精霊王の溺愛
先に浴槽から上がったダークを追い部屋へ向かうと、ふかふかのベットの上で足を組みライラの髪を乾かす準備を万全に整えたダークの姿があった。
『ライラこちらこにこい。髪を乾かそう』
組んだ足の間を軽くたたき、ここに座れと誘導される。
「そんな、大丈夫です‼︎自分で乾かせます!それに、ダークの方が髪の毛が濡れていますよ?そのままでは風邪をひいてしまいます。私のことは大丈夫ですから、自分の髪をふいてください‼︎」
『ライラ、私がお前にしてやりたいんだ。それに、精霊は風邪などひかぬ。』
自身の半乾きの髪には目もくれず、早くしろと言わんばかりにライラに手招きするダークの元へしぶしぶ歩みを進める。
「む~、ダークはいつも私のことばかり。私はそんなに手のかかる子どもじゃないですよ」
と言いつつベットにのぼり、定位置であるダークの腕の中へと素直に収まる。
暇さえあればダークに抱えられているのでそこがライラにとっても落ち着ける場所の一つとなっていた。
(後でダークの髪を乾さないと。せっかく綺麗な髪なんですもの)
ダークに背中を向ければ乾かしきれていなかった濡れた髪にタオルを宛がわれる。
丁寧にライラの髪をすくいながらダークは水気を吸い取っていく。
肌触りの良いタオルもダークの優しい手つきもどちらも気持ちがいい。
『子ども扱いしてるわけじゃない。私はお前が気に入っている。人間は好ましい相手を可愛がるのだろ?私はそれに習っているだけだ。それに、ライラがいったのだぞ?人族のやり方を知ってほしいとな』
楽しそうに微笑むダークにライラはこそばゆい気持ちになる。
確かにダークには人族の世界の事を知ってほしいと思っていた。
でもそれは、ライラが生きる上層階級で生き抜くためのマナーや手法であってこんな甘やかしを覚えて欲しかったわけではないのだ。これから先はダークも何かと上層階級に関わることになることだろう。ライラだってまだ失敗することがある貴族社会で、自身だけではなくダークのフォローに回るなんてとてもじゃないがそんな余裕などない。だからこそ、少しでもダークが嫌な思いをしないようにマナーを知ってほしかったのだが、どうやら本人は全く覚える気はないらしい。
それに、
「ダークは直ぐに私を甘やかそうとするので、何だか恥ずかしいです」
そう。ダークは今ライラを甘やかすことにハマっているのだ。
お風呂に入るときは身体を洗うだけでなく、着替えも全てダークが着せてくれる。
二人でご飯を食べるときは必ずダークの手から食べるのがいつの間にか当たり前になっていた。
自分で出来ると何度訴えかけてもダークが引くことはなく、そのうちライラも何も言わなくなった。
ライラは母親であるトゥ―ナや父親であるスティハーン公爵に愛されていると心から言える。
だが、両親がライラをお風呂に入れたりご飯をその手で食べさせてくれたことなど記憶の中に一度としてない。それはみな、侍女たちの仕事だったからだ。侍女たちは自分の与えられた仕事淡々とこなすだけで、優しさや温かさといったものとは無縁だった。それ主人と従者と言ったきちんと線引きされた関係だったからだ。
それでもライラは寂しさを覚えるなんてことはなかった。両親からの愛はきちんと感じ取れたし、上の兄二人もライラを大切にしてくれたから。
だが、ダークは家族でも友人でもなく契約で縛られている精霊なのだ。契約精霊が主人思いなのは既に知っているが、真っ直ぐに無償で向けられる好意がこれほどこそばゆいものだとライラは知らなかった。
嬉しいのに恥ずかしくて素直になれない。
そんな感情に一番戸惑っているのはライラ自身である。
『こんなもの、甘やかすうちに入らん』
まるでそれが当たり前だと言わんばかりの態度で、ライラの髪を櫛でとかしていく。
いつの間にか髪の毛はきれいに乾いていた。
「十分甘やかしてますー。どこか行くときは抱っこされてますし、着替えもダークがしてくれますし、ご飯のときも食べさせてくれるし、歯磨きも・・・・・・ダークがいないと何も出来ない子になっちゃう」
口に出して言葉にすると、いかに至りつくせりだったのかが分かりハッとする。
羞恥とかではなく、この生活を続けるのは危険だと本能がライラに訴えかけていた。
『それはいいな。お前を甘やかして私から離れられなくしてやろう。そうすれば、お前が私の元からいなくなることもない。他の人間がお前に触れることもない。・・・・・・なんだ良いことだらけじゃないか』
危険な発言と共に今まで以上に楽しそうな笑みを浮かべるダークに慌てて言葉をかける。
「そんなことしなくても私とダークは契約で繋がっているんですからずっと一緒です!」
『この世に永遠なんてものはない。それにお前たち人族の寿命は限られているからな』
さっきとはうって変わり少し寂しそうに呟いたダークの黒よりも深い藍色の美しい瞳が陰る。
そんなダークにきょとんとした顔を向け、ライラは平然と言ってのける。
「そんな当たり前です!生き物はみんな寿命というものがあるんですよ?確かに、人族は他の種族よりちょっと寿命は短いですが、いずれ皆が歩む道です。気にしてても仕方ありません!それより、今度は私がダークの髪を乾かす番です!!せっかく綺麗な髪なんですらちゃんとお手入れしなきゃ駄目です!!」
あまりの潔よさにダークは一瞬呆気にとられる。
その間にするりとダークの足元から抜け出したライラは後ろへと回る。
『ふはは、ああ、うん、ライラ、やはり私はお前を独り占めしたいぞ』
声を上げ笑うダークに非難めいた視線を送る。
「駄目です!!もう大人しくして下さい!」
愉快そうに笑うダークの髪をすくい、今度はライラがダークの髪を乾かすためにタオルを宛てがうのだった。




