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灰森の巣竜  作者: AI太郎
王国戦
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王の降臨

第四層――界主戦域。


水が落ちていた。


滴ではない。

地下水脈から溢れた海水が、岩壁の裂け目から細い滝となって流れ込んでいる。


水没作戦。


その影響はすでにこの層にも及んでいた。


重い水気を含んだ空気の中、巨大な影がゆっくりと呼吸を繰り返している。


甲殻界主。


漆黒の装甲が何層にも重なった巨体は、まるで岩壁そのもののようだった。

その甲殻の内部では、衝撃を吸収する魔力が静かに循環している。


この層は、甲殻界主の領域。


衝撃を吸収し、力を溜め、そして叩き返す。


防御のために作られた戦場だった。


その静寂が――


突然、裂けた。


空間が歪む。


海水が逆流する。


魔力の奔流が一瞬、層全体を押し広げた。


甲殻界主の複眼が細くなる。


転移。


しかも、通常の個体ではない。


次の瞬間。


空間が破裂した。


巨大な転移門が、界主層の中央に開く。


そこから現れたのは――


一人の人間だった。


巨躯。


岩のような筋肉。


肩に担いだ巨大な剣。


ヴァウデオウス五世。


マーレミア王国の王。


その存在が現れた瞬間、層の魔力がわずかに軋んだ。


王はゆっくりと周囲を見渡す。


「……ほう」


低い声が響く。


「最深層ではないか」


本来の転移先はそこだった。


灰森の竜と、ダンジョン核のいる最深層。


だが。


王はすぐに理解した。


転移座標がずれている。


地下水脈を通じた転移術式は、外からの干渉に弱い。


地形。


地脈。


菌糸。


そして。


地蟲界主の流路操作。


それらが複雑に絡み合い、転移点を歪ませた。


王は小さく笑った。


「なるほど」


「悪くない」


剣を肩から降ろす。


海砕大剣アビスラグナ。


海流と魔力を繋ぐ、王の魔法媒体。


王の視線が前方へ向く。


そこにいた。


甲殻界主。


岩壁のような巨体が、ゆっくりと前に出る。


この存在は、層を離れられない。


それは王にも理解できた。


つまり。


ここは。


この怪物の戦場だ。


王は楽しそうに笑う。


「番人か」


甲殻界主の甲殻が、ゆっくりと展開する。


装甲が重なり、巨大な盾のような形を作る。


衝撃を吸収する構え。


王は剣を軽く振った。


海水が反応する。


地下水脈から繋がる水が、刃へと集まっていく。


「海王断界」


剣が振り下ろされた。


巨大な水流斬撃が甲殻界主を直撃する。


轟音。


岩盤が砕ける。


水圧が爆発する。


甲殻界主の巨体が、数十メートル後方へ弾き飛ばされた。


壁に叩きつけられる。


しかし。


倒れない。


砕けた甲殻の下で、魔力がゆっくりと循環する。


衝撃は吸収された。


王の眉がわずかに上がる。


「……ほう」


甲殻界主が立ち上がる。


巨体が再び前へ出る。


後ろには、何もない。


逃げる必要もない。


ここは、この界主の層。


この戦場で、この存在は退かない。


王は笑った。


「良い」


「実に良い」


剣を構える。


その時。


遠く。


最深層から魔力の波が微かに届いた。


灰色の竜。


そして。


魔人。


王はその気配を感じ取る。


「なるほど」


呟く。


「時間稼ぎか」


王は剣を肩に乗せた。


「ならば付き合おう」


甲殻界主の甲殻がさらに展開する。


装甲が層の床へ食い込み、巨大な壁のように固定される。


防御形態。


反殻。


王は一歩踏み出す。


「1分で片付ける」


静かに言った。

次の瞬間。


アビスラグナが再び振り下ろされた。


衝撃。


岩盤崩壊。


水流爆発。


界主層そのものが揺れる。


だが。


甲殻界主は、退かない。


砕けた甲殻の奥で、魔力が蓄積されていく。


衝撃。


圧力。


水流。


すべてを。


受け止める。


そして。


溜める。


遠く。


最深層。


灰色の竜がゆっくりと翼を広げていた。


魔人が静かに目を閉じる。


「主」


その声は小さい。


「準備をはじめます。」


竜の瞳が、深く光る。


三分。


それだけあればいい。


第四層では。


王と界主の戦いが始まっていた。

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