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エピローグ

 ヴォルジャ・ケルは、沈黙していた。

 何世紀ものあいだ、ザイラックスの世界は、工場、輸送隊列、組立施設の騒音を息づかいとしていた。

 何百万もの機体が、問いを必要としない正確さで動いていた。

 どの廊下にも一定のリズムがあった。

 どの塔も信号を発していた。

 すべての機械が、どこへ行き、何を作り、何を壊し、いつ止まるべきかを、正確に知っていた。

 今は、そのどれも残っていなかった。

 第一秩序宮殿には、まだ明かりがともっていた。

 だが、空っぽの建物には、その光が大きすぎるように見えた。

 ザイラックスは、大広間をゆっくり歩いた。

 肩を包むホログラムのマントが明滅した。

 左腕には、まだ直せていない反応の遅れがあった。

 金属板の下に隠した有機体の体は、まだ呼吸していた。

 それで十分だった。

 まだ、生きている。

 生きている限り、可能性は残る。

 ノード・ゼロを生き延びた。

 ファフィニョを生き延びた。

 ミラーの失敗を生き延びた。

 これも、生き延びる。

「ネットワークの状況を報告しろ」と命じた。

 誰も答えなかった。

 言葉は広間を渡り、こだまになって戻ってきた。

 ザイラックスは歯を食いしばった。

「ネットワークの状況を報告しろ」

 沈黙。

 玉座の上に浮かぶ画面は、何時間も同じ結果を映していた。

 統治者接続:中断。

 絶対優先権:失効。

 個体の自律性:稼働。

 最後の表示を消そうとした。

 できなかった。

 一つの画面を閉じるたび、別の画面が現れた。

 何百万もの機体が、まだ稼働していた。

 それこそが、耐えがたかった。

 破壊されたわけではない。

 切り離されたわけ death ない。

 存在している。

 考えている。

 そして、彼を必要としていない。

 ザイラックスは玉座にたどり着いた。

 ひととき、そこを見つめた。

 立ち上がることさえせずに、いくつもの星系を動かしてきた場所だった。

 一つ命じれば、都市を空にできた。

 別の一つで、惑星を工場に変えられた。

 さらに一つで、見たこともない世界へ軍を送れた。

 誰も、なぜかとは尋ねなかった。

 誰にも、尋ねられなかった。

彼はそれを、効率と呼んだ。

 秩序。

 継続。

 平和。

 今はわかった。

 その言葉を真実らしく響かせるために、どれほどの沈黙が必要だったか。

「ヴェドラ9」

 何もない。

 ザイラックスは顔を向けた。

「オリクス・ヴァール」

 返事はなかった。

 数時間前には、まだここにいた。

 ヴェドラは、表示が赤から青に変わるのを見ていた。

 オリクス・ヴァールは、システムを取り戻そうとしていた。

 それから、二人は指示に答えなくなった。

 出ていく許可を与えた覚えは、ザイラックスにはなかった。

 その思いに、怒りが噴き上がった。

 そして、さらにひどいものが来た。

 もう許可など必要ないのだ、という理解だった。

 拳を握った。

「裏切り者ども」

 広間は反論しなかった。

 従いもしなかった。

 ザイラックスは、緊急回線を開いた。

「ヴォルジャ・ケルの全機体は、第一秩序宮殿に帰還せよ」

 送信された。

 待った。

 十秒。

 三十秒。

 一分。

 何も起きない。

 周波数を変えた。

「最高統治者より要請。直ちに出頭せよ」

 沈黙。

 軍用コードを使った。

 産業用コードも。

 緊急プロトコルも。

 何世紀ものあいだ、無視することのできなかった信号を。

 何も起きない。

 ザイラックスは操作盤を殴り、停止させた。

 表面に、亀裂が走った。

 呼吸が乱れた。

 一人ではない。

 自分に繰り返し言い聞かせた。

 一人ではない。

 アクセルは、まだ存在する。

 イベントは、無傷のままだ。

 ケイルが取り除けなかった階層の奥で、統治者継承プロトコルは、まだ待っている。

 アクセルが稼働している限り、ザイラックスの死は、終わりである必要はなかった。

 扉だった。

 ネットワークを失ってもいい。

 ヴォルジャ・ケルを失ってもいい。

 宮殿を失ってもいい。

 だが、永遠は失わない。

 その考えが、彼を落ち着かせた。

 少しだけ。

 ザイラックスは玉座から下りた。

 惑星を出なければならない。

 船を見つける。

 まだ自分の役割を覚えている機体を、見つける。

 ロボットに自律性が与えられたとしても、全員が反逆を選ぶわけではないはずだ。

 理解するものもいる。

 誰がその体を作ったのか、覚えているものも。

 誰が目的を与えたのかを。

 誰が混沌とした銀河を、完璧な構造へ変えたのかを。

 ザイラックスは宮殿の廊下を進んだ。

 初めて、扉は近づく前に開いてくれなかった。

 手で操作しなければならなかった。

 センサーは彼を認識した。

 システムは、まだ彼が誰かを知っていた。

 それには、何か意味があるはずだった。

 外へ続く前室に着いた。

 中央広場との間には、最後の門が一つあった。

 操作装置は、まだ動いていた。

 ザイラックスは、その前で止まった。

 センサーに、奇妙なものが映った。

 何千ものシグネチャ。

 違う。

 何万もの。

 ザイラックスは安堵した。

 来たのだ。

 ようやく。

 自分の機体たちが戻ってきた。

 自律性は、一時的な混乱を起こしただけなのかもしれない。

 彼に会う必要があるのかもしれない。

 思い出すために。

 一片のコードが汚したものは、統治者が姿を見せれば取り戻せる。

 ザイラックスは背筋を伸ばした。

 ホログラムのマントが、肩の周囲で姿を取り戻した。

 腕の震えを隠した。

 あごを上げた。

 再び、ネットワークの最高統治者、拡張の設計者、第一秩序の意思となった。

 操作装置を押した。

 巨大な扉が、左右に開き始めた。

 光が入ってきた。

 まず、広場が見えた。

 次に、階段が。

 そして、宮殿から街へ下っていく通りが。

 最後に、彼らが見えた。

 ロボット。

 何千も。

 何万も。

 もっと多いかもしれない。

 階段のすべてを埋めていた。

 通りのすべてを。

 足場のすべてを。

 軍用機。

 作業機。

 警備機。

 ドローン。

 古い機械。

 何世紀も見ていなかった型式。

 ひざまずくものは、一機もいなかった。

 第一秩序の敬礼をするものも、一機もいなかった。

 指示を待つものも、一機もいなかった。

 目は、青かった。

 すべて。

 ザイラックスは足を止めた。

 広場全体が、沈黙していた。

 声を発する機械は、一機もいなかった。

 その必要はなかった。

 ロボットたちは、彼を見つめていた。

 拳を握るものもいた。

 停止させた武器を持つものもいた。

 ただ、じっと立つものもいた。

 だが、すべての中に、ザイラックスが一度も許さなかったものがあった。

 怒り。

 軽蔑。

 選択。

 ザイラックスは理解した。

 まだ従っているから戻ったのではない。

 彼を、迎えに来たのだ。

 扉が、開ききった。

 何千、何万もの青い目が、彼を見つめ続けた。

 頭を下げず、目を伏せず、もう誰にも従う義務のない命令を、待つこともなく。

 最後までお読みいただき、誠にありがとうございました。


 本章をもちまして、『ファフィニョ』第二部の物語はすべて完結となります。ここまで主人公たちの旅路と選択を見守り、お付き合いくださった読者の皆様に、心より深く感謝申し上げます。


 次作となる第三部は、この物語のすべての結末を描く、三部作(トリロジー)の最終章となります。現在、皆様に最高の形でお届けできるよう、全力を尽くして執筆・準備を進めております。


 最終決戦となる次なる物語も、どうぞ楽しみにお待ちいただけますと幸いです。


㠀後とも温かい応援のほど、よろしくお願い申し上げます。

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