米軍二等兵、出撃する
ADMS【アダマス】
それは、2058年に開発された10m前後の鉄の棺桶➖もとい、人型機動兵器。
正式名称 ArmoreD Mobile System
二足歩行による高い機動性と戦車をも凌ぐ圧倒的な火力。
さらに歩兵では扱えない重火器を携行できるADMSは、瞬く間に世界各国の軍事力の主力となっていった。
そして、戦争のあり方を瞬く間に変えていった。
かつて戦場を支配した戦車や戦闘機などの兵器は今や過去の遺物。
代わりに巨大な鋼鉄の巨人が戦場を駆けていた。
それは、西暦2123年になって尚、日本以外の全国の戦場でも変わらなかった。
◇
『……SEXしたいぜ』
…………………………………
『あぁぁぁ、もうめっちゃSEXしたい、ポンコチンが爆発しそうだぜ』
…………?…コイツ、今から生死を分つかもしれない戦場に行くってのに、何言ってやがるんだ?っと、
ブラッド・ライアン米軍二等兵は輸送航空機の格納庫、陸軍の主力ADMS GM-91のコックピットで同じ機体にのる仲間の黒人兵士マーカス・ラーリーが突然狂言を言い放ったことに呆れと戸惑いを隠さないでいた。
「……マーカス、おまえとうとう、シコりすぎで頭がイカれちまったか?」
『おいブラッド、人をオナニー猿みたいに言ってるんじゃねぇよ、至って正常だ』
「だったらもうちょい緊張感を持てよ、出撃前にいうセリフじゃねぇだろ」
『出撃前だからこそだろうよ、死ぬ前に最高にエロい女とヤって何もかもスッキリしてから死にてぇって思わねぇのか?』
「知るかアホ」
ブラッドは面倒くさそうに毒を吐き捨てる。
すると通信越しに、別の隊員たちの高笑いが聞こえてきた。
『ブハハハハ!!マーカス、お前それ昨日も同じこと言ってたじゃねぇかよ!!』
『せいぜい頑張って生き延びろよ、基地に帰ったら右手の恋人が待ってんだからよ」
『黙りやがれ、俺は今日生き残ったら今度こそ女抱くんだよ!』
『まぁ頑張れよ、童貞君よ』
クソ程くだらない会話が通信回線を飛び交う。
これから戦場に行く兵士の台詞とは思えない。
だが……これでいい…これがいいのだ。
死ぬかもしれないからこそ、こうしてくだらない話をする。
恐怖心を紛らわせるために笑うことが、今の彼らにできる唯一の現実逃避なのだ。
だが、そんな逃避もつかの間、
――ビーッ!ビーッ!ビーッ!
けたたましい警告音がコックピットに鳴り響くと同時に、モニターに赤い文字が表示された。
《COMBAT AREA APPROACHING》
その音声ガイダンスを聞いた途端、それまで笑っていたマーカスの表情が一変した。
「ハァ~、とうとう来ちまったか」
「だな」
ブラッドも操縦桿を握り直す。
さっきまでの気の抜けた少年のよう顔ではなく――幾度となく戦場を生き抜いてきた兵士の顔になる。
『ハウンド隊、こちらHQ。作戦内容を再確認する』
隊長である、ジェイク・クルーガー少尉の声が通信回線で響く。
『現在、敵武装勢力がアル=ハディード市東部を占拠。確認されている敵ADMSは十二機以上。ハウンド隊は市街地へ突入し、友軍歩兵部隊の進路を確保せよ』
敵は十二機、こちらは八機。数だけ見れば不利なのは明白だ。
だが、ブラッドはまるで気にしていなかった。
『ハウンド2了解』
『ハウンド3了解』
『ハウンド4了解』
『ハウンド5了解』
『ハウンド6了解』
「ハウンド7了解」
最後に通信機へ顔を近づけたのはマーカスだった。
『ハウンド8了解、生きて帰ったら絶対に女抱く』
『まだ言うかテメェ!!』
通信回線から再び笑い声が飛び交い、ブラッドも思わず、吹いてしまう。
『無駄口はそこまでにしろ…』
クルーガーのその一言に隊全員が黙り始める。
そして、輸送機後部の巨大なハッチが展開していく。
轟音、吹き荒れる熱風、上空より下に広がるのは、黒煙に覆われた市街地。
倒壊したビルに、炎上する車両。
道路には巨大な砲弾痕が刻まれ、その間を友軍の歩兵部隊の兵士たちが走り回っている
そして――。
『敵ADMS確認!』
レーダーに複数の赤い光点が灯った。
ブラッドの目つきが鋭くなる。
「ブラッド」
「あぁ」
二人の声から軽さが消える。
機体各部のグラップルロックが解除される。
漆黒の銃身を持つ大型アサルトライフルを巨大な鋼鉄の腕が握りしめる。
『ハウンド1より全機――降下開始!』
クルーガーの1号機が輸送機から飛び出していく。
ブラッドの7号機が発艦され、マーカスの8号機が輸送機から飛び出す。
重力に引かれ、10mを超える鋼鉄の巨体が戦場に落下していく。
ブラッドは操縦桿を握りしめた。
落下していくことに恐怖心はない、怖いのは、落下の際に地上から狙撃されることだ。
ブラッドは狙撃されないことを祈りながら地上へと身を任せる。
そして、ついにバックパック装備のパラシュートが展開され、ゆっくりと地上へと落ちていく。
が、ズドォォォ!!っと地上からの砲撃が、降下中のハウンド隊のすぐ脇を通過した。
「おい!!マジか!」
爆風に揺られ、夜間作戦用の黒の迷彩使用の巨体が大きく揺れる。
ブラッドはとっさにフットペダルを踏み込み、姿勢制御用スラスターを噴射した。
『対空砲火だ!全機、回避運動!』
クルーガーの怒号が響いた――次の瞬間、地上から無数の曳光弾が夜空へと伸びてきた。
『うぉぉぉぉ!?こんなんアリか!?』
「戦場じゃ予想外なんて当たり前だろうが!」
ブラッドは操縦桿を倒す。
機体が降下軌道を変えた直後、自分がいた空間を機関砲弾が駆け抜けた。
一発でもパラシュートに当たれば終わりだ。
高度、300,200,100――。
『全機、切り離せ!!』
クルーガーの合図とともにブラッドとマーカスを含めた《ハウンドドッグ》のバックパックが切り離され、10mを超える鋼鉄の巨体が一気に落下する。
『衝撃に備えろ』
直後、ズズゥゥゥン!!
GM-91の両足がアスファルトを粉砕し、両足の制御系スラスターがパージされる。
凄まじい衝撃がコックピットを襲い、隊員全員の身体がシートへと押しつけられる。
『ぐっ……!』
「…とりあえず第一関門突破だな」
ブラッドは操縦桿の強く握りしめ直し、フットペダルを押し、機体を前進させる。
レーダーには敵のADMSであるソ連製の旧式であるTkー67が12機の反応。
数は……35機!?
『おいおいおい!!!こんな数聞いてねぇよ!?』
『どうなってやがる!?12機のはずじゃ!?』
通信回線を通して隊員たちの動揺した声が飛び交う。
「おそらくだが、廃ビルか地下施設に機体を隠して、エンジンも落としてたんだろうよ、だから上空からじゃ12機しか確認できなかったんだ」
『つまり…』
マーカスが息をのむ。
「あの12機は囮だ。最初から俺たちを市街地まで誘導するつもりだったんだよ」
『FUCK!文字通りハメられたってことかよ!』
35機対8機。単純計算でも1機につき4機以上を相手にしなければならないということだ。
しかも、ここは敵の支配地域、地の利まで向こうにある。
『どうする?撤退するか?』
怖気づいたマーカスがブラッドに問いかける。
「向こうさんは、すんなり逃がしちゃくれないだろ、やるしかねぇ覚悟決めろ」
『クソッタレ!』
マーカスが悪態を吐いた、その直後。
同時にレーダー上の赤い反応が一斉に動き始めた。
崩れかけたビルの陰から次々とTk-67が姿を現し、その手に握られたアサルトライフルの銃口が、一斉にハウンド隊に向けられる。
『全機散開!!!』
ダダダダダダダダダッ!!!!
無数の銃弾が飛来する。
ブラッドはフットペダルを踏み込み、機体を横に急加速させる。
直後、それまで立っていた場所に大量の弾丸が降り注ぎ、アスファルトが次々と弾け飛んだ。
『ハウンド3は右へ! 4は俺についてこい! 5と6は左側の路地を叩け!』
クルーガーが矢継ぎ早に指示を飛ばす。
『7、8! お前らは中央をやれ!』
「了解!」
『了解! 童貞のまま死んでたまるかクソが!!』
ブラッドの《ハウンドドッグ》が大型アサルトライフルを構え、照準器に一機の《グヴェン》を素早くロックオン、操縦桿のトリガーを引く。
銃口から放たれた徹甲弾が《グヴェン》の胸部装甲を貫き、敵機が大きく仰け反り、爆散。
『ブラッド!!右だ!!』
「見えてるよ!」
ビルの陰から二機目、ブラッドは期待を旋回しながら敵機との距離を詰める。
「遅ぇ!」
機体の右脇を展開し、アーミーナイフを左手で引き抜き、接近した瞬間、胸部のコックピットブロックに向けて、突き刺す。
グヴェンの巨体が崩れ落ちる、その刹那、警告音。
『ブラッド後ろ!!』
マーカスの警告と同時にブラッドは機体を素早く後ろに振り向かせ、そのまま後方のロケット砲を構えてるグヴェンの銃口にむけてアーミーナイフを飛ばす。
ヒュン!っと、投げたアーミーナイフが空を切り、《グヴェン》の構えたロケット砲の方向へと刺さり、その瞬間、
ドゴォォォォン!!!
発射されたロケット弾が砲身内部で炸裂、誘爆した弾薬ごと《グヴェン》の上半身が爆炎に包まれ、吹き飛んだ。
爆炎の中から、《グヴェン》の残骸が地面へと崩れ落ちる。
「ハァ…ハァ…これで三機目…」
『ウォ!!スゲェ!!さっすがだぜ親友!!』
「油断してんじゃねぇタコ!!」
その時だった、マーカスの乗る8号機の後方にアサルトライフルを向けている《グヴェン》の姿が、
「マーカスしゃがめ!!」
「へ?」
「さっさとしろボケ!!」
そう叫ぶとブラッドは、操縦桿のトリガーを引いた。
それと同時にマーカスがフットペダルを踏み、機体を沈ませる。
その頭上をブラッドの放った徹甲弾が駆け抜け、マーカスの背後にいた《グヴェン》の頭部と立て続けに撃ち抜いた。
装甲板が吹き飛び、火花を散らしながら敵機が仰向けになり、爆散。
『………ブラッド』
「あ?」
『俺、今日だけはお前にブロージョブしてやってもいい!!!』
「その口閉じろ!!反吐が出る!!」
心の中で中指をおっ立てるブラッド。
『いやマジで!!そんくらい助かったぜ!!』
「だったら周り見ろ!!まだ30機はいやがんだぞ!!」
『了解‼』
マーカスの8号機が立ち上がると同時に、再び敵の《グヴェン》がビルの陰から姿を現す。
1機、2機、3機――
「次から次へと……!」
ブラッドの乗る《ハウンドドッグ》はアサルトライフルを構える。
『ハウンド7!そっちに敵が集中してるぞ!』
『ファンがいっぱいでい!人気者はつれぇなブラッド‼』
「全然うれしくねぇファンだけどな」
《グヴェン》全機の照準がブラッドの《ハウンドドッグ》に向けられる。
ブラッドは覚悟を決め、操縦桿を倒した。
ブラッドの《ハウンドドッグ》が地面を蹴る。
――――その刹那、
ズゴォォォォォン!!!
黒い《《何か》》が《グヴェン》の一機に襲い掛かった。
「な、なんだ?」
あまりにも一瞬の出来事で困惑した。
つい先ほどまでライフルを構えていた《グヴェン》が、胴体と下半身の間を真っ二つに引き裂かれている。
上半身が宙を舞い、遅れて下半身が膝から崩れ落ちた。
そして――その向こう側に、《《それ》》はいた。




