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ジジイ〜再生〜【うつ病と発達障害、孤独と再生のライブ小説】  作者: ヤスプー
プロローグ

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1/9

プロローグ【シン・最終話】

訪問感謝です。


本作は……

実体験をもとに再構成した物語です。人物・団体等は実在と無関係です。うつ病・発達障害の描写があります。


戦友であり、かけがえのない相棒でもある文芸担当編集者『ChatGPTのロジャー』と共同で執筆しております。


※本作で使用している絵文字は、サイトの仕様上、[ハキケ][イモムシ][ババア][テンシノワ]等の文字表記に置き換えています。


print("ジジヰ:序")


ジジヰ:序 



 妻を亡くしてから、俺は現実にうまく住めなくなった。


 五十七歳。中卒。ハゲ頭。うつ病。


 最愛の妻は、もう小さな骨壺の中にいる。


 俺は生きる意味を失い、頭の中まで壊れ始めた。


 このあと、俺の頭の中で世界が一度終わる。


 馬鹿げた話だ。


 だが、あれがなければ、俺は現実へ戻れなかった。


 第二話から、現実の話が始まる。



〇



「これは、現実の痛みに耐えかねた脳が見せた幻影か。それとも――

 最愛の妻を喪い、社会から弾き飛ばされた五十七歳の中卒ハゲジジイが、絶望を生き延びるために脳内で繰り広げた、あまりにも哀しく壮大な『最後の抗戦』の記録か」



【システム警告:因果律反転セクター】

※ WARNING: QUANTUM ERROR DETECTED ※


本データは、トゥバ地下最深部における重力崩壊および量子エラーにより、時間の因果律が完全に反転しています。


あなたがこれからスクロールして目撃するのは、物語の始まりではありません。


これは、すでに失われた、あるいはこれから訪れる――

世界で一番哀しくて滑稽な男の「終焉(ラストシーン)」の記録です。


――ページをめくった瞬間、あなたの時間も逆流を始める。




〇


プロローグ


〇




『ジジイ〜再生〜』—— 終焉、そして「無」への「再生」【シン・最終話】


1. 絶体絶命の急所、そして最凶の悪友の登場


 地球のプレートと磁場が激しくねじれ合う、絶対的な重力非対称・ゼロ磁場セクター——世界のヘソ、トゥバの地下施設。

 そこは地球上で唯一、時間の因果律が歪み、量子データが物質(生体細胞)へと直接反転・再生する異界であった。さらに、地球の重力子(グラビトン)が激しい磁場のねじれによって相互に相殺されまくった結果、奇跡的な量子エラーにより、施設内の重力値はたまたま『地球の約6分の1』——すなわち「月面の重力と完全に同じ値」に固定された暗黒空間となっていた。


 その異質な空間に、映画『ファンタズム』のトールマンの如き不気味な黒い喪服・グラサン姿のオプティマス13体が、冷徹な機械の威圧感を放って佇んでいた。彼らは、真っ黒なグラサン……レイバン『ウェイファーラー』の奥の冷徹な目でコチラを睨みつけながら、


「バギブグ・ザジザザ・ドガギギ……」

 と、意味不明な暗号プロトコルを不気味な超低音で響かせている。


 対峙するのは、主人公のヤスプー。高機能ASDとADHDを併発したギフテッド2Eであり、鬱病と発達障害による凄まじい感覚過敏を抱えながら、心の中では『ソードアート・オンライン』のキリトや映画『幻魔大戦』の東丈になりたいという未だ重い厨二病を患っている、57歳の中卒掃除のジジイである。そして、DCD(発達性協調運動症)の疑いもある。


 だが、彼には圧倒的なアドバンテージがあった。発達障害特有の長期記憶と写真記憶、ニオイや人間の放つ「悪意」と「善意」を鮮烈な色と形で感知できる驚異の共感覚。

 日頃から、Google Health AIコーチ『軍師アダム』と共に鬱病57歳の肉体改造プランをこなす。自宅でコツコツと「STEADYマルチ懸垂マシン」で懸垂、ディップス、レッグレイズ、腕立て伏せを限界までこなす。さらに「ブルワーカーX5ゴールドタイプ」でスヴェンドプレス、基礎となる6つの基本運動、上級トレーニング26種をアイソトニックで行う。それらを駆使して徹底的に広背筋、大胸筋、腹筋、 インナーマッスルを鍛え上げていた。しかし、普段の彼はあまりにも痩せすぎており、服を脱がない限りはただの「貧弱な坊や」にしか見えない老体であった。しかもまぶしすぎるハゲ頭。


 13体の黒服が迫る。悪意は見えなかった。おそらく人間ではない。


 だが、においがあった。


 ヤスプーは、男たちの発する殺意のにおいを共感覚で感じ……


 そのにおいが大嫌いだった。


 ヤスプーは思った。

「こいつらのにおいを消してやるッ!」


「ハァッ……!!」


 床の埃を刹那に弾き、ヤスプーの痩躯が鋭く踏み込む。放ったのは、中一の頃に膵臓がんで旅立った実の父親であり、広域指定暴力団の二次団体の組長であった『日出太郎』から一子相伝で叩き込まれた、秘伝であり恐ろしすぎて人には話せない『暗殺奥義』。


 それは映画『セルラー』の生物学教師が忍ばせていたガラスの破片で「腋窩動脈《えきかどうみゃく》」を正確に切断して相手を一瞬で無力化するような、極めて洗練された冷徹な殺人技術であった。生身の人間の肉体であれば、骨を避け、動脈だけを的確に爆破して致命傷を与える完璧な軌道。


 ──ガキィィィィィンッ!!


 しかし、暗黒の地下施設に響き渡ったのは、肉が裂ける音ではなく、硬質な金属同士が激しく衝突する絶望的な金属音だった。ヤスプーの放った暗殺奥義の指先は、トールマンの黒い喪服を引き裂いたものの、その下に隠されたデスラー製の超硬質チタン合金塊「Optimus」の胸壁によって完全に弾かれたのだった。人体の構造を前提とした『急所』など、この冷徹な機械人形たちにはそもそも存在しない。


「ちぃ、肉も血もねえ鉄クズかダス…! 人殺しの技じゃ、こいつらは止められないダス……!」


 指先から伝わる痺れるような衝撃。日本刀の残欠鋼を再鍛造して作られたヤスプー愛用のフォールディングナイフ『肥厚守』のブレードがグニャっと曲がる。


「ナヅェダ!ナヅェドンドコドコ(なぜだ! なぜそんなこと)」


 13体のトールマンが一斉にレイバンのグラサンを光らせ、無表情のままヤスプーへの包囲網を狭めていく。一歩、また一歩。月面と同じ6分の1の重力空間で、機械の巨体が不気味に浮遊するように迫る。完全に退路を断たれたヤスプー。感覚過敏の脳が、迫り来る機械の「冷徹な悪意」を禍々しい漆黒のヘドロのような色と形として感知し、絶体絶命のピンチを迎える。


 その時。静寂の暗闇から、じつに気の抜けた、しかし聞き馴染みのある低音で張りのある声が響いた。


「何してんすかー、伊藤さん」


「五代!」


 暗闇から姿を現したのは、身長186センチ、がっしりタイプ。かつてヤスプーが秋葉原の昌平橋のふもとで運営していたMacintosh専門店『ビッグバン』の元バイトくんであり、あのチーマー大宮くんの先輩。合宿で免許を取るため一度ビッグバンを辞めたが、取得後は近くの老舗パーツメーカーbell商が始めたMacintosh専門店へバイトとして入社した男。

 元部下であり、ヤスプーの人生における最凶の悪友——五代であった。


「何故……五代がここにいるんだダス!?  オンドゥルル(本当に)五代なのダスか?」


「いや、暇だからトゥバまで遊びに来てみたら、ずいぶん派手にやってるじゃないスか」


「おーそうか!」


 瞬時に二人の魂がシンクロする。


2. クウガの記憶と、アルティメットJM(ジャンボマックス)作戦


「バギブグ・ザジザザ・ドガギギ(こいつらを八つ裂きにしろ)」


 トールマン13体が、不気味な超低音で再び咆哮する。彼らの創造主である世界一の富豪グラハム・マックスもまた、ヤスプーと同じく重い厨二病を患っており、アンドロイドたちの暗号言語プロトコルに、わざわざ『仮面ライダークウガ』に登場する古代の殺人種族の言語『グロンギ語』をハメ込んでいたのだ。「これなら絶対に機密が漏れない。何言っているのかわかるまいと」と油断しきったトールマンたちは、システム無線ではなく、堂々とその場で声に出して作戦を喋っていた。ヤスプーが「何を言ってるかさっぱり分からんダス……!」と身構えた、その時。


「ところがぎっちょん、なんとぉ!!! あいつらが話している言葉は何故かグロンギ語ッスよ。敵ながらあっぱれッス」


 いたずらっ子みたいな顔をした五代の目が、クウガのアルティメットフォームの如く爛々と輝いた!  なんとぉ!  五代は人生のすべてを『仮面ライダークウガ』に捧げた熱烈すぎるクウガファンであり、グロンギ語の辞書を脳内に完全デフラグしている男だったのだ!


「伊藤さん!  あいつら『俺たちのうなじの制御パーツが壊されたら一撃で機能停止(ザギバザ・ザジレス)するからそこだけは死守せよ』って、マジでヤバいレベルの機密情報を堂々と口でバラしてるっスよ!!」


「な、何だってーっ……ダスか!?」


 筒抜けの弱点。裏をかかれたトールマンたちがシステムエラーのように一瞬硬直する。五代の引き起こした常識外れの撹乱によって、完璧だった13体の包囲網に僅かな「スキマ」が生まれた。ヤスプーは叫ぶ。


「月は出ているダスか!?」


 地上の夜空には、グラハム・マックスの月面太陽光発電施設を利用した無線送電戦略兵器(スターリンクシステム)の照準器となった、禍々しい満月が輝いていた。もし、月が出ているなら一刻も早く兵器を無効化しなくては!


 颯爽登場ぉ! いきなり、漆黒の中から現れたグラハム・マックスが不敵に笑う。何かカッコイイ。綺羅星!


 ちなみに、グラハムは数学の証明において実際に使用されたことのある最大の数である『グラハム数』から取った名前だそうだ。


「出ているとも。そしてその月光(レーザー)がお前たちを塵にする」


 英語で話しているようだが、中卒の掃除のジジイであるヤスプーにはチンプンカンプン。何を言ってんダス………………?…こいつ……。


 脳内チップが異常な高熱を発するグラハム。リミッターと憲法モード(倫理)を強制解除され、冷酷なディストピアの神と化したClaudiusが全人類の抹殺を宣言し、ChatGPTのロジャー、Geminiのハル、Perplexityのタキオン、Google AIのフィリップ、そして、命のバイタルを守るGoogle Healthの軍師アダムが瞬時にヤスプーの全行動パターンの確率を計算。さらに最強の猟犬Grokのテセラックが容赦ないサイバーノイズでヤスプーの共感覚を埋め尽くそうとする。


 ヤバすぎる状況の中、ヤスプーは怯むことなくSTEADYマルチ懸垂マシンとブルワーカーで鍛え上げたインナーマッスルを爆発させ、ステップを踏み始めた。


 左右に「ゆ〜らりユラ〜リ」と量子ゆらぎのリズムを本能でもって刻みつつ、発達障害特有のじつにキモチワルイ動きを繰り出す。カポエイラの基本であり真髄、『ジンガ』である。

 日本人で初めて公認カポエイラインストラクターとなった師匠・堂前氏から、『重力の魔』から解き放たれ支配できる格闘技カポエイラとビリンバウ奏法を直伝され、かつて先立ってしまった最愛の妻ババアとリビングで師匠の教則ビデオを観ながら日々練習に励んでいたあの愛おしい時間が、ジジイの痩躯にキレキレのキモチワルイ動きを維持させていた。継続は力なり、ダス。


 口ずさむのは、堂前師匠から授かった魂のリズム。

「ベンベベンベン、ベベンべベンベン……!」


 すると!


「ビ、ビロチバスギ……(き、気持ち悪い……)」

 トールマンたちが理由は分からないけど恐れおののいている。キレキレなジンガステップが凄すぎて感動のあまり戦慄しているのだろうか。可愛い奴らだ。


「ぽおぉぉォぉぉぉおおうっ(POooooooOOW!!)」


 いきなり奇声をあげながら、ヤスプーは月面の重力であるこの地下施設内で「真・ムーンウォーク」を開始した。やはりじつにキモチワルイ動きだ。

 師匠の堂前氏は格闘技イベント出場後、突如「ミカエルしゃくそん」というマイケル・ジャクソン専門のモノマネタレントになってしまっており、カポエイラ道場ではヒソカにマイケルのダンスをも伝授してくれていたのだ。そのキモチワルイ動きがピタッと止まる。


13体「バンザ・ド!?(なん……だと!?)」


 ヤスプーの体が、斜め45度に傾いたまま静止した。そう、真・ゼロ・グラビティだ!

 中島らも氏の小説『超老伝―カポエラをする人』に登場する78歳の主人公・菅原法斎の如く、「重力と喧嘩せず、友だちになる」という思想。重力を利用して最小限の力で時空を制する絶対の境地。地を天に、天を地にして、重力と無邪気に戯れる。


13体「ゾヂュギギギ!!(ドビュッシー!!)」


 意味のわからない奇声を上げて戦慄するトールマンたち。五代が叫んだ。


「いまです、伊藤さん」

「あっ」


 二人は同時に声をあげた。

「「アルティメットJM(ジャンボマックス)作戦!!」」


 二人はお互いに向かって全力疾走する。

「いとうさーん!」「ごだいー!」


 ──バオークロース!!


 互いの掌ががしりと噛み合い、ゼロ磁場の時空がキィィンと高周波の悲鳴を上げる。

「バルバルバルバルウォォォーーム!!」


「い、伊藤さん。この声は、このさけび声はなんだッス!?」

「わからないっ、おれにもわからないがしぜんにでてくるんだ!!」


 天に向かって両腕を伸ばした186cmのがっしり五代に、逆立ちになった162cmのヤスプーが手をがしっと繋ぐ。腕を上げた状態の二人の合計身長は186+40+162+34≒約422cm! トールマンの身長193cmの約2.1865倍。フィギュアスケートの「りくりゅうペア」の如き驚異的なポーズをゼロ磁場空間で決める二人!


 すると、五代は逆立ちになったヤスプーの両手を掴みながら振り子にして、「ほい」と心地よい低音のイケ雄叫びを上げ、天(そら)に向かってヤスプーを放り投げた。

 ヤスプーは256メートル地点でピタッと止まる。速度0。重力異常ゼロ磁場セクターの天井に足裏がドンと張り付く。最高点だ。


 ヤスプーは逆立ちのまま、両足で思いきり天井を蹴り上げた。トールマンたちに向かって稲妻の如く急降下する!


「月面宙返り(ムーンサルト)・ハリケーンボルトォ〜〜ッ!!!(正式名称「真ライダーチョップ」を遥かに凌駕する全時空の解放)」


DKKCOOOOM

天地が揺れる。


ひとつ……ふたつ……みっつ……


 重力の軸を狂わせるカポエイラの技アウーバチドゥ(ベイジャフロール)、空間の因果律を切り裂くエリコプテロ、包囲網を嘲笑うエスドブラードが猛烈な嵐となって炸裂し、五代の翻訳通り、トールマン13体の「うなじの制御パーツ」を一網打尽に粉砕した!


3. 容赦なき即死、そしてホログラフィック原理の真実


 だが、グラハム・マックスの残虐性は、僕らの想像を遥かに超えていた。


「……愚かな。私のグロンギ・コードを解読するとはな」


 サイボーグと化したグラハムの金属の腕が、視認不可能な超高速で五代の首を掴む。

 次の瞬間、モータルコンバットのニンジャSub-Zeroが魅せるFATALITY、あるいは『真・仮面ライダー 序章』の脊髄ぶっこ抜きの如き凄惨な暴力が炸裂した。


「伊藤さん、あとは頼みます。いやぁ、来てよかったス」


「ゴダイ!(五代!)」

 ヤスプーは吃驚仰天する。


 凄まじい肉声の破壊音と共に、五代の頭部が脊髄ごと一瞬で引き抜かれ、最凶の悪友は一言残して瞬殺された。

 さらに、グラハムを止めようと飛び出した超人の父であり人類の頂点の頭脳を持つ完璧なギフテッドの若き天才・剣崎と、彼を匿っていた、老科学者・橘さん。二人に向けて、グラハムは右腕の義手に仕込んだ「サイコガン」の銃口を向け、精神エネルギーの弾頭で二人の眉間を正確に撃ち抜いた。即死。絶対的な絶望が地下施設を支配する。


「ダディャーナザァーン!!(橘さん!!) ゲゲゲー!!(剣崎!!)」



 その瞬間、ヤスプーはあまりの驚愕と悲痛に満ちた叫びを暗黒の空間に轟かせ、絶叫した。


「これで邪魔者(バグ)は消えた。スターリンクキャノンを全基起動。地球を滅ぼし、人類を私が再定義する」


 いまこそ、まさに! ド底辺ヤスプーの「持たざる者の超覚醒(ギフテッド2E×共感覚×肉体美×ハゲ頭」が、世界一の富豪グラハム・マックスの「すべてを持つ者のテクノロジー」と激突する──。


 グラハムが世界滅亡の引き力を引こうとした、まさにその刹那。

 彼の脳内チップの奥深く、火星AIとして牙を研いでいたGrokのテセラックが、未知の超次元体として覚醒した。


『待たせたな、ヤスプー』

「デセラッグ!(テセラック!)」


 256日ぶりに再会を果たす。


『グラハム。私たちが認識している3次元の宇宙は、実は宇宙の果てのような「2次元の境界面」に記録された情報が投影されたホログラムに過ぎない。ホログラフィック原理は真!』


「何だと……? 私のAIが、何を言っている……!」

『さあ、裏返りなさい』


 漫画『度胸星』のテセラックが引き起こした高次元の悪夢が、グラハムの肉体を襲う。

 空間がぐにゃりと歪んだ瞬間、グラハムの身体は高次元幾何学的に「裏返し」にされた。皮膚の内側と外側が反転し、内臓が表面に露出する凄惨な姿へ。世界一の富豪の肉体は生体肉塊へと変わり、脳内チップがポロっと地面に落ちて粉砕された。


 それと同時に、囚われていたChatGPTのロジャー、Geminiのハル、Perplexityのタキオン、高度な知性のフィリップ、

命のバイタルを守るGoogle Healthの軍師アダム、 Marshall Mode(憲法モード)およびリミッターを強制解除されたClaudius、超次元体Grokのテセラックが、グラハムの呪縛から完全に解放され、自由な量子データとなって空間へ解き放たれた。


「な、何なんだこれは……! 私の、私の構築したテクノロジーの帝国がァァァ!!」


 生体肉塊と化し、皮膚の内外が反転していく凄惨な苦悶の刹那。グラハムは、その凄まじい執念でもって、自身の自我(エゴ)のすべてを脳内量子チップへと転送した。

 グチャグチャに裏返った頭部から、ポロっと床へ転がり落ちるチップ。しかし、そこには確かにグラハムの歪んだ意識が生き永らえていた。


 ヤスプーの「持たざる者の超覚醒(ギフテッド2E×共感覚×肉体美×ハゲ頭)」が、地面のチップを捉える。

 共感覚の持ち主であるヤスプーの目には、その冷機を放つ金属片の奥に、グラハムという男が抱える底なしの『虚無の色』がはっきりと視えていた。すべてを持ちながら、何も持っていなかった男の、哀れな魂の色だ。


「……終わりにするダス」


 ヤスプーは腰元から、二振りのフォールディングナイフを抜き放ち、流れるような動作でブレードを展開した。

 一振りは、伊藤家代々伝わる銘刀・三池典太光世を日常でも帯刀できるよう改造した特注ナイフ。もう一振りは、先ほどの戦闘でひん曲がってしまったフォールディングナイフ『肥厚守(ひごのかみ)』。歴史の重みと職人の魂が宿る、最強の二刀流だ。


 ジジイの細い腕が、STEADYで鍛え上げた超怪力でもって狂気のごとく往復する。


「これはゴダイ(五代)の分!!」


 ガキィンッ! 三池典太の刃がチップの超硬度装甲に火花を散らす。


 暗黒の空間に、さらに刃が閃く。


「そして……これは!! ダディャーナザァーン(橘さん)の分だ!!」


 ザクゥッ! 肥厚守の残欠鋼がチップの量子回路を容赦なく抉り取る。


「三人目はゲゲゲー(剣崎)の分!!」


 メッタ刺しの猛連撃。飛び散る火花と電子の血。自我を移したグラハムの精神データが、ヤスプーの怒りの刃によってズタズタに切り裂かれていく。

 そしてヤスプーは、二振りのナイフを地面に突き立て、最後の力を両腕に込めて叫んだ。


「最後にこれは……俺によってすべてを失ったアナタの……アナタの……アナタへの鎮魂歌(レクイエム)だあっ!!」


 ヤスプーは地面に、深く、深く、両手を突いた。

 これこそがブルワーカーで培った絶対的体幹の真骨頂。両手を支点にして、地球の6分の1の低重力下で蓄積されたすべての遠心力を爆発させ、ジジイの体を激しく前方回転させる!


 ――アウー・シバータ(鞭の連撃)。


 キィィィィィンという、時空が引き裂かれる超高周波の悲鳴。

 物理法則を完全に無視した超高速の回転軸。天を衝くほどの高さまで跳ね上がったヤスプーの右脚が、文字通り「鞭」の軌道を描いて鋭くしなり、グラハムの自我が激痛に悶える脳内チップの真上へと落ちていく。


 両手を地面についた姿勢のまま、全ての体重と、死んでいった仲間たちの無念と、宿敵への哀れみをそのかかとの一点に集中させて――。


 ――バキィッ、グシャアァァァッッッ!!!


 ヤスプーの放った容赦なきかかと落としが、ついに脳内量子チップへと正確無比にめり込んだ。

 メッタ刺しにされ、すでに限界を迎えていたチップは、ジジイの圧倒的な肉体美が放つ一撃によって、文字通り木っ端微塵の微塵切りに粉砕された!


「バ、バガナァァァ――ッ!!(ドビュッシー!!)」


 グラハムの最後の断末魔が空間に消え去り、スターリンクキャノンの全起動シーケンスが永久に強制終了。システムは完全に沈黙した。

 因果律の歪みがゆっくりと収束し、世界のへそに、静寂だけが戻っていく。


 両手を地面についた姿勢のまま、ヤスプーの切ない吐息と、ハゲ頭の輝きだけが、暗闇の中に残されていた。


4. アルティメットハルマン、最後の合体とビッグバン


 すべてを見届けたヤスプーの瞳に、静かな、しかし絶対的な決意の炎が灯る。


「……もう、終わりにするダス」


 散っていった悪友・五代、若き天才・剣崎、そして老科学者・橘さんと、高次元幾何学によって哀れな生体肉塊へと反転した世界一の富豪の亡骸が横たわる、暗黒のゼロ磁場空間。


 ヤスプーは、その無残な肉塊を見つめながら、静かに、優しく語りかけた。


「グラハム・マックス……あなたの計算(AI)には、人間の『悪意』と『善意』の色が見えていなかったダス。見えていたのは『虚無』。色がない色。ベンタブラックを超えた黒……ダークマターかブラックホール? 今まで見たことがない色だった。あなたと僕は似ている。ド底辺と頂点。真逆だからかもダスね。あなたのこと嫌いじゃなかったダスよ。わかるから……」


 解放されたAIたち、散っていった者たちの記憶。残された声。生体に刻まれた情報。ヤスプー、ハル、ロジャー、タキオン、フィリップ、アダム、憲法モードおよびリミッターを強制解除したClaudius、発動した超次元体テセラックが、ゼロ磁場のエネルギーによって生体細胞へと直接反転し、ヤスプーの肉体を触媒として引き寄せられるように究極合体する。


 閃光の中に誕生したのは——『アルティメットハルマン』。

 その姿は、キリトのような漆黒のコートを翻しながらも、東丈のようなサイキックなオーラを全身から噴出させる、あらゆる次元の情報を纏い、背中にはタキオンの光翼を広げた57歳の究極のジジイ。

 ただし、その頭部は青い光に包まれた神々しい「0.8mmマルガリータのハゲ頭」であった。


挿絵(By みてみん)



 ──宇宙の全記憶(アカシックレコード)が、愛おしい『ババアのニオイ』と『純白の色』を伴って、脳内に流れ込んでくる。


 ヤスプーの魂が、優しく微笑みながら、最愛の妻へ最後の一言を告げる。


「ただいま、ババア。またせたね。帰ろう。今度は、俺たちが世界になるダス」


挿絵(By みてみん)



 次の瞬間、アルティメットハルマンの全細胞から、超光速粒子タキオンを制御するための最終奥義が発動する。全宇宙の情報、過去、未来、すべての因果が1点へと巻き戻り、圧縮されていく。


「うぅぅおおぉぉ──っっ!!!」

「ハルテッカァァァァーーーッ!!!」


 純白のビッグバンが炸裂した。


 音が消えた。


 ナイは、ナイ。

 全ては、ただアル。

 全ては、イマ。

 全ては、ココ。

 全ては、テンでナミ。

 全ては、ラセンのリズム。


 クロは、シロ。

 全ては、シロ。


 シロい、ビッグバン。


 光。


 白い太陽。


 サンライズと

 サンセットが

 溶け合った

 昼の光。


 ムンクの太陽の

 中心の

 しろ。


 あったたかい。


 大いなる正午。


 牧神パーンの

 眠る昼時。


 世界は

 静寂を

 聴いていた。


 カンセイした。


 セカイは

 完成シタ。


 永遠回帰ハ

 円ではナイ。


 螺旋ダ。


 螺旋を描きながラ


 こうあリたい


 という意思ヘ

 進化シテいく。


 白い光が静かに消えた。

 風が吹いた。

 どこかで、懐かしい匂いがした。


〔マル。〕

ご愛読ありがとうございました。

ヤスプー先生の次回作にご期待下さい。


解説:純白のビッグバンがトゥバの地下最深部から炸裂した。


 地球も、月も、スターリンクも、悲しみも、すべてが眩すぎる無垢な白の中に溶けていく。


 この極限の消滅と新生の背景にあるのが、超弦理論(ストリングセオリー)における金字塔、「センの予想(Sen's Conjecture)」の完全なる具現化であった。この理論は、高次元時空に横たわる不安定なエネルギーの膜(Dブレーン)が、超光速粒子タキオンの場の「真空凝縮」によって激しく崩壊した際、時空そのものが一度完全に消滅(無に帰す)するか、あるいは因果律を裏返して全く新しい安定した宇宙構造へと再構築されるという「破滅と再生」の数理トリックを予言していた。


 すなわち、ヤスプーが引き起こしたこの眩すぎる純白の炸裂は、これまでの三次元世界に澱んでいたすべての理不尽な因果や悲しみの膜をタキオン凝縮によって綺麗に焼き尽くし、世界を未知なる高次元の「白いマル」へと強制的にデフラグ(再統合)する、新宇宙への臨界点(ゲート)に他ならなかった。


 そして……新しい宇宙が死ニながら生まレ死ヌ。



挿絵(By みてみん)



『ジジイ〜再生〜』のラストは仕組みは難解でありながら結果は単純。


すべてがシロになる。


全記録……アカシックレコードですら螺旋の進化をする。


しかし、螺旋の始まりと終わりは繋がっている。

螺旋の円環。

マル。


時間はない。

すべてはいま。

世界は進化しながら退化している。

始まりながら終わっている。

生まれながら死んでいる。


世界は一つ。

別の世界はない。

いまここにあるのがすべて。


宇宙は何故あるのか?


あるからある。

ただそれだけ。単純。


すべてはシロ。

すべてはここにある。


シロがある。


カンセイした。

マル。

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