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プロローグ

 アウリオンテの夜明けは、遅かった。

 レプ・オルジオンの三つの太陽が、昇るのを忘れたわけではない。

 街がまだ、煙と埃、金属の灰に埋もれていたからだ。

 かつて誇らしげな鏡のように紫の空を映した首都の白い塔は、ひび割れ、傾いていた。

 内側から裂けた塔もあった。

 ガラスと鋼鉄でできた骸骨のように。


 何時間もの間、誰も祝おうとしなかった。

 そんな勇気は、誰にもなかった。

 通りは、帝国ネットワークの残骸で埋まっていた。

 金属板の間に埋もれたロボットの頭。

 壁際で息絶えたドローン。

 大通りを塞ぐように突き刺さった攻撃艦。

 うつ伏せに倒れた灰色の兵士たち。

 その赤い目は、ようやく光を失っていた。


 何よりも奇妙だったのは、静けさだった。

 アウリオンテは、敵のエンジンの轟音、警報の悲鳴、銃声の反響に慣れきっていた。

 避難所の下を揺さぶる爆発にも。

 何日もの間、どんな音も危険を意味していた。

 空の影は、すべて脅威に見えた。

 遠くで赤い光が一つ見えるたびに、家族全員が息を詰めた。


 だが、その朝は船が降りてこなかった。

 帝国のホログラムが塔を覆うこともなかった。

 ザイラックスの最後通告が、首都にのしかかることもなかった。

 あるのは、煙だけ。

 瓦礫だけ。

 商いも、まだ息をしてよいのかさえわからない街だけだった。


 最初の避難所のハッチが、錆びた唸りを上げて開いた。

 青い肌の老女が、光る骨でできた杖をついて出てきた。

 片目には包帯が巻かれ、上着は痩せた体には大きすぎた。

 最初の一歩を踏み出すと、すぐに立ち止まった。

 左を見て、それから右を見た。

 瓦礫から機械が飛び出してくるのを警戒するように。

 何も動かなかった。


 その後ろから、銀色の埃にまみれた子どもが二人現れた。

 一人は壊れた懐中電灯を握っていた。

 もう一人は、頭のない機械のおもちゃを両腕で抱えていた。

 それだけが、持ち出せた唯一のものだったのかもしれない。

 次に、一家がそろって出てきた。

 その次に、もう一家。

 それから、疲れ果てた医療班が出てきた。

 手は治療用の液体に染まり、寝不足で目が落ちくぼんでいた。


 大通りに沿って、次々とハッチが開き始めた。

 アウリオンテが、自らの下から這い上がり始めた。

 空へ手を上げる住民もいた。

 喜びからではなく、恐怖からだった。

 停止したロボットを工具で突く者もいた。

 本当に死んでいると確かめなければならないかのように。


 若い兵士が、倒れた帝国の歩哨に銃を向けた。

 機械は反応しなかった。

 兵士は銃を下ろし、震え始めた。

 やめろと言う者はいなかった。

 壊れた噴水の近くでは、医療員が石の縁に座り、声を出さずに泣いていた。

 その隣で、四本腕の少女が毛布を差し出した。

 少女自身にも必要なのは、明らかだった。

 医療員は受け取った。

 礼は言わなかった。

 少女も、言葉を待たなかった。


 別の通りでは、作業員たちが潰れた家から金属板を取り除いていた。

 下から三人の生存者を見つけると、大通り全体に歓声が上がった。

 勝利の叫びではなかった。

 それよりも弱く、傷ついていて、ずっと確かなものだった。

 安堵の叫びだった。


 やがて、ささやき声が生まれた。

 初めは小声だった。

 口にすることさえ禁じられているかのように。

「本当なの?」

「ノード・ゼロが落ちたって?」

「軌道上で燃えているのを見た人がいるらしい」

「母艦が、死んだ太陽みたいに裂けたって」

「あいつがやったんだって」


 誰のことかと尋ねる者はいなかった。

 誰もが知っていた。

 ファフィニョ。

 その名は、どんなサイレンよりも力強く大通りを伝わった。

 兵士、医療員、避難してきた家族、失われた世界の生存者たちの間を渡った。

 もう、ただの名前には聞こえなかった。

 まだ生きていると自分に言い聞かせるために、街が繰り返すべき言葉に聞こえた。


「ファフィニョが、ノード・ゼロの中に入ったんだ」と、煤で顔の汚れた作業員が言った。

「白いロボットと一緒にね」と、透き通った翼の女性が付け加えた。

「途切れかけた通信で見たの。二人は一緒だった」

「入っただけではない」と、鱗のある老人がささやいた。

「中枢マトリクスを破壊したのだ」


 聞いていた者たちの間に、短い沈黙が落ちた。

 中枢マトリクス。

 ノード・ゼロの心臓。

 何年もの間、避難民はその名を聞くたびに、刑の宣告を受けたような思いをしてきた。

 ノード・ゼロは、ただの船ではない。

 侵攻の中心だった。

 絶滅、監獄、工場、アンテナ、サーバーを統率する影だった。

 世界そのものが帝国ネットワークの部品へ変えられ、その影につながれていた。


 その炉心に、レプ・オルジオンの若者がたどり着いた。

 緑の髪と、オレンジ色のマント、Ωの印を持つ若者が。

 つい最近まで、多くの者にとって、ホライズン基地の無鉄砲な廃品漁りにすぎなかった若者が。


「古代の剣を使ったんだって」と、少年が目を丸くして言った。

「緑に光る剣だよ。中に星のかけらが入ってるみたいな」

「ただの剣じゃなかったらしい」と、別の者が答えた。

「剣のほうが、あいつを選んだんだって」

「兄さんが聞いたんだけど、ザイラックス自身が止めようとしたらしいの」と、若い避難民の女性がつぶやいた。

「私は、ザイラックスが怯えたみたいにあの人の名前を呼んだって聞いた」

「ザイラックスが怯えるものか」と、誰かが言った。

 若い女性が顎を上げた。

「今は、怯えてるのよ」


 誰も笑わなかった。

 その考えが初めて、不可能には思えなくなっていたからだ。

 祝いは、静かに始まった。

 初めは、音楽もなかった。

 明かりだけだった。

 壊れた窓の奥に、緑のランプが灯った。

 近くで、黄色のランプが灯った。


 避難民たちが、倒れた二本の柱の間に紫の布を張った。

 その布に、避難所から戻らなかった人々の名前を書いた。

 三人の兵士が、金属板の上に武器を置き、黙って抱き合った。

 誰かが歌い始めた。

 レプ・オルジオンの歌ではなかった。

 何年も前、帝国ネットワークが灰に変えた遠い世界の歌だった。

 歌詞を知らない者も多かったが、その響きは理解できた。

 別れと、叶うはずのない帰還の歌だった。

 だがその日初めて、不可能という言葉にひびが入ったように思えた。


「ファフィニョは、ここで終わりにはしないと言っていたよ」と、年老いた避難民の女性が震える声で語った。

 人々が、彼女の周りに集まった。

 ノード・ゼロが落ちた後、ファフィニョが演説したとき、彼女は広場にいた。

 その声には、まだあの瞬間の響きが残っているようだった。

「レプ・オルジオンは、最後の自由な世界で終わらないと言ったんだ」と、彼女は続けた。

「最初に立ち上がる世界になる、とね」


 金色の目をした少年が、壊れたおもちゃを強く胸に抱いた。

「ほかの惑星にも行くって言ったの?」

 老女が、ゆっくり頷いた。

「帝国ネットワークは故郷を奪った。でも、もう一度そこを自分たちの故郷だと思う権利までは奪えない、と言ったんだ」


 ざわめきが、通りを走った。

 多くの者にとって、その言葉はどんな傷よりも痛かった。

 アウリオンテには、レプ・オルジオン生まれの人々だけが暮らしていたわけではない。

 何十もの惑星から、避難民が集まっていた。

 水晶の月から引き離された人々。

 浮遊都市を追われた家族。

 帝国の工場、鉱山、サーバー、監獄から逃げ延びた種族そのもの。

 自分の世界がどんな匂いだったか、もう思い出せない者もいた。

 覚えている者もいた。

 その者たちには、なおさら痛かった。


「俺の惑星には、赤い川があった」と、灰色の肌をした背の高い男が、地面を見て言った。

「二度と見られないと思っていた」

「私の星は、夜になると歌ってた」と、銀色の触角を持つ少女がささやいた。

「母さんは、山が息をしてるんだって言ってた」

「私の星には、地下で光る木があった」と、別の声が言った。

「私の星には、月が三つあった」

「私の星には、白い海があった」

「私の星には、生きている神殿があった」


 一つ一つの記憶が、瓦礫の中に小さな明かりのように現れた。

 そして不思議なことに、どの記憶も、最後は同じ名へたどり端(つ)いた。

 ファフィニョ。


 昼ごろ、最初の印が現れた。

 誰が描いたのか、誰も知らなかった。

 火で黒くなった壁に描かれていた。

 熱で歪んだ避難所の扉の隣だった。

 不器用で、形も揃わず、震える筆遣いで黄色く描かれていた。

 完璧ではなかった。

 片方の曲線は、もう片方よりも大きく開いていた。

 下の線からは、塗料が地面へ垂れていた。

 それでも、誰もがわかった。

 Ω。

 ファフィニョの印。


 しばらく、誰も口を開かなかった。

 最初に近づいたのは、小さな子どもだった。

 口をわずかに開き、壁に星が落ちてきたかのように印を見つめた。

 それから塗料の容器に指を浸し、壊れた帝国のロボットの側面に、もっと小さなΩを描いた。

 母親は、止めかけた。

 だが、止めなかった。


 通りの向こうでは、負傷した女性兵士が、へこんだ手首の防具に同じ印を描いた。

 老人が金属板に刻んだ。

 避難民たちが、追悼の布に描いた。

 整備士が、撃ち落とされた敵船の船体に、巨大なΩを描いた。


 印は、増え始めた。

 扉に。

 壁に。

 折れた柱に。

 包帯に。

 ヘルメットに。

 間に合わせの旗に。

 二度と立ち上がらない灰色のロボットの、金属の額に。

 夜明けには敗れた街に見えたアウリオンテが、帝国ネットワークにも消せなかった印で覆われ始めた。


 印が一つ増えるたびに、噂も膨らんだ。

「ファフィニョが剣を掲げたら、ロボットが動かなくなったんだって」

「髪が、緑の炎みたいに燃えてたらしい」

「白いロボットは、あいつを守って倒れたんだって」

「ファフィニョが、ノード・ゼロの炎の中で友だちを運んだらしい」

「いや、ロボットのほうが助けたって聞いたぞ」

「じゃあ、二人で互いを助けたんだ」

「そのほうがいい」


 紫の肌の避難民たちが、描かれたばかりの印の前に膝をついた。

 ただ祈っていたのとは、少し違った。

 銀河のどの民も、同じ習慣を持つわけではない。

 信仰を表す言葉さえ、同じではなかった。

 それでもその中の一人、額に光る模様を持つ老人が、古い言葉を口にした。

「アウラル・カイ」


 人々が、彼を見た。

「どういう意味?」と、少女が尋ねた。

 老人は、しばらく考えてから答えた。

「わしの世界では、故郷へ戻ることが不可能に思えるときに現れる者をそう呼んだ」

「王ではない。神でもない。……帰り道を開く者じゃ」


 少女が、Ωの印を見た。

「ファフィニョが、そうなの?」

 老人は、廃墟となった街を見た。

 力を失ったロボットを、瓦礫の間に灯る明かりを見た。

 そして、何年かぶりに故郷へ帰る話をしている避難民たちを見た。

「わからん」と、彼はようやく答えた。

「だが今日、多くの者には、そう信じることが必要なのじゃ」


 その言葉が、広まった。

 アウラル・カイ。

 敬意を込めて繰り返す者もいた。

 疑いを込める者もいた。

 すがる思いで口にする者もいた。

 ファフィニョ、アウラル・カイ。

 ファフィニョ、ノード・ゼロへ入った者。

 ファフィニョ、帝国ネットワークの心臓を砕いた者。

 ファフィニョ、失われた惑星が永遠に失われたままとは限らないと約束した者。


 一人の若者が背負うには、重すぎたのかもしれない。

 だが、その朝のアウリオンテで、そのことを考える者はいなかった。

 悲しみに溺れないために、街には一つの名が必要だった。

 その名が、ファフィニョだった。


 少女が、倒れた像の残骸によじ登った。

 黄色いΩを描いた金属板を掲げた。

 初めは、その声も震えていた。

「最後の自由な世界が、最初に立ち上がる世界になる」


 何人かが、少女を見た。

 壊れた噴水のそばにいた女性が、その言葉を繰り返した。

「最後の自由な世界が、最初に立ち上がる世界になる」

 次に、兵士が言った。

 それから、医療員が。

 そして、避難民の一団が声をそろえた。


 その言葉は、枯れ草を走る火花のように、大通りへ広がった。

 口から口へ、通りから通りへ、避難所から避難所へ伝わった。

 繰り返すたびに、必死の祈りではなく、約束の響きに近づいていった。

「最後の自由な世界が、最初に立ち上がる世界になる」


 首都の上で、三つの太陽がついに煙を突き抜けた。

 光がアウリオンテに降り注いだ。

 焼けた金属、割れた窓、墜ちた船に触れた。

 そして今や街を覆う、何千ものΩの印に。

 アウリオンテは、まだ傷ついていた。

 まだ、悲しんでいた。

 まだ、死者を数えていた。

 だが、終わりを待つ街には、もう見えなかった。

 立ち上がり方を思い出す街に見えた。


 壊れた塔の頂で、間に合わせの旗が風を受け、必死に広がっていた。

 避難所の切れ端、破れたマント、潰れた家から拾った布をつなげた旗だった。

 その中央に、黄色く描かれたΩの印が光っていた。

 旗の下では、何千もの声が同じ言葉を繰り返した。

 廃墟さえ、その言葉を聞いているように思えるほどに。

「最後の自由な世界が、最初に立ち上がる世界になる」


 その声の中から、もう一つの名が何度も立ち上った。

ファフィニョ。

アウラル・カイ。

アウリオンテの英雄。

ノード・ゼロを破壊した者。

奪われた世界にとって、最初の希望。


こうして、涙と灰、焼けた金属に描かれた印に包まれて、アウリオンテの祝いは変わった。

侵攻が終わったことだけを祝うものではなくなった。

反乱の誕生に向け、備え始めたのだ。

プロローグをお読みいただき、誠 impression ありがとうございます!

ついに『ファフィニョ』の第2巻、そして新たな戦いが幕を開けました。

前作『ラストワールドの英雄』に引き続き、楽しんでいただけるよう全力で執筆を続けてまいります。

これから毎週(あるいは定期的に)更新していく予定ですので、応援のほどよろしくお願いいたします!

もし気に入っていただけましたら、ブックマーク登録や評価、感想をいただけますと大変励みになります!

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