧の役割もあるらしい泥が邪魔なので一度水を取り込んで体内でぐるぐるとかき回して洗浄し、毛皮がみえるくらいまできれいにしてから改めて心の中で手を合わせる。
「いっただっきまーす!」
さっそく取り込んだイノシシを消化しはじめれば、野性味が強いものの、確かな豚の味わいが味覚いっぱいに広がった。
生臭さなどは魚や鳥の生食でもう慣れっこだし、脂身はむしろ、この生活を始めてから久しく焦がれていた濃い味わいである事もあって不快だとは思わない。
消化が終わればなんともいえない満足感が全身を満たす。肉の重さというのはこういうのを言うのかと、未だ味覚に残るどっしりとした旨みの余韻に浸りながらゆったりと泳ぐ。
以前にもまして食糧事情が改善したお陰で以前は黒い鯛モドキと同程度でしかなかったサイズがサメイルカと同等まで成長したことで、このあたりで危険を感じることはない。
現状、黒い鯛モドキと名前もよくわからない小魚、それを捕食するサメイルカくらいしか遭遇していないというのもある。
そしてそのサメイルカであるが……。
「ドンフィル、獲ったぞー!」
このとおり。遠距離からの急加速によって威力を乗せてしまえば、一撃で仕留める事すら可能になっていた。
もはやサメイルカは強敵ではなく、腹持ちの良い僕のおつまみと言ってしまっても過言ではないだろう。
額の角で一瞬で串刺しにしたサメイルカを、そのまま角と化していた部位を変質させて体内に引き戻しつつ取り込んで消化してから、本日のメインイベントでもある湖探索へと意識を切り替えるのだった。




