奪う
巣を深くするほどに、振動は増えた。森の鼓動だけではない。
近い。
浅い掘削の音が混じる。
一定の間隔で、土が削られ、押し出される。私と同じ種の動きだ。
同種は遠くにいる限り、問題ではない。
だが近い。
振動が重なり、通路の壁を通して伝わる距離にいる。
浅い。粗い。だが、近い。
私は上層へ向かう。
地表に近い土は柔らかく、匂いも強い。
嗅いだ。血の残りと、同種の体臭。
入口は広い。
浅い穴がいくつも並び、内部は直線で、隠れるだけの空間しかない。
そこに、一体いた。
私よりわずかに大きい。
体毛は荒れ、爪は欠けているが、目は濁っていない。
こちらを見た瞬間、喉が鳴る。退く気はないらしい。
先に動いたのはあちらだった。
突進。
正面から。
巣を持たぬ個体は力に頼る。
私は横にずれる。狭い通路へ誘う。
だが相手も地中の生き物だ。
追ってくる。
直線の穴から、私の曲げた通路へ。
肩が壁に擦れ、動きが鈍る。
そこで噛みつく。
浅い。
鱗に弾かれる。
反撃の爪が背を裂く。
土が舞う。
互いに体を押し付け、狭い空間で絡む。
息が荒くなる。
牙と爪だけの戦い。
私は一度退いた。
自分の巣へ戻る。
相手は追う。
通路が曲がる。
幅は私に合わせてある。
相手はわずかに広く、肩が引っかかる。
その瞬間、私は振り返る。
顎を喉に差し込む。
深く。
だが相手も噛みつく。
肩に牙が食い込む。
痛みが走る。
引き剥がそうと体を捻るが、狭い。
互いに逃げ場がない。
壁が崩れる。
上層の土が落ち、通路が半ば埋まる。
私は崩れを利用して体勢を変える。
相手の後肢が土に埋まる。
動きが止まる。
そこへ爪を入れる。
血が溢れ、相手の抵抗が弱まる。
それでも最後まで牙は離れない。
やがて力が抜ける。
命が抜ける瞬間、熱が走った。
以前よりも濃い。
鹿より重い。
同種の魔力は、体の奥で溶けるように沈み、消えずに残る。
背骨の付け根が脈打つ。
私はしばらく動かなかった。
肩の傷から血が滲む。
土と混じり、冷える。
通路には死体が横たわる。
埋めることはしない。
巣の奥へ引きずり込む。
壁の一部へ固定する。時間が経てば、土に馴染む。
巣は、奪ったものを取り込む。
地上へ出ると、他の同種の匂いは消えていた。
振動もない。
浅い穴は空いたまま、主を失っている。
私はそこを崩した。
入口を塞ぎ、通路を潰す。
残るのは、私の巣だけでいい。
森は広い。
だが、この一角は私のものだ。
奪ったのではない。
守っただけだと、どこかで思う。
それでも、同種の血の匂いは長く残った。
もし少しでも
「続きが気になる!」
「面白かった!」
と思っていただけたら、
【★★★★★】や【ブックマーク】を押していただけるとめちゃくちゃ励みになります!
それではまた次回!




