11話
「ケッカさんよいい加減死んでくれねえか!」
特殊スキル「6手」の使い手ゴローキーが叫びながらも6本ある手の4本を使い攻撃を放つ。彼の父親は盗賊団の頭だったが若き日のケッカに殺されたのだ
「そうだ死んじまえ!」
丸々と太ったモヒカン頭の男も呼応するように叫んだ
「誰が死ぬかよ。お前らこそキレがなくなってきたじゃねえか」
ケッカ・カガリビの特殊スキル「熱き血潮」は戦闘中は気力体力共に消耗する事が無い。その為、永遠に戦い続けることができる。まさしく無尽蔵のスタミナを誇る。事実ゴローキーとモヒカン頭は戦闘が長引くにしたがって次第に劣勢へと追いやられてきている
「どうせすぐに援軍が来るさ!お前の仲間たちはいつまで耐えれるかな特にフロイトさんのほうは戦闘に特化してるってわけじゃあなさそうだしな。十人衆が一人崩れたらお前たちは終わりだ!」
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「カズマーーーー!!!!こっちにきなさい!!」
王女マチルダは意を決してかつてカズマであった宝石魔人に向かって叫ぶ。が何度叫んでみてもこちらに見向きもしない
戦況は不利で一刻の猶予もない。自分がカズマを正気に戻してみせる。
そして勝利を勝ち取るその決心だった
「GWO」
やっとマチルダの声に気づいたかのようにゴーレムがこちらを見た。
そして次の瞬間には目の前にいた。30メートルは離れていたはずが一瞬にして現れた怪物に王女は叫び声を上げたくなった
「カズマ!私たちを助けなさい!」
恐怖を押し殺し声を張り上げる。自分にこの戦いの命運がかかっている震えている時間は無い。しかしそんなマチルダの思いが届くことは無くゴーレムはマチルダに背を向けケッカの戦いを眺めだした
「王女様早めに頼みます!」
二対一の戦いを強いられているケッカが叫んだ。仲間達の元に駆け付けなければならない
「カズマ!早くしなさい!!」
ゴーレムは背を向けたまましゃがみ込み動かなくなった
「王女様!!」
マチルダは思い出していた。ケッカも言っていた物語の話、人間の心をもった怪物とお姫様が出会い恋をする。しかしそれを許さない王様が怪物を罠にはめ殺そうとする。怒り狂った怪物は人間を殺そうとするが王女様のキスで目を覚ます
(それしか無い。覚悟を決めろ私)
「カズマ!助けてくれたなら私のファーストキスを差し上げます!!」
「カズマ!これを食って目を覚ませ!!」
王女の渾身の叫びと同時に現れたのはフラント。彼は手に持った皿を頭上に掲げゴーレムの目の前に差し出した。
それはブリリアントポークのステーキ、ミディアムレアに焼かれ香ばしい香りを放つ世界有数の絶品料理
「GWOーーー!!!!!」
ゴーレムはステーキに釘付けになっている
「カズマとりあえず食ってみろ最高の焼き加減だぞ」
何もなかったはずの頭部に口らしき穴が現れゴーレムはそこにステーキを放り込んだ
「GWOGWOGWO!!!」
「美味いだろカズマ、敵を倒してくれたらもっと食わせてやるからな」
「GWOーーーーーーーWW!!」
ケッカの目の前に突然光り輝く物体が姿を現した
「カズマきてくれたのか!?」
「なんだこのゴーレムは!?」
「百手浪々・・・」
技名を叫んでいる途中にもかかわらず暗殺者の顔を掴み大きく振り上げると地面へと叩きつけた。ケッカの耳には頭蓋骨が砕ける音がはっきりと聞こえた
「肉壁最上級!」
暗殺者ボンレンスの体はたちまち膨れ上がりゴムボールのように真ん丸になった。攻撃力こそ低いもののそのゴムのように柔軟な体でケッカの刃を幾度もはじき返した特殊スキル「肉壁」の究極奥義
ピーーーーーーーーーー!!!
「この野郎仲間を呼びやがった」
ボンレンスはゴローキーの死を確信すると自身最高の防御力を誇る技を繰り出し仲間を呼んだ。戦況は圧倒的に不利だが時間を稼ぐことはできる。その算段だった
「GWOO!!」
ゴーレムはボンレンスの腹部を強烈な力で蹴り上げた
パンッという不快な音と共にその体は水風船のように破裂しその残骸が空高く舞い上がった
「信じられねぇなんて強さだ」
そのゴムのような体で何度も刃を阻んだ驚異の防御力を誇るボンレンスがたった一発の蹴りで破裂した。その事実にケッカはあっけにとられ宝石魔人となったカズマを見つめた
ザバッ
シャワーのようにケッカの体に降り注いだのはボンレンスの残骸
「うわ!!気持ち悪っ!」
ずぶ濡れになったケッカが恨みがましい目で顔を上げるとそこにはすでにゴーレムの姿は無かった
「フロイト!!ナギ!!カズマが行ったぞ!敵と間違えるなよ!!」
ケッカは大声で仲間たちに知らせると王女の元へと歩いた。カズマの様子から見て意識が無くなっているには無くなっているが味方を攻撃するほどの暴走ではないと確信を持っていた
それよりも1人の女性を慰めるのが必要だと思った
「王女様・・・・」
王女マチルダの顔は真っ赤に染まっていた
「いやカズマはきっと王女様の声に反応して助けてくれたんだと思いますよ。まさか王女様のキスが肉に負けるなんてことは・・・」
「うるさーーーーーーーーーーーい!!!!!!!!!!!!!!!」
「ワシの勝ちだ。最高の焼き加減だったからな」
フラントは勝ち誇った笑みを浮かべた
座り込み待つ一行の元に再びゴーレムが現れた。その体は返り血で染まり赤く輝く宝石となっていた。そして瞬時にフロイトの前に現れた
「終わったのか!?」
「GWO!GWO!」
「よし今から焼いてやるからまっとれ」
しばらくの後、呆然と立ち尽くす王女の元にフロイトとナギ、それに騎士たちが戻ってきた。皆一様に信じられないものを見た表情だった
「あれはカズマ君なのか?」
フロイトの顔にはいつもの余裕がない
「特殊スキルを持ちの暗殺者二人を瞬殺して去っていった」
「こっちも同じだ。あんな特殊スキルは見たことねぇ、恐ろしいほど強力だ」
「しかしあれは暴走状態だろう?」
「おっ!さすが良くわかったな。けど味方を攻撃しなかったから最悪ってほどの暴走じゃあねえけどな」
「GWO!GWO!」
「ほれカズマまた焼けたぞ」
気が付くとコックが総出でステーキを焼いていた。そしてそれを食べるゴーレムの体は徐々に小さくなっていった
「美味そうだな」
「それよりもカズマ君の体がだんだん元に戻ってる」
「ってかカズマの体、前より細くなってねえか?」
ケッカとフロイトが眺めているカズマに十人衆のナギがズカズカと近づいていく
「カズマ俺にも食わせろ!」
ナギはカズマの元に詰め寄り自分も食べようとしている。カズマが宝石魔人となったことよりも、そして特殊スキル持ちの暗殺者を一蹴したことよりもステーキが重要なようだ。カズマの体はまだ半分ほどゴーレムの体にも関わらずまったく気にしてる様子はない
「しかしナギはあれを見た後によく食べれるね」
「しかもカズマに全くビビってねえ。他の騎士は近寄れないっていうのによ。さすが元Aランク冒険者だな」
ケッカとフロイトは感心したようにナギを見つめた
「断る!」
カズマはほとんど元の姿に戻っていて喋れるようになっていた
「なに!?ふざけんな自分だけバクバク食いやがって!こっちだって戦いの後で腹が減ってんだ」
「カズマ完全に暴走状態から戻ってるな」
「ああ、いつもの彼だ」
「これは僕が国王様から直接もらった肉で・・・ぎゃーーー!!!」
「どうしたの!?」
茫然としていたマチルダがその叫び声で我に返った
「体が千切れるーーー!!!痛すぎるーーーーー!!!!!」
「カズマ!!!?」
カズマが皿を手放しその場にもんどりうち始めた
「あれは・・・・」
戦いに身を置くものであれば必ず経験のある痛み
「王女様あれはレベルアップ痛です。レベルがあがったので体が変化してるんです」
「あれだけの手練れを一度に倒しちまったんですから当たり前ですよ」
その体を改変する時の痛みは一度に多くレベルが上がるほど大きくなるが強くなっている証でもある為、嬉しい痛みでもある
「ギャーーーー!!!!!」
「おう!みんなチャンスだこの隙にこの肉食っちまおうぜ!最高に美味いぞこれ!」
ナギは転げ回っているカズマを押しのけ肉に食らいついている。遠巻きに見ていた騎士たちもその言葉をきっかけに一斉にコックの元に並び始めた
「俺たちも並ぶか」
「そうだね、ちょっとかわいそうだけど」
「僕の肉ギャーーーー!!!グワーーー!!」
「いいんですか?放っておいて」
「レベルアップ痛はどうにもなりません。痛みはそのうち引きますから王女様も一緒に食べませんか?美味そうですよ」
それを聞いた王女は安心したように微笑んだ
「そうですね私もお腹がすきました」
こうして王女マチルダ一行は暗殺団に勝利しそのまま宴会へと突入した
「体が千切れるーーーーーー!!!!」
「「「「我々の勝利に乾杯ーーーーーーーー!!!!」」」」
転げ回るカズマを後目に最高級肉をはじめとした豪華食材と美酒が全員にふるまわれ勝利の余韻を一層盛り上げ、夜遅くまで宴会は続いた
後世にはこう語り継がれている。我を失い暴走した落とし子様が王女のキスで我に返り勝利を収めた。と




