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灰森の巣竜  作者: AI太郎
動乱の世界
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幕間:強き者ども

灰森から遥か西。


岩山が連なる荒野の奥に、それは存在していた。


巨大な闘技場群。


崩れた山々を削り、円形に掘り下げられた無数の戦場。

石柱、観客席、訓練場、そして中央には山より巨大な主闘場が広がっている。


武極闘界。


十二災冠――その一柱が治める広大な領域。


その入口に、一体の虎が立っていた。


寅。


覇牙の試練王。


巨体は静かに座り込み、まるで何かを待っているかのように動かない。


風が吹く。


岩砂が転がる。


しかしその周囲だけは妙に静かだった。


魔物がいない。


鳥すら飛ばない。


強者の気配が、空気を完全に支配していた。


そのとき。


声が届く。


耳ではない。


意識の奥へ直接落ちてくる声。


――寅。


寅は目を閉じたまま答える。


「満足したか?」


短い言葉だった。


空の彼方、天星界域の空島から世界を観測している竜――辰が、その言葉を受け取る。


わずかな間。


そして辰の声が続く。


――頼みを聞いてくれたこと、礼を言う。


寅は鼻で息を吐いた。


「気にする必要はない」


声は淡白だった。


感謝されることなど、どうでもいいと言わんばかりの口調だった。


寅は続ける。


「面白い芽だった」

「だから試した」


辰は静かに問いかける。


――どうだった?


寅は少しだけ空を見上げた。


遠く。


灰森の方向。


そこに、まだ未熟な竜の気配が残っている。


寅は言った。


「まだまだ未完成だな」

「本当に彼の者でいいのか些か不安だ」


わずかな沈黙。


そして。


「だが...」


牙がわずかに見えた。


「面白い」


辰はそれを聞いて、また沈黙した。


やがて。


――そうか。


それだけだった。


だがその声には、わずかな満足が混じっている。


未来を観測する辰は知っている。


この芽が。


世界を変える可能性を持っていることを。


その瞬間だった。


空気が震えた。


遠くから、何かが迫ってくる。


音ではない。


衝撃。


空気が押し潰される。


そして。


怒声が落ちた。


「どけェ!!寅ア!!」


大地が砕ける。


岩山が揺れる。


その声が、まるで雷のように荒野を叩き割った。


「どうしてテメエがここにいる!!」


次の瞬間。


一つの影が着地する。


岩盤が割れる。


衝撃で闘技場の外壁が崩れ落ちる。


そこに立っていたのは――


一人の男だった。


頭には仮面。


好々爺の笑みを浮かべた老人の面。


しかし。


その体から放たれる気配は、荒れ狂う嵐のようだった。


金色の羽織が風に揺れる。


十二災冠。


百武の老戦師。


申。


武極闘界の主。


申はゆっくりと歩いてくる。


仮面の奥の瞳が、寅を睨みつけていた。


「……邪魔じゃのう」


打って変わったように声は穏やかだった。

子を思う親のような口調。


しかし。


その怒気は隠しきれていない。


「儂はのぉ」


申は言う。


「弟子の仇を討ちたいだけじゃ」


寅は動かない。


ただ静かに座っている。


申の声が続く。


「可愛い弟子じゃった」


「娘のように育てた」


その瞬間。


声が変わった。


低く。


荒く。


怒りに満ちた声。


「それをよォ……」


大地が砕ける。


申の魔力が荒野を震わせる。


「殺しやがった」


「灰森の竜がよォ」


空気が重くなる。


寅がゆっくり立ち上がった。


申の前に立つ。


その動きは静かだった。


だが。


そこに迷いはない。


申が言う。


「……どけぇぇぇぇぇ糞ねこぉぉぉぉ」


「あの糞がきはぁぁぁぁぁぁ儂の獲物じゃぁぁぁぁぁぁ」


寅は答える。


「その頼みは聞けないな」


申の目が細くなる。


寅は続けた。


「私は私が認めた芽を守る」


それだけだった。


短い言葉。


しかし。


そこにある意味は重い。


申は数秒沈黙した。


そして。


仮面の奥で笑った。


「……ほう」


肩を回す。


その瞬間。


空気が歪んだ。


「儂とやるつもりか」


寅が笑う。


それは。


戦う者の笑みだった。


「最初からそう言っているつもりだが」


次の瞬間。


二体の災冠の魔力がぶつかる。


空が歪み、大地が沈む。


武極闘界の空で。


世界の頂点同士の戦いが始まろうとしていた。


――その結末を、まだ誰も知らない。

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