↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
22/23

メッセージ



 朝の光が淡くリビングを染めていた。

テーブルの上には、操が食べ残した誕生日ケーキがぽつんと取り残されている。

 

梢がランドセルを背負いながら、不安そうに聞いた。

 

「パパ、今日帰ってくるよね?」

 

「大丈夫。帰ってくるわ」

 

そう答えた声が、自分でも驚くほど弱々しい。

 

 玄関を開けると、初夏のやわらかな空気が流れ込んできた。

新緑の香りに、延ばしたばかりのアスファルトの匂いがかすかに混じっている。

 

「行こっか」

 

声をかけると、梢は小さく頷いて操の手を握った。

 

 このあたりは埋立地にできたばかりのニュータウンで、まだ建築途中の家や「売地」と書かれた看板があちこちに立っている。

 

子どもを一人で歩かせるには心許なくて、操は登校班の集合場所まで毎朝梢を送っていた。

 


「おはようございます」


すでに集まっていた親子に声をかける。


あちこちで他愛のない挨拶が行き交う。

その様子を、どこか遠い出来事のように操は感じていた。

 

 やがて笛の音が鳴り、子どもたちが一斉に「いってきまーす」と声をあげた。

 

「いってらっしゃい」


手を振りながら大人たちが見送る。


子どもたちの姿が角を曲がると、操はそっとその場を離れた。


 

 リビングのソファに座り、気づくと9時になっていた。


 ――会社に電話しないと……。


 夫の会社の番号をアドレスに探していると、手の中のスマホが振動し、ポップアップが浮かんだ。


 〔要一さん〕

  すまない。


心臓が痛いほど跳ねた。


画面に表示された名前を、慌ててタップする。


【好きな人ができた。もう帰れない。】

【死んだものだと忘れてほしい。】


無事だった、という安堵の後、操は夫のメッセージの意味をつかみ損ねて何度も読み返した。


「なに、言ってるの……」


驚きよりも悲しみよりも、怒りが込み上がった。


「なに言ってるのよ! ふざけないでっ!!」



 震える手で投げつけたスマホが、テーブルの角に当たって床を滑る。


ひび割れた画面を見つめると、操は声を上げて泣き出していた。


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。