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「この世界でできることが、まだたくさんあるよ」
窓際に陽光が落ちる。
彼は手を伸ばす。生まれたての頬と、彼女の指と、彼の手のひらが重なる。
それが奇跡だと彼女は思う。
「思いもよらなかったびっくりすることがたくさん起こる」
そう、この世界は。
目の前に、あの日まで思いもかけなかった平原がひらけている。地続きの世界とは思えない、広すぎて足元が揺らぐような広大な地平。
「せっかく生まれたんだ。この世界を冒険していこう」
自分が進めるのだろうか。
普通の人とやらが当たり前に充足されていたものにわずかに嫉妬を覚えながら、失ったものと自分が持っているものを確認する。荷物は十分だろうか。足は動くだろうか。
でも、と彼女は思う。
答えは知っている。
何も持っていなくても、これまでの人生を失っていても、世界の言葉を知らなくても。
それでも
それでも私は
「うん」
私は冒険に出かける。
迷いながら、ここで踊ろう。