米軍二等兵、転生する
「……ADMS?」
漆黒の、でもどこか血のように紅い機体。
だが、そのシルエットは既存のADMSとは異なっていた。
細身でありながら異様に発達した四肢。
全身を纏う漆黒の装甲に赤いライン。
頭部には、人間の目を思わせる赤いツインアイセンサーが妖しく光っている。
その右手に握られているのは、巨大な刃を持つ大剣。
刃先から赤黒い液体がしたたり落ちる、たった今切り裂いた《グヴェン》の冷却液だ。
『なっ、なんだあの機体?』
マーカスの声からも、いつもの軽さが消えていた。
『敵の新型か?』
仲間が動揺する中、ブラッドはセンサーで確認するも、
[所属不明、識別信号なし、機種照合――該当なし]
モニターに大きく《UNKNOWN》の文字が浮かび上がる。
――嫌な感じする。
『HQよりハウンド隊!未確認機の該当データは存在しない、交戦をさけろ!』
「了解!…言われなくれも――」
その瞬間。
「――ッ!?」
紅黒い未確認機が消えた。
いや違う!消えたんじゃない!目に見えない速さで移動したんだ!
直後――。
ズバァァァァン!!!
「な!?」
近くにいた《グヴェン》の頭部が宙に舞った。
続けて、もう1機、2機、3機。
黒い機体が市街地を駆け抜けるたび、《グヴェン》が次々と切り刻まれていく。
敵部隊も困惑しているようだ。
無数のライフル弾が未確認機へと集中砲火する。が、
『うそだろ、おい』
『《《全部よけてやがる》》』
左右へ身体を振る。
ビルの壁を蹴る。
着地と同時に加速する。
人間ですら不可能な挙動を、10mの鋼鉄の巨人が平然と目の前で行っていて、そのたびに《グヴェン》一機ずつ沈黙していく。
爆散、爆散、爆散、また爆散。
そして、
全ての《グヴェン》がスクラップと化し、敵部隊は全滅した。
『なぁ、一応聞くが、《《あれ》》、援軍じゃないよな?』
「……違うな…」
『あ?』
「アイツ……敵味方関係なく襲ってやがる」
その時、紅黒い未確認機の頭部――赤いセンサーがこちらに向いた。
『く、来る!』
『散開!!』
ハウンド隊が一斉に動く前に、
ドンッ!!
未確認機が地面を蹴り、こちらに接近してきた。
『クソッタレが!!!!』
5の《ハウンドドッグ》が未確認機に向けてアサルトライフルを連射。
が、ヤツは弾丸の雨を左右に回避しながら5の機体に接近し、
ズバァン!!
大剣の一閃が、《ハウンドドッグ》の右腕を肩から切り裂いていく。
『うわぁぁぁぁ!!!』
『5!!』
『ぶッ無事です少尉!!機体はまだ動きます!!』
「クソが!!」
ブラッドがライフルを連射、が、未確認機は横へ跳躍。全弾回避した。
「マジ……かよ…」
着地した瞬間には、もう次の動作へ移行している。
―――明らかにスペックが違う。
《グヴェン》とは比較にならない――いや―。
米軍ADMSの超高性能の最新鋭機である《ハウンドドッグ》とすら、ヤツに比べたら赤子同然だ。
『HQよりハウンド隊全機へ!!作戦中止!!全機撤退せよ!!』
『聞いたな!!ここから離脱する!!5号機を援護しろ!!』
「了解!」
残存するハウンド隊がライフルを連射しながら後退していく。
だが奴は一刻とこちらに接近している、このままじゃ後退しきれない。
「マーカス、お前もいけ!!」
『はぁ!?お前はどうすんだよ!?』
「皆が後退するまで足止めする!!」
『バカじゃねぇのか!?死ぬぞ!!』
「いいから行け!!童貞のまま死にたくねぇんだろ!!」
『―――ッ!』
「だったら生きて、女抱いてこい!!」
こんな状況なのに、一瞬だけ通信回線が静かになった。
『……絶対に帰って来いよ、じゃなきゃ、お前の墓にションベンぶちまけてやるからな』
何故だろう、こんな命の危機がヤバい状況なのに、どことなく笑みがこぼれてきた。
「お前の汚ねぇションベンなんて御免だね……さっさと行け!!」
『……了解』
マーカスの8号機が背を向け、残るハウンド隊も負傷した5号機を援護しながら撤退していった。
ブラッドはそれを確認すると――。
「…さて、と!?」
振り向いた瞬間、未確認機が自分の目の前まで来ていた。
「やっべ!!」
反射的に操縦桿を左へ倒し、フットペダルを思いっきり踏む。
その直後――。
ズバァァァァ!!!
「ぐぅっ!!」
凄まじい衝撃がコックピットブロックを襲う。
未確認機の大剣が《ハウンドドッグ》の胸部装甲を掠め、分厚い装甲板が紙切れのように引き裂かれた。
警告音がけたたましく鳴り響く。
《WARNING》《WARNING》
《CHEST ARMOR DAMAGED》
「クソ!一発掠っただけでこれかよ……!」
ブラッドは機体を後退させながらアサルトライフルを射撃する。
ダダダダダダッ!!!
だが――まったくもって当たらない。
未確認機は左右へ高速に回避しながら銃弾を交わし、一気に間合いを詰めてくる。
再び大剣が振り下ろされる。
「ヤベ!!」
ブラッドはライフルを盾がわりに掲げる。
ガギィィィィンン!!!
金属同士が激突する轟音が鳴り響く。
次の瞬間、大型アサルトライフルが真っ二つに両断された。
「ちっ、たかが銃をやられただけで!!」
即座に左脇のウェポンラックから2本目のアーミーナイフと腰に装備してあったマチェットの2本を取り出す。
ガキィィィンン!!
大剣対ナイフ&マチェット
三つの刃が激突する。
火花が夜の市街地に飛び散る。
ブラッドは歯を食いしばりながら操縦桿を強く握りしめる。
「うぉぉぉぉ!!!!」
ハウンドドッグが未確認機を押し返す。
その時、ほんの一瞬——敵の体制が崩れた。
「そこだ!!」
鋼鉄の右脚蹴りが未確認機の腹部へと行く——そう思った。
「なっ!?」
未確認機の脚から伸びるハンドアームが《ハウンドドッグ》の右脚を受けて止めていた。
「そんなんありかよ!!」
ブラッドがそう叫んだ後、未確認機の脚部ハンドアームが右脚を掴んだまま捻りを上げる。
「ぐぅっ!?」
巨大が宙に浮き、そのまま——
ズドォォォォン!!!
「がはっ!!」
《ハウンドドッグ》が背中から地面へ叩きつけられた。
アスファルトが陥没し、衝撃でブラッドの身体がシートへと叩きつけられる。
視界が一瞬だけ白く染まる。
幸いパイロットスーツを着ていたから意思をたもっていられた。
「ぐっ、まだだよっ」
ブラッドは即座に機体を起こす。
(まだ終わってねぇ。終わらせるな。終わるってたまるかってんだちくしょう!!)
自分に言い聞かせるように、歯を食いしばる。
未確認機が大剣を振り下ろす——その直後にブラッドは左腕のマチェットを投擲した。
未確認機が首を傾けるような最小限の動きで回避する。
だが――。
「そっちは囮だよ!!」
投げたマチェットの陰から《ハウンドドッグ》が飛び出した。
アーミーナイフを逆手に握り、その切っ先を未確認機の頭部へ突き立てる。
ガギィィィン!!
『――――!!』
初めてだった、未確認機が明確に後退した。
赤いツインアイの片方に傷が走り、火花が飛び散る。
ブラッドは口元を吊り上げた。
「どうした? ちゃんと当たるじゃねぇか」
未確認機が停止する。
まるで――目の前の人間を初めて“敵”として認識したかのように。
ブラッドの胸の奥に、奇妙な高揚と同時に、もっと別の感情が混ざる。
(今さらだよな。俺、ずっとこういうのしかやってねぇ)
「機体性能じゃテメェの圧勝だろうけどよ……」
荒い呼吸の中で、ふと頭をよぎる。
(もし、これが戦場じゃなかったら)
(俺、何してたんだろうな)
「操縦士まで負けたつもりはねぇぞ」
その言葉を吐きながら、自分で少しだけ笑ってしまう。
(……負けてねぇって言い張るしかねぇんだよな、こういう時って)
未確認機の赤いラインが、さらに強烈な光を放ち始めた。
「……なんだ?」
機体から白い蒸気のようなものが噴き出す。
センサーに表示されていた未確認機の熱量が急上昇。
肩アーマーが展開していき、首からは、
(?…マフラー?)
マフラーにも似た紐状のものが2本飛び出してきた。
《WARNING》《WARNING》
《UNKNOWN ENERGY REACTION》
「くっ、まだ何か隠してやがったのかよ……!」
ドンッ!!!
「――ッ!?」
速い、さっきまでとは比較にならないだ。
ブラッドが反応した時には、未確認機は眼前にいた。
(……ああ……これぎ《《格の違い》》ってやつか)
咄嗟にアーミーナイフを構える。
だが――。
ズバァァァン!!!
「――がっ!?」
《ハウンドドッグ》の左腕が肩から切断され、アーミーナイフごと巨大な腕が宙を舞う。
『LEFT ARM LOST』
「まだぁだぁ!!」
叫びながらも、心のどこかが冷静に言う。
(まだやるのか、俺……ここまでボロボロで…々)
残った右腕を振り上げる。
だが、その拳が届くより早く未確認機が旋回。
大剣が横薙ぎに振るわれた。
ズバァァァァン!!!
今度は右腕。
両腕を失った《ハウンドドッグ》が大きくよろめく。
「クッソ……!」
――勝てない。
ブラッドはここで初めて、それを《《感情ではなく事実として》》認めた。
(ああ、そうか………俺、ずっとこういうの《《誤魔化して》》生きてきたんだな)
技量の問題ではない。
《《性能》》
そのすべてが違いすぎる。
同じADMSというカテゴリーに入れていいのかすら怪しい。
だが――。
「……十分だ」
ブラッドの視線がレーダーへ向く。
青い光点が遠ざかっている。
ハウンド1
ハウンド2。
ハウンド3。
ハウンド4。
損傷したハウンド5。
ハウンド6。
そして――ハウンド8
全員、生きている。
(……生きてる、か)
その瞬間、胸の奥が少しだけ軽くなる。
「へっ……」
思わず笑った。
「逃げ切ったじゃねぇか……」
(俺がここにいる意味、これでいいのかもしれねぇな)
そして、再び大剣が振るわれ、《ハウンドドッグ》の両脚が切り落とされ、巨大は地面に崩れ落ちる。
「ぐはぁ!!」
強烈な衝撃を受けたブラッド。
頭から大量の出血を出したその時——頭の中に過去の映像がよぎった。
子供の頃の過去の記憶だ。
(人間は死ぬ前に、過去の走馬灯が走るっつうけど……その通りだったな……)
(ガキの頃に……ダッドとマムを戦場で失って戦災孤児になって………ずっとひとりぼっちだった……)
孤児院や学校では同じ子供達やシスター、先生からさえも花摘み者扱い……どこにも……居場所なんて呼べる場所なんてなかった……
『……ラッド……ブラッド!!!』
通信回線に微かに声が聞こえた、マーカスの声だ。
『待ってろブラッド!!今助けに行くからな!!』
『待てハウンド8!お前まで死ぬ気か!?』
『うるせぇ!!ブラッドを……親友を置いて逃れるかよ!!」
………あぁぁ、そうだ……居場所なら、とっくにもうあったじゃねぇか。
軍学校からのマブダチのマーカスに、他のハウンド隊の皆んな……厳しくて厳しくて厳しかったけど、誰よりも仲間思いはクルーガー少尉。
ブラッドとっての家族は、もうそこにあった。
(……あぁぁ、もう十分だ……大切な家族を守れて……幸せだ……もうなんもいらねぇ……)
………………あぁぁ、でもやっぱり……
(もしうまれ変わったら……次はもっと違う生き方をしてみてぇな……)
優しい両親の元に生まれて……また学校に通って友達作って……彼女作って、そしてSEXやりまくってそのまま結婚したい……あっ、そういえば……
「俺も……童貞だったじゃねぇか」
その刹那、未確認機の大剣が振り下ろされ、ブラッドの機体を一刀両断し、
ドカァァァァァンン!!!
爆散した。
この時間、午前2時13分。
米軍陸軍 フレイムヘルADMS小隊 ハウンド隊所属 ブラッド・ライアン二等兵 享年20歳。
彼の20年に渡る生涯は………幕を下ろした。
――――――。
――――。
――。
◇
——はずだった。
「オギャァ!!オギャァ!!!」
「おめでとうございます!!元気な男の子ですよ!!」
(………はっ?……)
次にブラッドが聞いたものは、砲声でも、銃声でもましてや警告音でもない。
《《赤ん坊の産声だった》》。
(……俺が……泣いてるのか?……)
ブラッドは困惑した、確かに自分は死んだ。
あの紅黒い化け物みたいなADMSに機体ごと一刀両断されて、爆炎に飲み込まれて死んだのだ。
なのに……
「オギャァ!!オギャァ!!」
声が出ない……代わりに出るのは、赤ん坊の鳴き声だった。
「神崎さん!おめでとうございます!無事生まれましたよ!」
神崎、日本の苗字だ、というかさっきから聞こえるのは、
(日本語……だよな?……)
困惑しているのに、なぜか意味だけは分かる
ぼやけた視界の向こうに白衣を着た人影が見えた。
そして——誰かに抱き抱えられた。
「……会いたかった……」
女の……それも多分自分より若い女の声。
見上げると、銀髪の美女(爆乳)が泣いていた。
だが、それは悲しいからじゃない、感動のあまりの涙だ。
「生まれてきてくれて……ありがとう…」
(?……誰だ?……)
汗で髪を額に張りつかせ、疲れ切った顔で、それでも幸せそうに自分を見つめていた。
その隣から、今度はメガネをかけた小柄で童顔の男が覗き込んでくる。
「すごい……ちっちゃい……」
「ふふ……当たり前でしょ、赤ちゃんなんだから……」
男は目元を拭うと満面の笑みを浮かべた。
「僕たちの子供なんだよね」
(………… What's?いまなんつった?…)
その時、ブラッドはようやく気づいた。
自分の手が小さい、いや、手だけじゃない、脚も、顔も……自分の自慢だったチ◯ポコも……
(……まさか……)
死ぬ前に自分は願った。
——もし生まれ変われるなら、次はもっと違う人生を生きてみたい。
(……嘘だろ……本当に?……)
この日、午前2時13分分、ブラッド・ライアン二等兵は日本人の赤ん坊として生まれ変わったのだった。
「オギャァ!オギャァ!」
「よしよし、はじめまして♡」
「僕たちがパパとママだよ♡」
(……… unbelievable……)




