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その言葉に、少しだけ息をついた。
「生きてる」
確かに生きている。自分と、自分だけではない誰かと、その誰かとの間に生まれた小さな息遣いとともに。
不思議だった、たしかに。奇妙な感覚だった。昨日との連続性を見失うような奇妙さだった。
「不思議。生きてる」
肩を並べた相手が柔らかに鼻で笑った。
「生きてるね、僕たちと一緒だ」
「生まれちゃった」
「生まれちゃったね、この世界に」
「死ぬかもしれないのに」
「誰でもそうだよ、僕も君もね」
彼女の腰に腕が回る。
誰でも死ぬ。そんな簡単なことなのに、なぜ忘れていたんだろう。そんな簡単なことだったのに、なぜこんなに惜しいと感じるのだろう。自分のことなら簡単なのに、なぜこんなに複雑で忘れやすくなったのだろう。何が私の目を曇らせて、何が私のまぶたをこんな光の粒で真っ白にしたのだろう。
今日の陽の暖かさはどこから来ているのだろう。
何が私にこの盃を飲み干したいと感じさせるのだろう。
粘っこい土の匂いや、新芽の芽吹く音や、腰に回されたこの腕の暖かさがこれほどに愛おしいのはなぜだろう。
彼女は柔らかなガーゼケットにくるまれたその小さな皮膚に触れた。
ぷうぷうと小さくつく吐息が、むにゃむにゃと動く唇が、彼に似た頬の丸みが、幸福な一枚の花びらとなって彼女の指に降り注ぐ。