表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
灰森の巣竜  作者: AI太郎
動乱の世界
92/148

少年の覚悟と天剣

森の奥から現れたそれは、明らかにゴブリンとは格が違っていた。


二メートルを超える巨体。

丸太のように太い腕。

灰色の皮膚の下で筋肉が盛り上がり、手には粗雑だが巨大な斧を握っている。


オークだった。


ルクスは思わず息を止める。


ここは新人冒険者が訓練をする森だ。

ゴブリンやブラックゴブリンなら珍しくない。

だがオークは違う。森の奥に住む中位魔物であり、普通はこの辺りまで出てこない。


「……なんでここに」


言葉は途中で止まった。


オークが動いたからだ。


巨体が地面を踏みしめた瞬間、森の空気が揺れた。

次の瞬間、斧が横薙ぎに振られる。


ルクスは反射的に剣を構えた。


金属同士がぶつかる。


凄まじい衝撃だった。


腕が一瞬で痺れ、骨が軋む音が体の内側で鳴る。

剣を弾き飛ばされそうになり、ルクスは歯を食いしばって耐えた。


だが力が違う。


体が後ろへ吹き飛ばされた。


背中から地面に叩きつけられ、肺の空気が一気に吐き出される。

呼吸ができない。


視界が白く揺れた。


それでもオークは待ってくれない。


巨大な斧を持ち上げ、今度は上から振り下ろす。

その動作は単純だが、速度と質量が異常だった。


ルクスは地面を転がる。


次の瞬間、斧が地面に叩きつけられた。


土と石が爆ぜる。

さっきまで頭があった場所が深く抉れていた。


「……速すぎる」


巨体なのに、動きが速い。


ゴブリンの比ではない。

まるで巨大な獣が突進してくるような圧力だった。


ルクスは立ち上がる。


だが足が震える。


朝から戦い続けていた。

ゴブリン十匹。


その戦闘で体力はほとんど残っていない。


肩で息をしながら、剣を握り直す。


オークが鼻を鳴らした。


「ブゥ……」


まるで獲物を値踏みするような目だった。


次の瞬間、突進してくる。


木々が揺れる。


ルクスは横へ飛んだ。


斧が空を切り裂き、近くの木に叩きつけられる。

幹が半分以上砕け、木がゆっくり傾いた。


「次当たったら終わりだ……」


ルクスは距離を取る。


オークが追う。


巨体が森を踏み砕きながら迫る。

枝が折れ、草が潰れる。


ルクスは走った。


逃げているわけではない。

考えていた。


正面から戦えば勝てない。


力が違いすぎる。


ルクスは歯を食いしばった。


「……だったら」


森を使う。


ミレナが教えてくれた。


“森では木を味方にしろ”


ルクスは突然足を止めた。


振り返る。


オークが突っ込んでくる。


斧を振り上げた。


ルクスは木の横に立った。


次の瞬間、斧が振り下ろされる。


ルクスは横へ跳んだ。


斧が木に深くめり込む。


巨体の動きが一瞬止まる。


ルクスは踏み込んだ。


剣を両手で握り、全力で振る。


刃が首に当たる。


だが骨に阻まれる。


浅い。


オークが怒鳴る。


拳が振り下ろされた。


ルクスは吹き飛ばされた。


体が地面を転がる。


口の中に鉄の味が広がる。


血だった。


「くそ……!」


立ち上がる。


だが足が重い。


オークがゆっくり近づいてくる。


斧を引き抜き、再び構える。


その姿は圧倒的だった。


ルクスは理解する。


このままでは負ける。


逃げるしかない。


だが。


ルクスは剣を握る。


「……まだ」


一歩踏み出す。


オークが斧を振り上げる。


ルクスは叫びながら突進した。


斧が振り下ろされる。


ルクスは体を捻る。


刃が肩を掠めた。


肉が裂ける。


激痛。


だが止まらない。


そのまま体当たりするように踏み込み、剣を突き出した。


刃が喉に刺さる。


オークの目が見開いた。


ルクスは叫ぶ。


「くらえぇぇ!!」


全力で押し込む。


刃が奥まで入る。


血が噴き出す。


オークの体が揺れる。


巨体がゆっくり崩れた。


地面が揺れた。


ルクスは剣を引き抜いた。


そしてその場に膝をつく。


体が動かない。


呼吸が荒い。


肩の傷から血が流れ続けている。


それでも笑った。


「……勝った」


だがその時だった。


森の奥から音がした。


重い足音。


枝が折れる。


ルクスの顔が凍る。


木々の間から、もう一体のオークが現れた。


倒れている個体を見る。


そしてルクスを見る。


低く唸る。


おそらく番だった。巣を作るために森の浅い域に出てきていたのだろう。


ルクスは剣を握ろうとした。


だが腕が動かない。


体が言うことを聞かない。


オークが近づく。


怒りに満ちた目。


斧を振り上げる。



「……ここまでか」


その瞬間だった。


風が走る。


銀色の閃光が森を横切った。


オークの首が宙を舞う。


巨体がゆっくり倒れた。


ルクスは呆然と前を見る。


そこに立っていたのは一人の男だった。


巨大な剣を肩に担いでいる。


レグナートだった。


男は地面の死体を見る。


オーク二匹。


そして血まみれの少年。


「……やるじゃねえか」


レグナートは肩をすくめた。


そう言ってルクスを担ぐ。


片手で軽々と持ち上げた。


「帰るぞ」


森を出た頃には、夕暮れだった。


酒場の扉が開く。


冒険者たちが振り向く。


レグナートは袋を床に投げた。


ゴブリンの耳。


十匹分。


そしてオークの牙。


酒場が静まり返る。


レグナートは言った。


「条件達成。合格しやがった」


そして笑った。


「今日からこいつは天頂の七星の荷物持ちだ」


歓声が上がった。


その日。


一人の少年が。


天頂の七星の旅に加わった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ