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灰森の巣竜  作者: AI太郎
動乱の世界
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愚直の一手

断牙の王の身体が地面を滑る。


森の地面が深く削れる。

巨狼の体重と速度がそのまま地形を抉り取っていた。


だが狼は止まらない。


四肢を踏み込み、地面を蹴り、再び跳躍する。


巨虎の前に戻る。


寅はその様子を静かに見ていた。


黄金の体はほとんど動かない。

ただ尾だけがゆっくりと揺れている。


「……また同じ手か?」


低い声が森を震わせる。


断牙の王は唸った。


牙を剥く。


そして次の瞬間、再び地面が爆ぜた。


牙王絶走。


筋繊維を極限まで圧縮し、瞬間的な爆発力へ変換する奥義。

王級頂点種の中でも最速級の突撃が、一直線に寅へ向かう。


森の木々が衝撃で折れる。


巨狼は消えた。


次の瞬間には、寅の側面に到達していた。


爪が振り抜かれる。


岩を裂く一撃。


だが寅はわずかに体を捻るだけだった。


爪は空を裂く。


そのまま巨虎の前足が振り下ろされた。


衝撃。


断牙の王の体が横へ吹き飛んだ。


巨狼は空中で体勢を整えながら着地する。


そしてすぐに踏み込む。


再び突撃。


今度は正面から。


牙が喉を狙う。


だが寅は動かない。


巨大な前足がわずかに下がる。


その瞬間、断牙の王の牙は前足に弾かれた。


衝撃が走る。


骨が軋む。


だが狼は退かない。


そのまま体を捻り、後脚で地面を蹴る。


再び突進。


そして――


巨虎の体が、わずかに押された。


寅の目が細くなる。


「ほう」


狼は止まらない。


突進。


爪撃。


突進。


牙撃。


攻撃はすべて本気だった。

断牙の王は逃げない。


ただひたすら戦っている。


その戦いに、一つの勝機を見いだして。


位置。


狼は攻撃のたびに、少しずつ方向を変える。


吹き飛ばされる角度。

突撃の方向。

着地の位置。


すべてを計算している。


戦場は、ゆっくりと森の奥へ移動していた。


寅はそれを理解していた。


当然だ。

十二災冠は長い時をかけて成長したダンジョンの到達点。

愚かなはずがない。


狼の意図は最初から見えている。


だが寅は笑った。


「乗ってやろう」


低く呟く。


断牙の王は止まらない。


突撃。


牙王絶走。


巨狼は再び消え、寅の背後へ回る。


牙が振り抜かれる。


巨虎は振り返りざまに爪を振るう。


衝突。


衝撃波が森を揺らす。


木々が折れ、地面が割れる。


断牙の王は再び吹き飛んだ。


だが今度の着地点は、さらに奥だった。


洞窟方向。


寅はゆっくり歩き出す。


巨体が地面を踏みしめる。


「良い」


その声には、わずかな愉悦があった。


「実に良い」


断牙の王は立ち上がる。


体はすでに血に濡れていた。


前脚の骨にひびが入っている。


肋骨も数本折れている。


だが瞳は死んでいない。


むしろ、輝きすら見える。


狩人の目だった。


寅はそれを見る。


そして笑う。


「逃げているわけではない」


「戦いながら誘導している」


「本気で戦っているからこそ成立する策」


巨虎は歩く。


狼は再び突撃する。


衝突。


森が崩れる。


地面が裂ける。


巨木が倒れる。


その戦いは、森を破壊しながら奥へ進んでいく。


やがて森が途切れた。


巨大な洞窟の入口。


本来の灰森の竜巣、その入口だった。


断牙の王は着地する。


体はすでに限界に近い。


血が地面に落ちる。


だが狼はまだ構えている。


寅は洞窟を見た。


「なるほど」


低く呟く。


「まだ門番がいるのか」


その瞬間だった。


洞窟の奥から、膨大な魔力が膨れ上がる。


地面が震える。


空気が揺れる。


森の植物がざわめく。


巨大な魔力が一点へ収束していた。


洞窟の奥。


そこに立っている。


巨大な鹿。


翠角の賢王。


その角は樹木のように枝分かれし、そこから膨大な魔力が流れ込んでいる。


寅が森へ入った瞬間。

爆発のような気配を感じてから賢王は魔力を溜め続けていた。


絶望的な戦力差を覆すための逆転の一手。


賢王は動かない。


ただ静かに待つ。


断牙の王が寅を射程へ連れてくるのを。


寅はそれを見た。


そして、わずかに牙を見せて笑った。


「なるほど」


黄金の瞳が細くなる。


「良い連携だ」


その瞬間、断牙の王が最後の突撃を行った。


牙王絶走。


巨狼の体が再び消える。


寅はそれを受け止めた。


衝突。


衝撃。


その瞬間、巨虎の体がわずかに前へ押された。


ほんの数歩。


だがそれで十分だった。


翠角の賢王の瞳が光る。


角が輝く。


地脈が唸る。


森の魔力が一点へ収束する。


そして。


魔力が解放された。

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